プロゴルファー・香妻陣一朗インタビュー 前編(全2回)
2023年12月に行なわれた予選会で、2024年のLIV ゴルフ出場権を得た香妻陣一朗は、今シーズンをケビン・ナ(米)が率いる『アイアンヘッズGC』の一員としてプレーをした。同チームは当初、2025年シーズンはケビン主将以外の3選手を韓国人選手で構成する方針を打ち出していたが、ここにきて、来季も日本の香妻が同チームのメンバーとしてLIVゴルフに参戦することが発表された。
世界のゴルフ界が注目するLIVゴルフに2022年から参戦し、来季も契約が決まった香妻陣一朗。フル参戦したLIVでの2024シーズンを振り返るとともに、プレーヤーとして肌で感じたLIVの凄みを語ってもらった。
【来季もLIVが主戦場に】
――来季もLIVゴルフの『アイアンヘッズGC』との契約が発表されました。おめでとうございます。
香妻(以下同) ありがとうございます。
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――再契約の話を聞いた時の感想は?
日本で練習をしている時に、いきなりチームから電話が来て、どうしても話したいことがあるんだけど通訳が必要な話だから、タイミングをみてグループ通話をしたいと言われて。のちに、キャプテンのケビン・ナから「残れることになったから」って言われ、向こうの時間で(電話を)かけてきたから、こっちは夜中だったんですけど(笑)、ものすごくうれしかったです。実はこの話、(取材日時点で)まだ家族にもできていないんですよ(笑)。
――LIVのメンバーとして、2025シーズンへの意気込みや抱負を聞かせてください。
2024年は『アイアンヘッズGC』のメンバーになって、環境も変わり、慣れるまで時間がかかりましたけど、シーズン最後のほうはけっこういいプレーができていたので。
来季は(フル参戦が)2年目ですから、もっといいパフォーマンスができると思うので、優勝したいです。
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――来季を迎えるにあたって、2024年シーズンを終えて感じたことはありますか?
本当にレベルが高くて層が厚いという印象です。日本の試合で優勝するくらいのプレーをしないと、トップ10にも入れない。
――今年の夏に日本ツアーの「Sansan KBCオーガスタ」で優勝した時も、最終日に自身が想定していた優勝スコアより5打少ない結果に、「こんなゴルフをしていたんじゃLIVでは通用しない」という発言されていましたね。
そうですね。正直、「このゴルフでこの順位(優勝)なんだ」って思いました。
向こうでは本当にいいゴルフをしないと上位に行けないので。レベルの差はすごく感じています。
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【賞金が高いということは、トップ選手がそこを目指してくる】
――当初は、LIVに対して懐疑的な意見を含め、さまざまな声もあったと思いますが、改めて、LIVに挑戦しようと考えたきっかけを教えてください。
より良いステージでプレーをしたいという気持ちがあって、それがLIVでもUSPGAでも、DP(ヨーロッパツアー)でも、僕の中では良かったんです。LIVができた最初の年(2022年)に、その時点での自分のワールドランキングのポイントでLIVに出られると知って、3試合に出場しました。それで、このLIVのフォーマット(個人戦以外にチーム戦もあるなど)は面白いなと感じ、ここでプレーしたいなと思ったので、以前から出たかったUSPGAよりも、まずはLIVに出たいという気持ちに変わりました。
――LIVは、サウジアラビアの政府系ファンドの資金を背景に、桁違いの賞金額が話題を呼びました。移籍選手は「お金のため」と見られることもあったと思いますが、そのあたりの反響はどうでしたか?
確かに、お金に注目が集まることは多いですけれど、賞金が高いということは、トップの選手たちがそこを目指してくるということでもあるので、自ずといい選手たちとプレーできる機会が多くなります。
もちろん、成績に応じて入る賞金も魅力ではあるんですが、そういった世界のトップ選手とプレーできるというのが、僕の中では一番大きかったと思います。
――実際に、世界のトップ選手たちと間近に接する機会が増えたことで、どんな刺激を受けていますか?
実際、トップ選手たちと接する機会は多くて、ホテルもみんな一緒で、ホテルのジムに行くのも一緒、夜ご飯も同じ場所で食べます。なにより、LIVはスタート時間がみんな同じ(全組が同時にスタートするショットガン方式)なので、朝の練習場も一緒、ホールアウト後のケアも一緒で、動く時間がみんな一緒なんです。アメリカのPGAも日本のツアーも、スタート時間が違うと、選手同士ほとんど顔を合わせなかったりするので、トップ選手とこれだけ密に交わることって、たぶんないと思うんですよね。
でも、LIVだとそういったトップ選手とまったく同じ行動をするので、(ジョン・)ラームが朝どんなアップをして、ホールアウト後にどんなケアをしているとか、朝は何を食べているのかまで全部わかるので。そういうのがすごく参考になるというのはありますよね。
――トップの選手の中にいると、自分の潜在能力がアップするとも言われますが、まさに今、世界のトップと一緒にやっているんだ、という実感があるのでは?
