大腸がんサバイバーの料理研究家が日々実践「再発転移なく24年過ごした」“腸活”の極意を聞いた

1

2024年12月07日 20:10  週刊女性PRIME

  • 限定公開( 1 )

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

週刊女性PRIME

大腸がんサバイバー重野佐和子さん

30代後半、重野さんは大腸がんにかかった。吐き気や下血などの不調で内科に駆け込むが病巣を見つけられず、腰痛で通っていたカイロプラクティックの先生に異変を指摘されたという。大手術から腸閉塞など、さまざまな困難を経て寛解となってから取り組んだ「二度とがんにならない腸活、そして食生活」。日々実践していることをくまなく伺った。

「ある日、突然の“下血”に見舞われたんです。大量の血がドバッと出て、これは何かおかしいと思いました」

よくある体調不良かなと思った

 そう話すのは、24年前の38歳のときに大腸がんになった料理研究家の重野佐和子さん。すぐにかかりつけの内科を受診するも、痔ではないかとの見立てでしばらく様子を見ることに。その後、下血はなかったが、当時悩んでいた腰痛の改善で通っていたカイロプラクティックの先生に“普通ではない”とその場で大腸肛門科の検査予約を促された。

「内科で診てもらっていたし、いいほうに考えたい気持ちもあって自分では大丈夫かなって思っていたんです。このときに背中を押してもらわなければ、検査には行かなかったかもしれません」

 検査では、下部内視鏡で直腸からS字結腸まで観察。

「モニターで腸の内部を見ながら検査を受けたんですけど、中が真っ赤なんです。なんで赤いんだろうと思っていたら“出血です”と。さらに、うちではこれ以上の検査ができないので、大学病院を紹介すると言われて、ショックのあまり失神してしまいました」

 そのときの医師の表情から“これはがんだな”とうっすら覚悟したという重野さん。後にして思えば、前兆のようなものがいくつかあったと語る。

「緊張すると下痢をしやすいタイプで、よくガスがたまってお腹が張ってカチカチになることや、お腹が異常に冷えた感覚のときがあって。時にはひどい吐き気もあったのですが、胃が悪いのかなと思ったり、休んだり薬を飲めば治るので、疲れかなと思っていました」

 先に挙げた腰痛も、そのころがいちばんひどかったそう。

「骨盤ではなく胃の下の裏側あたりに痛みがあって、それをほぐしてもらうためにカイロに通っていたんですね。当時はまだ30代ですし、それらの症状ががんとは結びつきませんでした」

 “がんから生き抜きたい”という強い思いから、治療先はがん専門の病院を希望。詳しい検査の末、そこですぐに手術が決まった。がんの進行度は今でいうステージ3。腹部を20数センチ開腹する大がかりな手術で、直腸の病巣を切除した。その後の病理検査でリンパ節への転移があることを知るが、抗がん剤治療の選択はしなかったという。

「一つには、当時はまだ効果が明らかではなくて。ぜったい助かるんだったらいいけど、明らかじゃないことはやりたくないなって。副作用で口内炎ができることや吐き気の可能性があることもネックでした。美味しいものも食べられないし、食が大変になることはやりたくなかったんです」

突然、腹痛に襲われて……

 術後はさまざまな身体のダメージに苦しんだ。

「2週間ほどで退院したのですが、傷の外も中も痛いし、歩くことも、満足に食べることもできない。何より排便が大変で、私の中では“がんより便”の問題が先決。その時は、抗がん剤治療をしてがんの再発に備えることよりも、目の前の術後のつらさをどう乗り切るかのほうが大事だったんです」

 やがて少しずつ体調も回復していき、徐々に普通の食事もとれるようになっていった。だが、突然の腹痛に襲われる。腸閉塞だった。

「3か月後の検診で主治医から“ずいぶんよくなりましたね”と言葉をかけられた矢先でした。手術の合併症のひとつで、腸管が癒着してしまったんです。シェイク用のストローのような太いチューブを鼻から大腸まで差し込んで行われる痛くてつらい治療で、3週間ほどの入院で、ごはんも食べられないし、体重も減ってしまって」

 がんの手術よりつらかったというこの時の経験が契機になって、“がんに負けない身体づくり”を意識するようになる。

「気力や体力が衰えたことで、そこにがんがつけ込んで再発するかも、と恐怖を覚えたんです。“腸を元気にして大腸がんの再発を予防すること”を最大限に意識して食生活を見直しました」

