自民党員になった覚えがないのに、総裁選の投票用紙が届く…“幽霊党員”問題を検証 「党員を見繕った」渦中の国会議員の音声データを入手【報道特集】

8

2024年12月07日 20:50  TBS NEWS DIG

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

TBS NEWS DIG

TBS NEWS DIG

国会で政治とカネの議論が今も続く中、新たな問題です。
自民党員になった覚えがないのに、ある日突然、総裁選の投票用紙が届く…幽霊党員の問題が富山で起きています。

【写真を見る】入党の申し込みをしていないのに届いた「投票用紙」

チューリップテレビが独自に入手した国会議員の音声から、この問題を検証します。

「党員でも何でもないんですけど」送られてきた総裁選の投票用紙

「よって石破茂くんをもって当選者と決しました」

9月に行われた自民党総裁選。
事実上の総理大臣を決める選挙だ。自民党の国会議員と党員・党友による投票で行われる。決選投票で石破氏が1位だった。

有権者に占める自民党員の割合が全国トップの富山県。その富山県で驚くべき疑惑が浮上した。

党員にされた男性
「なんでこんなたくさんあるのかなっていうのをまず初めに思って、名前確認していたら、名前の全く違うハガキが何枚もきているんですよ。僕、党員でも何でないんですけど」

本来、自民党の党員以外には届かないはずの総裁選の投票用紙。
それが党員になった覚えのない男性のところに送られてきたのだ。

富山のチューリップテレビが、10月4日に幽霊党員疑惑を報じると。

田畑裕明 衆議院議員
「概要含めてもちょっと私詳細は把握してございませんが」

疑惑の渦中にいるのは自民党の田畑裕明衆議院議員だ。
幽霊党員とは一体どういうことなのだろうか。

田畑議員 裏金議員、旧統一教会との関係…新たに“幽霊党員”問題が浮上

岸田内閣で総務副大臣を務めた、富山1区選出の田畑裕明衆議院議員。

田畑裕明 衆議院議員
「この度、副大臣を拝命いたしました田畑裕明と申します。総務省行政をしっかり前に進めたいと思います」

旧安倍派に所属。派閥の政治資金パーティーを巡り、収支報告書に68万円の不記載が発覚した、いわゆる裏金議員だ。さらに、旧統一教会と深い関係があった。

当初は選挙応援を否定したが、2017年の衆院選では、旧統一教会の礼拝堂で総決起大会が開かれるなど、関連団体から組織的な選挙応援を受けていた。

田畑裕明 衆議院議員
「党の方針に従い今後、団体との関係は一切持ちません」

2024年6月には、政治資金パーティーを巡る問題が国会で取り上げられた。案内状に「ご出席」「ご欠席」という表記以外に「ご入金のみ」という項目を設け、これが「寄付」の呼びかけにあたると指摘を受けた。

立憲民主党 村田享子 議員
「『ご入金のみ』なんですよね、これ。これはパーティーには出席しないけれども、入金はするということですよね。これ、明らかにパーティの会費ではなく、『寄付』を呼びかけるものだと考えますが」

岸田文雄 総理(当時)
「これはまず議員本人が適切に説明責任を果たすことが重要であると考えております」

田畑議員はパーティーの開催を中止。謝罪会見を開いた。

自民党 田畑裕明 衆議院議員
「今回の未熟な判断に対しまして、心よりお詫びを申し上げます。誠に申し訳ございませんでした」

そんな田畑議員に、新たに浮上したのが幽霊党員疑惑だ。幽霊党員にされたという男性が取材に答えた。

党員にされた男性
「こんなになんか知らない名前で(投票用紙が)来るのちょっと気持ち悪いというか、何で俺なんだろうっていう」

これが自民党の入党申込書だ。党員になるには、氏名や住所などを記入すればよい。党費は年間4000円。家族党員は半額の2000円だ。

男性は入党の申し込みをしていないにもかかわらず、自身と見覚えのない名前の家族の分、合わせて6枚の投票用紙が自宅に届いた。

自民党富山県連に問い合わせた。

党員にされた男性
「調べるんでしたら、じゃあ誰の紹介で僕が入っているのか。そもそも名前違うもの来てて、こんなの僕正直迷惑っていうのもあれなんですけど、(党員を)辞めたいんですけど」

