“AIを使う人”が取り組むべきリスキリングとは? ベネッセの会見から「AI時代の必須スキル」を探る

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2024年12月10日 09:21  ITmediaエンタープライズ

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ベネッセコーポレーション 執行役員 社会人教育事業領域担当の飯田智紀氏(筆者撮影)

 働き方の変化やDX(デジタルトランスフォーメーション)の進展などにより、従業員が必要なスキルを習得する「リスキリング」に取り組む企業が増えつつある。ただ、生成AIやAIエージェントがこれから個人や組織のさまざまな業務を支援し、自動化していくと見られる中で、人間はこれからどんなスキルを身に付けていけばよいのか。


“AIを使う人”が取り組むべきリスキリングとは? ベネッセの会見から「AI時代の必須スキル」を探る


●企業が取り組むリスキリングの成果とは


 ベネッセコーポレーション(以下、ベネッセ)が2024年12月4日にリスキリングの現状と同社の取り組みについて記者説明会を開いたので、「AI時代のリスキリングはどうあるべきか」についても聞いてみた。


 「企業はこれからリスキリングに経営戦略として取り組んでいくべきだ」


 ベネッセで社会人教育事業領域担当の執行役員を務める飯田智紀氏は、会見でこう強調した。


 同社は「Udemy」というブランドのオンライン動画学習プラットフォームを個人および企業に展開し、リスキリングの支援に力を入れている。


 ただ、取り組む企業が増えてきたとはいえ、帝国データバンクが2024年11月20日に発表した「リスキリングに関する企業の意識調査(2024年)」によると、リスキリングに積極的な企業は全体の26.1%である一方、取り組んでいない企業が46.1%と、本格的な動きはこれからといった状況だ。業種によって取り組み度合いに違いがあることも分かった(図1)。


 この調査結果について飯田氏は、「われわれの肌感覚も同様だが、積極的に取り組んでいる企業はリスキリングを経営戦略として推進している。こうした企業が増えているのも実感している」との見方を示した。上記の「経営戦略として取り組んでいくべきだ」との発言はこの見方に基づくものだ。


 その上で、同氏はユーザー企業の声を踏まえて、「リスキリングの認知は相応に広がっているが、実際に企業や組織の成長につながっているのか」との問題意識を挙げた。つまりは「リスキリングの成果が出ているのかどうか」ということだ。そこで、同社はリスキリングの成果について、「社会の変化に伴い事業を変革しようとする企業が従業員の心に火を灯し、学びを通じたビジネスインパクトを出しているかどうか」を評価基準とし、5段階からなる成長ステージを作成した(図2)。


 飯田氏はこの成長ステージについて、「5段階の内容を見ると、レベル5の『経営インパクトのある人材投資効果の創出』に目が行きがちだが、企業として重要なのはレベル1の『環境の整備』やレベル2の『従業員のマインドの変容』を促すことでリスキリングを積極的に行う風土作りだ。そこにしっかりと取り組むことが、レベル3から4、5へと組織的な変容につながる」と説明した。


 同氏の説明を聞いて、筆者は企業におけるリスキリングの取り組みが「個人の変容が組織の変容につながる」ことを改めて認識した。現状ではむしろ、まず組織を変容させて個人をむりやり変容させようとしているところが多いのではないか。これは大事な捉え方だと感じた。


●AI時代に人間に求められるスキルとは


 飯田氏はさらに、リスキリングによる企業や組織の成長につながる重要な要素として「戦略」「文化」「ラーニングヒーロー」の3つを挙げた。以下、それぞれのポイントを記しておこう。


●[戦略]


1. 目的や方針が中期経営計画やトップメッセージとして重要な位置付けにある


2. 従業員の学びを促進する仕組み化によって、戦略的に施策が実施されている


3. リスキリングの成果に対する報酬が人事制度や育成方針などに組み込まれている(ただし、金銭に限らない)


 ここで最も重要なポイントは1番目、つまり「経営戦略としての取り組み」かどうかだ。


●[文化]


1. 推進部門が従業員の施策や成果を可視化し、変化の推移や成果を観測できている


2. 従業員が学んだ結果のアウトプットが組織内で生かされている


3. 学んだ社員が、自律的にキャリア開発したりオープンポジションに挑戦するなど、異動や配置に生かされた経験がある


 飯田氏によると、「文化は戦略と比べて中長期的な視点で取り組んでいる企業が多い」とのことだ。


●[ラーニングヒーロー]


1. 学びを推進するラーニングヒーローがいる


2. ラーニングヒーローを中心にコミュニティやイベントが発足し、それを組織が支援している


3. 学んだ人間や成果にスポットライトが当たる仕組みがある


 飯田氏によると、ラーニングヒーローとは「学びによって自らの行動を変え、それが周囲にもインパクトを与えるような存在」で、「若手もシニアも世代に関係なく生まれてきている。こうした存在を企業が意図的に生み出し、支援し、波及効果を作り出すかが重要で、そこは戦略ともひも付いている」とのことだ。


 こうした3つの要素の動きを踏まえ、飯田氏は「それぞれの動きとともに個人の学習や組織の取り組みをどのように組み合わせていけば、さらに効果的なリスキリングを実行できるかどうかを、学習の履歴データやエンゲージメント調査などから科学的に解析することに挑んでおり、何らかの解明ができれば改めて発表したい」と述べた(図3)。


 もう一点、会見で開示された情報の中から、Udemy受講者によるリスキリングの2024年の学習ランキングを世代別にみた図4を紹介しておこう。


 リスキリングの学習内容は企業ごとに異なるため、このランキングはあくまで参考として見ていただきたい。生成AIの「ChatGPT」が全世代で1位、DXが総合2位と、やはりデジタル技術が対象となることが圧倒的に多いようだ。


 そこで筆者は会見の質疑応答で、冒頭で述べたAI時代のリスキリングにおける問題意識について質問した。すると、飯田氏は「AIのリスキリングは『AIを使う人』と『AIを作る人』によって異なる」として両方について説明した。「AIを作る人」についてはエンジニアの領域になるので、ここでは「AIを使う人」についての同氏の説明を紹介する。


 「AIを使う人にとってのリスキリングでまず挙げられるのは、生成AIを使いこなすためのプロンプトをきちんと書けるようになることだ。これはこれから非常に重要なスキルになるだろう。生成AIに要望を出すためのプロンプトは国語そのものであり、文章構成やロジカルシンキングの能力を高める必要がある。さらに、AIはこれからあらゆるところに組み込まれるので、それを使って何がしたいのかといったクリエイティブな発想が求められる。そうしたスキルを磨いていくことが重要になるだろう」


 これからはAIによって、デジタル化された作業はどんどん自動化していく。言い換えると、今PCで実施している作業はAIによって自動化される。そうなると、人間に求められるスキルはクリエイティブな領域だ。全ての人間がそのように動けるかどうかという懸念はあるが、リスキリングでそのスキルをどのように磨いていくかが今後非常に重要な課題になるだろう。その意味では飯田氏の問題提起に筆者も全く同感だ。


 AI時代のリスキリングにおける課題は浮き彫りになってきた。どう対処していくか。知恵の出しどころである。


○著者紹介:ジャーナリスト 松岡 功


フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身。



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