「今年一番のフルプッシュ」で見せた17号車Astemoの太田格之進、2番手からあの手この手でトップを狙うも一歩及ばず

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2024年12月10日 15:00  AUTOSPORT web

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2024スーパーGT第5戦鈴鹿 Astemo CIVIC TYPE R-GT(塚越広大/太田格之進)
 鈴鹿サーキットでの2024スーパーGT最終戦。GT500クラスは36号車au TOM’S GR Supraが予選終了時点でシリーズチャンピオンを決めたが、決勝レースでは今季王者を最後まで苦しめたライバルも現れた。その中でも最終ラップまで隙があれば前に出ようという姿勢を崩さない執念を見せたのが、2位となった17号車Astemo CIVIC TYPE R-GTの太田格之進だった。

 2番グリッドからスタートした17号車Astemoは前半を塚越広大が担当。10周目にGT300車両と交錯してコースオフしたことでポジションを落とすが、徐々に順位を上げて18周目にピットストップを済ませると3番手に挽回。ここから、後半担当の太田が持ち前のスピードで前を走るライバルとの差を詰めていく。

 当初はトップに対して6秒以上のギャップがあったが、その差を詰めるきっかけとなったのが31周目のフルコースイエロー(FCY)だ。脱毛ケーズフロンティアGO&FUN猫猫GT-Rが白煙を上げてストップ。消火器対応もあったため、約5分(1周と少し)にわたって全区間で速度制限が設けられたが、そこで上手く立ち回ったのが太田だった。

 最終コーナーをはじめ、各コーナーで可能な限りイン側のラインを選択して、速度制限下でも最短距離を走って差を縮めていこうとした。

 この走りについては「普通に距離重視で走っただけです」と太田。とはいえ、闇雲に“インベタ”のラインを使うのではなく「ただ、距離を稼ぐことによって路面が埃っぽいところは走ってはいけないので、思い切りインベタでゴミを拾いに行くようなラインは通らないにしても、ちょっとでも稼げるように内側へいった方が良いかなという気持ちで走っていました」と続ける。

 さらに、トップを走っていたau TOM’S GR Supraの山下健太と比べての“位置関係”でも有利な部分があっった。

「FCYが出る瞬間は僕の前がクリアだったので、そこで多少は縮められたと思いますし、(36号車auの前にいた)GT300のクルマが若干スピードが遅かったのかもしれないですけど、それで追いついて行くことができました(太田)」

一方、3号車Niterra MOTUL Zを駆る三宅淳詞の猛攻からトップを守っていた山下は、このFCYが不利に働いていた。

「僕の前を走っていたGT300のクルマがFCY中のペースが正直、遅くて……。ブレーキを踏む場面もありました。『これは17号車が追いついてくるな』と思っていました」と山下。

 それまで2番手でトップの36号車auを追っていた3号車Niterraの三宅淳詞が、FCY解除直後にスピンを喫して後退。これにより、最終戦の優勝争いは山下と太田の一騎打ちに持ち込まれた。

■今年ともに戦ったリアルレーシングに勝利を届けるために……「今までで一番フルプッシュした」
 32周目のFCY解除後から一気に差を縮めていこうとした太田だが、山下もリードを広げようとペースを上げて、レース後半から終盤は一進一退の攻防戦が続いた。

「(FCY解除後は)けっこう互角でしたね。僕もずっとフルプッシュの状態でした。『絶対に追い抜く』という気持ちはありながら、追いついたり離れたりする場面がありましたけど、それは完全にトラフィックの影響だけで完全にペースは互角でした。けっこうシビれる内容でした」と太田。

 一方、先行する山下は少し分があるような手応えは感じていたが、またしても不運な展開が待ち構えていたという。

「17号車に対しては順調にギャップは作っていったんですけど、デグナーでオイルにのって、少しはみ出したんですよ」

 そう語る山下は、36周目でのデグナー1つ目での出来事について語り始めた。

「デグナー1つ目でイン側からGT300を抜きにいったんですけど、そこで思いっきり滑りました。何とかギリギリで耐えることができたのは良かったですけど、それで17号車が追いついてきちゃいました」