田畑議員を支援する企業の関係者が取材に応じた。この支援者は10年ほど前、従業員名簿を田畑議員に頼まれて渡したという。

チューリップテレビが幽霊党員問題を最初に報じてから6日後、田畑議員が支援者に電話した時の音声データが残っている。

「多分架空に近いと思う。ゆみこ、ゆういち、のぶお…」田畑議員が自ら支援者に説明した音声データ

田畑裕明 衆議院議員(音声データ)
「ちょっと会えるかなと思って、ちょっと説明させてほしいなと思ってね。名簿が元々存在しとんねかね。あの、で、これ経緯をいろいろ調べていると、元々あの最初のころ10人ぐらい(自民党に)入っていただいてたのね」

田畑議員は支援者から入手した従業員名簿をもとに、無断で党員登録をしていたことをほのめかした。

田畑裕明 衆議院議員(音声データ)
「俺記録みるとね、平成29年(2017年)からどーっとその御社の名前の社員の方で党員登録しているのね、実は。うちの秘書がその時やっぱり、党員さんを増やさなきゃいけないって言った時に、見繕ったわけなんやちゃね。見繕って入っていただくことになったと」

音声データの中で「党員を見繕った」と田畑議員は話している。さらに、実在しない架空の人物もいたという。

田畑裕明 衆議院議員(音声データ)
「多分架空に近いと思う。ゆみこ、ゆういち、のぶお、のぶこ、ようこって書いてあるんだけど、そこは生年月日とか書いてないから、おそらく架空の方なんだと思うんだよね」

支援者(音声データ)
「まだいっぱいいるんじゃないか?」

田畑裕明 衆議院議員(音声データ)
「いっぱいおる、いっぱいおる、もちろんいっぱいおるから、きりないから」

架空の党員が大勢いると話していた田畑議員だが、この電話の3日後、幽霊党員問題について報道陣が尋ねると…

Q.ご自身の選挙区でこういった問題が起きたことについてどう受け止めていますか?

田畑裕明 衆議院議員
「概要含めてもちょっと私、詳細は把握してございませんが…」

そもそも、なぜこんなことが行われたのか。

“幽霊党員”登録の背景に「党員獲得」のノルマか

2014年、自民党は党勢拡大を目指し、所属する国会議員一人につき、党員1000人を獲得するよう号令をかけた。旗振り役は当時、幹事長だった石破氏だ。

自民党 石破茂 幹事長(当時)
「党員の拡大に向けて本年は全力を挙げて取り組んでまいります」

ノルマ未達成の議員には、不足した党員分一人につき2000円が徴収された。

自民党 二階俊博 幹事長(当時)
「きちっと党の決まりを実行している人と、いい加減に受け止めておる人との間に、ちゃんとやっぱりけじめをつけてやるのがいいんではないか」

こうした党勢拡大の動きが、幽霊党員問題につながったのだろうか。

「おじが党費の肩代わりをしたことにしよう」口裏合わせを頼んだ実態も

音声データからは、党費の支払いを巡り、田畑議員が支援者に口裏合わせを頼んだ実態も浮かび上がった。

田畑裕明 衆議院議員(音声データ)
「申し訳ないけどポケットマネーで、名前もちょっと違う名前になっとったんだって言い切ってもらうしか、それしかないんだよね」

田畑議員は幽霊党員の党費について、この支援者が支払っていないにもかかわらず、支払ったことにしてほしいと頼んだ。

Q.それ聞いた時はどう思いました?