実感はありますね。今年一年通してやってきて、意識もプレースタイルも変わったと思います。日本に帰ってきたら、やっぱり向こうの選手はすごいんだなと実感できますし、自分も上手くなったなという感覚もあるので、LIVの中で周りに引っ張られて、いいマインドになっていると思います。
【ケプカは毎日トレーニングしている】
――LIVで感じた世界のトップ選手のすごさやうまさは、どういうところですか?
それぞれの選手に特徴がありますけど、ほとんどの選手に共通するのは、ショートゲームがうまい、という点です。
――飛距離に関してはどうでしょう。
もちろんラームや(ブライソン・)デシャンボー、(ブルックス・)ケプカたちは、生まれ持ったものがあるので、あのレベルには到底及ばないなというのはあります。ですが、意外と僕の距離と同じくらいのレベルの選手が多い印象もあります。今、僕は(ドライビングディスタンスが)300〜310ヤードですけど、ディスタンスの順位では真ん中くらいにはいると思うので、そこまで引けを取っている感覚はありません。日本にいる時から比べると、20ヤードくらい飛距離も伸びています。
――日本ツアーでやっている時より距離がアップした要因は。
トレーニング内容の見直しや、クラブを替えたのもあります。それと、LIVはコースが長くて広いので、「振る」ようになったのもあるかもしれません。加えて、スピン量を極力減らす努力もしました。そのために、クラブをインサイドから入れてドローを打つようにしたり、弾道機器を使って打ち出し角やスピン量を理想の数値に近づくような努力もしました。
――トレーニングの話が出ましたが、ウェイトトレーニングはかなりやられているのですか?
そうですね。週に3〜5日はやります。日本にいる時は週に1回くらいだったんですけど、週1回の選手なんてLIVにはいません。彼らがそれだけやっているんだから、僕が1日しかやっていないんじゃ、そりゃ戦えないよな、と。
――日本では、ウェイトトレーニングは「感覚」が変わるからやりすぎはダメ、特に試合中はやらないほうがいいとも言われますが、"世界"ではそんなことはなかったわけですね。
全然ないですね。特に、ケプカはLIVの選手のなかでもトレーニング量が多い選手で、毎日トレーニングしています。ホテルのジムや、試合前にゴルフ場のジムでもトレーニングしている姿を見ているので、このレベルの選手でもここまでやるんだって。もちろん、もともとの体も違うんですけれど、それ以上に、もう相当な量をやっていますから。そりゃあ日本人選手は体も小さいし、週に1回しかやらなかったら、海外では戦えないですよね。
(11月に開催された)「ダンロップフェニックストーナメント」で、松山(英樹)さんの体を見ましたけど、しっかりとトレーニングを積んでいることがわかります。多くの日本の選手は、そういう環境にいないからわからないじゃないですか。
【松山さんにLIVをどう思っているかを聞いてみたい】
――日本ツアーの選手から、LIVについて聞かれれることもありそうですね。
よく聞かれますよ。「どうやったら出られるの?」「どんな感じの試合なの?」「賞金は最低いくらもらえるの?」とか。いろいろなことを聞かれますけど、聞いてくる選手に正直に話したら、みんな「いいね」って言うので、やっぱり、より高いフィールドでやりたいという気持ちを持った選手が多いんでしょうね。
――石川(遼)プロや松山プロとLIVに関しての話をすることは?
遼さんとはあまりそういう話はしないですね。
松山さんは、逆に僕からLIVのことをどう思っているのかを聞きたいくらいですけど、今回は話す機会がなかったので。
(インタビュー後編につづく)
【Profile】香妻陣一朗(こうづま・じんいちろう)/1994年7月7日生まれ。宮崎県出身。
父の影響で2歳からクラブを握り、横峯さくらプロの父・良郎氏に師事。2012年にプロ転向し、同年に初シードも獲得。20年の「三井住友VISA太平洋マスターズ」でツアー初優勝。LIV参戦中の24年には、「Sansan KBCオーガスタ」で日本ツアー通算3勝目をあげた。23年12月にはLIVゴルフ予選会を2位で通過し、24年シーズンの出場権を獲得。『アイアンヘッズGC』の一員として、日本人では初となるLIVゴルフにシーズンフル参戦を果たした。今季のLIVゴルフでの賞金ランキングは45位。実姉・琴乃もプロゴルファー(JLPGA1勝)。