 まず心がけたのは便秘や下痢をしないこと。

「ありきたりですが、3食規則正しく食べることが大切。どんなに忙しくても食事を抜かず、できるだけ決まった時間に食べることで腸のリズムが整い、お通じもよくなります」

 次にお腹をいたわる食事をすること。おすすめは、食物繊維やヨーグルトなどの発酵食品。

「ただ、退院後は、ごぼうや玄米などの不溶性食物繊維や海藻類は消化不良を起こして腸閉塞の引き金になるので、里芋やもち麦など消化のいい水溶性食物繊維を選びました。もちろん個人差がありますから、自分のお腹に合ったものを食べるのがいいですが、同じものばかりだと偏ってよくないのでバランスよく食べることも大事です」

 腸内環境が整ってきたら、少しずつ腸の力を鍛えていく食事に移行する。

「お腹にやさしいものだけでは腸の力が弱くなってしまうので、ごぼうや海藻などどんなものでも食べるようにしました。繊維が大きいとお腹への刺激が強いので繊維を断ち切るように細かく刻んだり、やわらかく煮たりして刺激を少なくしながら普通の食事に戻していきました」

 同時に、よく噛むことも意識したそう。

「人の何倍も時間をかけてゆっくり食べました。二度とあんな思いはしたくないっていう恐怖心がありましたから。でも恐怖心だけだと食事がつまらない。なので、美味しく食べられるレシピを工夫したり、家族や友人と食卓を囲んで楽しく食べることも大切です」

30代より60代のほうが元気

 腸にいい生活はその後も継続している。

「私は腸が弱いっていうのがわかっているので、過食は控えて、バランスよくいろいろ食べつつ、ヨーグルトなどの発酵食品や野菜、フルーツは積極的に食べて、水分もよくとるようにしています」

 ムリなく腸活を続けるためには常備菜がおすすめ、と重野さん。

「毎日作るのは大変なので、まとめて作ってストックしておくんです。それをちょっとずつアレンジして取り入れると継続しやすいです」

 軽い運動も習慣化したそう。

「運動は大嫌いでまったくやってこなかったんですが、再発予防に効果があるというので、犬を飼い始めて一緒に散歩や山登りに行くようになりました。それまでは体力がなくて呼吸が浅かったのが、みるみる改善していくのを実感しました」

 生き方にも変化があった。

「嫌な人との付き合いや嫌いなことはしなくなりましたね。闘病でただでさえ大きなストレスを抱えていたので、ストレスになることは避けたかったんです。身体の回復を最優先にして、わがままでよし、としました」

 好きな人やモノ、時間に囲まれて過ごすことは、闘病中は特に大切だったと語る。代わりに、自分が役に立てることや情熱が注げることであれば、精いっぱいやるべきと考えるようになったそう。

「腸の健康や術後の食事の勉強を20年ほどやってきて、その間、大腸専門の先生方のお話もたくさん伺いました。腸と病には関連があることがわかっているので、自分の得た経験や知識はこれからもシェアしていきたいです」

 がんから約25年、好きなことを仕事に、現在も健康な日々を過ごしている。

「10年で“大腸がんから卒業”と言われましたが、再発も転移もなく現在に至ります。年齢的に衰えてきているところはもちろんありますが、30代のころより今のほうが心も身体も元気なくらい(笑)。今後は犬の腸活についてもお伝えしていけたらと思います」

 新たな挑戦も、健康な心身があってこそ。

重野流 腸活常備菜

さつまいもと切り昆布の煮物

レジスタントスターチの多いさつまいもと水溶性食物繊維の多い昆布を一緒にとります。冷たいまま食べるとさらに腸活力アップ。

きゃべつとにんじんのサラダ

きゃべつとにんじんのせん切りを塩とアップルビネガーでもんで保存し、だんだん発酵するサラダ。オリーブオイルとこしょうをかけたり、白だしをプラスして漬物風にしたり、マヨネーズであえたりとバリエーション豊富。

おからのグラノーラ

オートミールとおから、ドライフルーツで作った不溶性食物繊維と発酵性食物繊維たっぷりな腸活アイテム。必ずフルーツとプレーンヨーグルトと一緒にとり、食物繊維と乳酸菌を一緒に食べるよう心がけている。

重野佐和子さん●20代でフランス料理研究家となり、料理教室やフードビジネスに携わる。がんの治療後は、自身の体験をもとに術後の食事を研究し、腸活料理研究家として活動。著書に『大腸がん手術後の100日レシピ』など。

取材・文/荒木睦美

    ランキングライフスタイル

    前日のランキングへ

    ニュース設定