支援者
「いやびっくりしましたし、正直に関わりたくないっていうことを本人には伝えました」

支援者が断ると、数時間後にまた田畑議員が電話をしてきて、こう説明した。

田畑裕明 衆議院議員(音声データ)
「会社からさ、献金をいただいとるねか。(会社名)から」

支援者(音声データ)
「うんうん」

田畑裕明 衆議院議員(音声データ)
「そのお金をこの党費にも充てさせてもらっとったんやちゃ。だから皆さん方は一人一人お金出しとらんがだけど、こちらは会社からいただいたのは党費として預かったという解釈で、党費を納めとったわけやちゃ」

企業献金を幽霊党員分の党費の支払いに充てて、田畑議員側が肩代わりしていたと説明した。企業献金は田畑議員が代表を務める政党支部に振り込まれ、収支報告書の収入の欄には「寄付」と記されていた。

しかし、問題があった。支出の欄に「党費」の記載がないのだ。これでは政治資金規正法に違反する可能性がある。田畑議員は…。

田畑裕明 衆議院議員(音声データ)
「善意の別の第三者の方が全額負担してくれてたんだっていうことにしようと思う。(支援者の名前)じゃなくてね」 

この善意の第三者とは、4年前に亡くなった田畑議員のおじのことだ。支援者ではなく、おじが幽霊党員分の党費を支払っていたことにするという。

田畑裕明 衆議院議員(音声データ)
「事務所として(おじの名前)おじさんに相談したところ(党費が)払えんというか、なかなか難しいがならば俺が面倒見てやるよっていって、払っていただいたという流れを言おうかなと思うんです。対外的には。今初めて言っとるんだけど」

田畑議員は、対外的には、おじが党費の肩代わりをしたことにしようと話した。支援者にこの時のことを尋ねると…。

支援者
「まあとんでもない話だと思いましたね。国民とか県民の代表として出てる政治家が、そんなことをよく言えたもんだなと」 

専門家「どう考えても政治資金規正法違反」田畑事務所「法令に則り適切に処理している」

政治資金規正法に詳しい専門家は、収支報告書の虚偽記入や不記載にあたる可能性が高いと指摘する。

神戸学院大学 上脇博之教授
「(党費として)ここから出たはずですね。そうするとその出が書いてないということは、明らかに虚偽記入になってしまうし、不記載にもなる可能性もあると思いますが、いずれにしても計算があわないですよね。どう考えても政治資金規正法違反」

また、もし田畑議員側が幽霊党員分の党費を肩代わりしていたとすれば、公職選挙法が禁じる選挙区内の有権者への寄付に当たる可能性がある。

上脇教授
「だから幽霊党員自体がもう大問題ですよ。党員の人は、本来負担しなければいけない党費を払わなくて済むわけですから、党員としての一定の利益を得る可能性ががありますよね」

10月27日、衆院選投票日。

田畑議員は738票という僅差で5選を果たした。相次ぐ「政治とカネ」の問題で批判を受けた末の、薄氷の勝利だった。

この選挙期間中も、チューリップテレビは田畑議員への取材を続けていた。

Q.自民党員の党費を会社からの寄付金から充てていたという話、事実を確認したくてですね

田畑裕明 衆議院議員
「とんでもないです。またお話しさせてください」

Q.ご自身の党員登録の関与を隠ぺいしたという話もあるのですが、そのあたりは?
「…」

田畑事務所に改めて質問状を送ると。

田畑事務所からの回答
「党員登録については、法令に則り適切に処理をしております」

幽霊党員が100人前後いること、自身の音声データであることも認めるも…

チューリップテレビは11月15日、田畑議員の名前を初めて出して幽霊党員問題を報じた。するとこの3日後、急きょ会見を開いた。

自民党 田畑裕明衆議院議員
「大変皆様にご心配をおかけしておりますこと深くお詫び申し上げる次第であります」
「不適切な党員登録であろう方々の人数は、約100名前後ではなかろうかと思われます」

いわゆる幽霊党員が100人前後いることを認めたが。

自民党 田畑裕明衆議院議
「本件の報道に関しまして、一部私が関与していた報道がございますが、私の見解を申し述べますが、私は関与しておりません」

Q.田畑さんご本人の音声データで間違いないでしょうか?