 詳しい原因については分からないが、31周目に導入されたFCYの原因となった脱毛ケーズフロンティアGO&FUN猫猫GT-Rが白煙を上げて同区間を走行していたことから、オイル等で滑りやすい状況になっていた可能性がある。

 いずれにしても、この事象で36号車auと17号車Astemoの間隔が大きく縮まり、最終盤まで目が離せないトップ争いが展開された。

 何とかトップ奪取を実現したい太田は、積極的に仕掛けていく。なかでも印象的だったのが49周目の日立Astemoシケイン。山下に対して少し距離がある状態だったが、太田は躊躇なく飛び込んでいき一瞬トップを奪った。しかし、山下も冷静に状況をみてクロスラインで対応し、結局トップが入れ替わることはなかった。

「仕掛けるならシケインかなと思っていました。前回の鈴鹿(第3戦)でも最終ラップに(山本)尚貴さん(STANLEY CIVIC TYPE R-GT)を抜けましたし、その時の距離感とかも何となく覚えていました。不意をつくという意味でも、ある程度の距離感でインに入るというのは狙っていました」と太田。

 日立Astemoシケインでの逆転劇といえば、同地で行われた第3戦の最終ラップで山本尚貴のインを突いて逆転で6位を手に入れたというのが記憶に新しいが、今回もその再現を狙ったという。

「(飛び込んで行った)あの周は(山下選手との間隔が)かなり遠かったと思います。たぶん、(第3戦の最終ラップで)尚貴さんに仕掛けた時よりも感覚的に遠いかなと思いました。ただ、向こうはトラフィックに引っかかっている感じで、僕は130Rを全開でいっていたので『いけるかな?』と思って……とりあえず、インに入らないと始まらないですからね」

「それまでは揺さぶりをかけるところまで追いつけていなかったから、まずは一発仕掛けてみました。自分としては、あそこで止まり切れたのが良かったですし『これはいけたかな?』と思ったんですけど、クロスラインというかシケインの切り返しでキツくなってしまって……無理をしても良かったんですけど、接触のリスクもあるし。そこはクリーンにバトルをしました」と振り返った。

 これに対して、山下も“太田の不意打ち”を警戒して構えていたものの、日立Astemoシケインでの攻防は“予想外”だったようだ。

「太田選手がアグレッシブなことは知っていたので『どこからでも来るだろうな』とは思っていたけど、『そこから来るの?』というところで仕掛けてきましたね」

 一瞬は前に出られたものの「向こうがちゃんと止まり切れていなかったので、うまく被せて抜き返せたのは良かったです」と、山下も冷静に対処できたという。

 太田は最終ラップでもレイトブレーキングを披露して、わずかでも逆転のチャンスを探ったが、結局順位が入れ替わることなくチェッカーを迎え、36号車auが今季3勝目をマーク。17号車Astemoは今季最上位となる2位を手に入れるも、最大の目標であった優勝には届かなかった。

 改めて、今季最終戦での自身のスティントを振り返った太田は「本当に、今回の僕のスティントは今までのなかで一番プッシュしたし、何回もコースアウトしそうになりながら走ったなと思います」と振り返ると、この最終戦にかけていた想いを語り始めた。

「1年間一緒に戦ってきたリアルレーシングへの“走りで恩返し”をしたいなと強く思っていました。(チームオーナーの金石)勝智さんのところで勝ちたいという想いはシーズンの早い段階からありましたが、不運もあったりして達成できていませんでした。でも、この最終戦では自分の力で優勝をもぎ取れそうなチャンスでしたし、今年のスーパーGTで一番良い走りができたと思っています」

「ピットアウトした瞬間から最後ラップまで攻め切ったし、100パーセント出し切れたのではないかなと思っています」

 2024年シーズンの太田は、スーパーフォーミュラを含めて“あと一歩でトップに届かず”という結果が予選・決勝含めて多く、その度に声をかけるのも憚られるほどの悔しさを滲ませていた。

 しかし、今回の彼は少し異なり、結果的に勝てなかったものの最後までやり切ったような、少し吹っ切れた表情を見せていたのが印象的だった。

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