2014年にこの世を去った俳優・高倉 健。映画では圧倒的な存在感を見せてきたものの、多くを語らない寡黙なスタイルから私生活については知られざる部分も多かったようです。そんな彼の読書家の一面を垣間見ることができるのが書籍『高倉健の図書係 名優をつくった12冊』。高倉 健の"図書係"として約30年間、数々の本を探し続けた編集者・谷 充代さんが、彼の素顔や書籍を介した交流を明かした一冊です。あの高倉 健の血となり肉となったのはどのような本なのか......ファンならずとも気になるのではないでしょうか。
谷さんによると、高倉さんは「これだと思った一冊を、ボロボロになるまで繰り返し読んだ」(同書より)といいます。中でも、彼がひときわ好きだった作家の一人が山本周五郎で、過去の作品の名文句が抽出された『男としての人生:山本周五郎のヒーローたち』は映画『南極物語』の撮影現場でも肌身離さず置いて読み返し、過酷な撮影に臨んでいたそうです。人生をひたむきに生きる人間の哀歓、人間の芯の部分を描いた作品や言葉の数々は、高倉さんの仕事ぶりにも影響を及ぼしていたのかもしれません。
その後、『男としての人生:山本周五郎のヒーローたち』は絶版となりますが、あるとき高倉さんの希望で増刷がかかることとなります。その際、「今、隣にいるから、『この本を読め』って渡したところだよ」(同書より)と、高倉さんから後輩俳優の真田広之さんにも手渡されたとのこと。今や海外でも大活躍している真田さんに、山本周五郎の、そして高倉 健の精神が脈々と受け継がれているのだなと思わせられるエピソードです。
「人生って八〇%は錯覚じゃないかなって、フッと思うことがあるね。僕が今までしゃべってきたことをどう感じてくれるか、感じ方は人の数ほどある。そうした受け取り方って、その人の歩んできた道、読んできた本によって作られるんだろうね」(同書より)
この言葉に続き、「だから、本を読まなきゃ勿体ないぞ」と谷さんに教えてくれたという高倉さん。檀 一雄の『火宅の人』、三浦綾子の『塩狩峠』、『母』、池波正太郎の『男のリズム』、白洲正子の『かくれ里』などの12冊の愛読書から、高倉さんがどのようなことを感じたり学び取ったりしてきたのかが、同書を読むと伝わってくるのではないでしょうか。
そしてもうひとつ、高倉さんの素顔を知ることができるのが、谷さんが約30年間にわたって高倉さんと交わしたという約80通におよぶ私信です。そのやりとりからは、シャイでありながら温かく、実直で、ユーモアのセンスもある人柄がうかがえます。
名優が愛した書籍の数々は、私たちの人生にもさまざまな気づきや彩りを与えてくれるはず。同書は高倉 健という俳優の人間的な魅力を伝えるとともに、本を読むことの大切さについても教えてくれることでしょう。
[文・鷺ノ宮やよい]
『高倉健の図書係 名優をつくった12冊 (角川新書)』
著者:谷 充代
出版社:KADOKAWA
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