自民党 田畑裕明衆議院議
「音声テープは私自身の声だというふうに認識しているところであります」

自分の声だと認めたが、自身の関与については最後まで否定した。

11月28日、臨時国会が召集された。
最大の焦点は企業・団体献金禁止の是非だ。

立憲民主党 野田佳彦代表
「改革の本丸である企業団体献金の禁止をなぜ議論の俎上に載せようとしないのですか。端的にお答えをいただきたいと思います」

石破総理
「わが党としては、企業団体献金自体が不適切であるとは考えておりません」

論戦が交わされる中、新たな火種となりかねない問題を抱えているのが、田畑議員だ。

自民党本部からも説明責任を果たすよう求める声が上がっていた。

自民党 鈴木俊一総務会長
「政治家は疑念をかけられたら、説明責任を果たさなければいけない。ご本人にはですね、しっかりとした説明をしていただく必要がある」

富山市民
「私たちは議員辞職を求めます」

さらに、市民からも怒りの声が上がってきた。

富山市民
「このような不正を繰り返す人を国会議員として認めることはできません」

田畑議員が2度目の会見を開いた。

2度めの記者会見で「4割近くが無断・架空の登録」認める 自らの関与は否定

自民党 田畑裕明衆議院議
「調査の結果、合計262名分につきまして不適切な党員登録、党費の支払いが認められました」

田畑議員の事務所が管理する党員701人のうち、不適切な党員登録は262人だと述べた。実に4割近くが無断または架空の登録で、ほとんどが2つの支援企業の従業員などだった。

不適切な党員登録は2015年から田畑議員の親族が始めたと言い、年間60万円にのぼる党費は、この親族が肩代わりし、2020年に亡くなってからは田畑議員の父親が引き継いだと説明した。

自民党 田畑裕明衆議院議
「田畑事務所におきまして管理しておりました多数の党員に関し、入党意思を確認せず、党費も第三者が支払うという不適切な取り扱いをしてしまったことは事実であり、私自身、管理が不十分であったと猛省しております」

反省しているとしながらも、自らの関与については否定した田畑議員。 
音声データで企業献金を党費に充てていたと、支援者に説明していたことをただすと。

自民党 田畑裕明衆議院議
「そのような事実はございません」

Q.改めて、そのときになぜ企業献金を充てていたという説明になってしまったのか

自民党 田畑裕明衆議院議
「まあ非常に私の相手の学生時代からの旧知の仲である支援者に対してですね、気安さもあり、非常に慌てた心境の中でお話をしてしまった。極めて軽率であったというふうに反省をしております」

さらに、音声データにあった支援者への口裏合わせについて聞くと。 

Q.音声データの中で最後の望みは、支援者しかいないと。ポケットマネーで党費を支払っていたことにしてほしいと、支援者の方にお願いする場面がございました。それを断られたから親族が党費を支払っていたという、そういう筋書きにしたのではありませんか」

自民党 田畑裕明衆議院議
「そういう事実はございません」

Q.親族の方、亡くなっておられるので、こちらとしては真偽の確かめようがないわけですね。なので何か客観的な証拠というか物証みたいなものがあれば示していただきたい

自民党 田畑裕明衆議院議
「特段ございませんが、調査におきまして、冒頭申し上げました第三者の専門家の調査を受けまして、そこも含めて今お答えをさせていただいているということで、ご理解いただきたいと思います」

自らの言葉が真実だとしながらも、親族が党費を肩代わりした客観的な証拠はないとした。田畑議員は政治不信を招いた責任をとり、党の国会対策副委員長を辞任したが、議員辞職については否定した。

司会
「時間も超過しております。本日はこれで終了とさせていただきます」

記者たち
「有権者納得しないですよ」
「しっかり答えてください」
「説明責任を果たしたと言えますか」

政治とカネについて反省したはずの自民党に新たに浮上した幽霊党員問題。
その影響が広がり始めている。

このニュースに関するつぶやき

  • 民主主義への挑戦者にして御利用者。 「党の方針」なんじゃね?
    • イイネ!0
    • コメント 0件

つぶやき一覧へ(5件)

前日のランキングへ

ニュース設定