【動画】それは、優しくも残酷な<世界>のはじまり――映画『Playground/校庭』特報
大勢の子供たちが教室で学び、休み時間に校庭を元気よく駆け回る学校は、みずみずしい生命力に満ちあふれた場所だ。ところが小さな子供の目を通してその日常を写しとると、多くの大人たちが抱くイメージは打ち砕かれる。本作は、どこにでもありそうな小学校の敷地内に舞台を限定し、全編を主人公である7歳の少女の視点で紡ぎ上げた生粋の“学校”映画。その徹底された演出手法は、さながら没入型のスリラー映画のような並外れた緊迫感と臨場感を生み、子供にとってあまりにも過酷な現実を生々しくあぶり出す。
1984年にブリュッセルで生まれたローラ・ワンデル監督が鮮烈な長編デビューを飾った本作。大人にはうかがい知れない子供の世界を斬新なスタイルで捉えたその映像世界は、驚くほど高密度の映画体験を実現し、アーティスティックな完成度の高さにおいても傑出した出来ばえとなった。第74回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門に出品され、国際批評家連盟賞を受賞。さらにロンドン映画祭で新人監督賞に輝くなど、世界中で29の賞を獲得し(2024年11月時点)、第94回米アカデミー賞国際長編映画賞のショートリストにも選出された。
海外メディアからも、「完璧。ノックアウトされる」(The New York Times)、「強烈な没入感。稀に見る傑作」(Reeling Reviews)、「ずっと涙が止まらない。心に深く残る」(Chicago Reader)、「平凡な学校が、恐ろしい戦場と化す」(Variety)など多くの絶賛評が寄せられている。
本編わずか72分のミニマルな本作は、初登校の日を迎えた主人公ノラが兄のアベルに抱かれて泣きじゃくっているファースト・ショットから、観る者の目を釘付けにする。内気なノラにとって見知らぬ子供たちがあちこちで叫び声を上げ、無闇に走り回っている学校は、まさにカオスそのものだ。その未知なる混乱のまっただ中に投げ出されたノラは、どうやって友だちを見つけ、集団生活になじんでいくのか。しかも他者との関係を育む過程においては、同級生に残酷なことを言われたり、ふとしたことで仲間外れにされることもある。
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ドキュメンタリーと見まがうほどの迫真性に貫かれた本作は、ヴィジュアルも音響もすべてが緻密に構築されたフィクションである。ワンデル監督はあらゆるショットを子供の目の高さに設定し、被写界深度が極端に浅く(ピントがあっている範囲がとても狭い)、視野の狭い映像によって、観る者にノラが見聞きすることを疑似体験させる。そうして100%ノラの視点で撮られたこの映画は、親や先生といった大人は子供の目にどう映るかという描写も盛り込まれ、多くの発見をもたらすサスペンスフルな一作に仕上がっている。
なお、一切の無駄をそぎ落としたシャープな作風が印象的なワンデル監督は、ベルギーの偉大なる先達であるダルデンヌ兄弟はもちろん、アッバス・キアロスタミ、ブリュノ・デュモン、ミハエル・ハネケ、シャンタル・アケルマンの作品にインスピレーションを得たという。ダルデンヌ兄弟が製作を務める次回作『L'intérêt d'Adam』の完成も楽しみな才能だ。
主人公ノラにふんしたマヤ・ヴァンダービークの演技も特筆もの。キャスティングのセッションに参加した約100人の中から見出された小さな主演女優が、このうえなく繊細にして豊かな感情表現を披露する。そして『あさがくるまえに』『またヴィンセントは襲われる』のカリム・ルクルーがパパ役、『神様メール』『ハッピーエンド』のローラ・ファーリンデンが担任教師役で映画に奥行きを与えている。
特報は、7歳のノラが校内を歩く後ろ姿を、子ども目線の低い位置から捉えたシーンが連続して展開していく。本作全体を貫く低い位置からのカメラワークにより、観る者を小学校の校内へと引き込み、ノラの経験を追体験させる。果たして小さなノラは何を目撃し、心に抱え、どう行動するのか? 「優しくも、残酷な<世界>」を生き抜く姿を垣間見せる特報に仕上がった。
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映画『Playground/校庭』は、2025年3月7日より全国公開。