話題の漫画『逃げろ松本』と『呪術廻戦』の共通点ーー凄まじい疾走感をもたらす“仕掛け”とは?

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2024年12月15日 08:00  リアルサウンド

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『SPY×FAMILY』『ダンダダン』『チェンソーマン』……大ヒット作品を数多く連載し、近年のマンガ界全体を牽引し続けている「少年ジャンプ+」。そんな「少年ジャンプ+」にて2024年7月よりスタートした『逃げろ松本』(オクスツネハル著)が注目を浴びている。本作は「自転車競技」をテーマとした作品だが、単なる「自転車競技もの」とはわけが違う。『呪術廻戦』を思い出すかのような、凄まじい疾走感と没入感が見事なのだ。その理由はなぜ生まれるのだろうか。


■自転車の音が聞こえてきそうな臨場感 アニメのようなコマ割り

  かつて自転車競技で名を馳せた松本ヨシノブは、配達員として働くなか、突然、殺人の濡れ衣を着せられてしまう。真犯人だと名乗る主は、松本に“ある提案”をする。このまま100日間逃げ切ることができれば、自転車選手としての未来が再び開かれると……。


  当初は、「自転車競技から追放された主人公が復帰するまでのスポーツマンガ」だと思い込んでいた読者は多いだろう。しかし物語は突如、主人公が逃亡犯となるサスペンス・アクションへと変化。スピード感に溢れた怒涛の展開が幕を開け、ややスロースターターだった物語が、一気に加速する。


 『逃げろ松本』は、第1話の中盤以降、ほとんどが自転車に搭乗する松本の姿を中心に展開されていく。そのため、常に動き続けており、止まっていることがほとんどない。そんな状況の中で繰り広げられる、奥行きのある立体的なアクション描写。急カーブをターン、あらゆる障害を飛び越えていく主人公の姿。これがマンガであることをついつい忘れてしまい、まるでアニメを観ているかのような気持ちにさせるのだ。


  アニメの作画を意識しているであろうコマ割り、もはやカメラワークと言っても良い。非常に滑らか且つ表情の抜き方も絶妙。主人公の熱気が伝わり、自転車のタイヤがアスファルトを擦り付ける音が聞こえてくるほどだ。こういった描写が没入感を生み出している要因なのではないか。


  自転車に乗ったまま繰り広げられる、ここまで大胆なアクションはかつて無かったと言えるだろう。しかし、筆者は本作を読み進めていて、とあるジャンプ作品を思い出した。それは、『呪術廻戦』だ。


■『呪術廻戦』との共通点はアクション描写

  先日、惜しまれながらも最終回を迎えた大ヒット作品。その『呪術廻戦』と『逃げろ松本』のアクション描写は非常に似通っていると感じる。


 『呪術廻戦』作者である芥見下々は、あらゆるアニメの作画から影響を受けていたこともあり、作中の作画が非常に映像のような動きを見せる。ビル群の中でのバトルにおけるビルの崩壊、バトル中に舞う水しぶき、天空から地上の相手を見下ろす画角など、映像で観ているかのような滑らかなコマ割りで、読者を作品世界に引き込む技術を遺憾なく発揮していた。


 『逃げろ松本』もまた自転車が空気を切り裂く様、登場キャラクターたちの汗、入り組んだ住宅街での疾走感……まさにキャラクターたちが呼吸をし、「動いている」のである。


  特筆すべきは、やはり第2話終盤から始まるゲーム「大差逃切(ブッチギリ)」における描写。追手から100m以上の差をつければ勝利、身体にタッチされれば敗北……という容赦ない鬼ごっこの中で、必死に逃げる松本と勝つためなら手段を選ばない尾形。


  双方による一進一退の攻防戦の中で、お互いが覚醒し、難題を次々と攻略していく様が実に小気味いい。松本と尾形の2つの異なる視点を使い分けた描写は、緊迫感をより一層醸し出し、立体感を生むことにも成功している。


■キャラクター全員に「人生」がある

  さらに『逃げろ松本』が『呪術廻戦』を彷彿させる点は他にもある。それは、松本を捕えるために放たれる刺客たちのバックグラウンドを物語る「フラッシュバック」を突如としてバトル中に挿入する点だ。


  傑作と呼ばれる作品は、主人公だけでなく悪役にもしっかりとしたドラマがあると相場が決まっているが、本作も例外ではない。とある理由から人生のどん底を味わう元競輪選手、自らの人生を救ってくれたアイドルに陶酔するBMX選手など、松本を追うためにゲームに参加した刺客たちは、皆、人生のどん底を経験している者ばかり。彼らのドラマをバトル中に挿入することで、敵となるキャラクターたちにも感情移入をしてしまうのだ。こういった点もまた『呪術廻戦』を思い起こさせる部分であるのかもしれない。


  ともあれ、「自転車競技」と「デスゲーム」を掛け合わせた、アクション・サスペンス『逃げろ松本』には、唯一無二の疾走感があることは間違いない。2024年に連載がスタートした作品の中では、アニメ化待ったなしの作品だろう。ぜひ、この疾走感を五感で感じてみてほしい。



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