世界でも有数の地震多発地帯である日本。この国に住んでいる以上、いつどこで地震に襲われるかはわかりません。当然、防災バッグは用意していたほうがいいし、避難時に必要なものは最低限揃えておきたいものです。
いいものを見つけてしまいました。セレクトショップ「BEAMS(ビームス)」の社内事業コンテストで生まれた防災グッズ開発プロジェクトと、防災ブランド「サイボウパーク(SAIBOU PARK)」がコラボして生まれた、その名も「飾れる防災ヘルメット」(税込8800円)。2024年9月より発売されています。
ヘルメット上できらりと輝く星の柄が素敵!
なぜ、このようなデザインのヘルメットを作ったのか? なぜ、ヘルメットを飾るのか?「サイボウパーク」事業部・部長の奥村祥国さんから話を聞きました。
◆裏原のファッション関係者が防災ブランドを立ち上げる
――どういう経緯で、BEAMSの防災グッズ開発プロジェクトとコラボすることになったのでしょう?
奥村:もともと、弊社「サイボウ」は60年の歴史がある防災総合会社の老舗なのですが、4年前に“みせたい防災”をコンセプトにしたサイボウパークというブランドが社内で立ち上がりました。このブランドは私が担当しています。
実は、私の前職はアパレルで、ずっとファッション畑で仕事をしてきたんですね。109が流行るちょっと前くらいの時期から、レディースのファッションを担当していまして。ちょうどギャル全盛の時代で、雑誌『egg』(大洋図書)が創刊になったタイミングでした。
――うわ、なつかしい! 当時、私はまだ高校生で、男なので『Men’s egg』をたまに読んでいました。
奥村:そのギャルブームは、次第に裏原宿のほうへも押し寄せていきます。「プロペラ」という裏原の象徴的なショップがあったのですが、その隣に僕らはお店を出しました。「シルバーバレット」というショップなんですけど。
――プロペラもシルバーバレットも行ったことあります! では、サイボウパークを立ち上げる前から奥村さんはBEAMSとお付き合いがあったんですか?
奥村:その頃はないんです。こちらもセレクトショップをやっていましたが、BEAMSはセレクトの王者ですよね。ただ、お付き合いはあくまでサイボウパークを始めてからです。
その後、しばらくは情報交換や相談などをしていたのですが、あるときBEAMSから「社内事業コンテストで防災の企画を通した社員がいる」と。それが今回のヘルメットでした。
◆“飾っておけるように”という発想でデザイン
――防災グッズにもいろいろありますが、なぜヘルメットなのでしょうか?
奥村:日本は地震が多い国です。だから、やはりヘルメットが大事になってくる。でも、せっかく買ったヘルメットも普段は押入れなどにしまっておくことになるじゃないですか? つまり、基本的には生活のなかで邪魔な存在になるんですね。
――場所も取りますしね。
奥村:そこを「もしもヘルメットが可愛かったら、玄関先に飾っておけるよね」という発想で作ったのが、このヘルメットです。だから、商品名は『飾れる防災ヘルメット』。基本的には防災用ヘルメットだけど、インテリアにもなります。
――普通にしていたら場所をとるし、いざというときにしか出番はないけども。
奥村:普段は出番がなかったけれど、このデザインなら飾れるし、見せられる。見ていて可愛いし、綺麗だし、いざというときには使えるヘルメットです。
◆星の柄をあしらって“未来への希望”をイメージさせる
――ラッキーチャームのような星柄をあしらうデザインになった理由は?
奥村:星を使うことで、未来への希望をイメージさせています。防災というとネガティブな状況を連想してしまうことも多いので、そうではなく「明るい未来が待ってるよ」という意味で星をあしらいました。
――万に一つ災害にあうと、大変な日々が続くと思います。そういうときのために「いや、未来は明るいよ」というメッセージを込めたと。
奥村:そういうことです。星だけに“願い”という意味も含んでいます。「明日はこの星の柄で明るく過ごしていきましょう」という意味です。あと、このヘルメットを企画したBEAMSの社員は女性なんですね。だから、女性の方が手に取りやすいデザインにも仕上がりました。
――この星の柄は、どのようにヘルメットにあしらったのでしょうか?
奥村:これはUV転写プリントという特殊技術です。ヘルメットは形状が丸いので、Tシャツにプリントする機械に入りません。だから、1個1個手作業で貼っていくんです。
――手作業なんですか!
奥村:はい、人の手で貼ってるんです。だから、結構手が込んでいます(笑)。
◆“みせたい防災”は安全面でもプラスになる
――『飾れる防災ヘルメット』という商品名だけに、インテリアとして合わせやすいデザインも意識していますか?
奥村:もちろんです。ぶらさげて、目線より少し高い位置にある状態でヘルメットはどう見えるのか? そんなシチュエーションを想定し、星を配置しました。避難するときに必要なものなので、基本的には玄関に飾ることをイメージしています。
――「みせる」「飾る」という要素は、もしかしたら防災のプラスになる? とも思いました。めったに使わないものだと奥にしまってしまうけど、目に見える場所にあればなにか起こったときにすぐ被れるし、「あそこにある」と普段から把握しやすいです。
奥村:そのとおりです。絵画を飾るのと同じ考え方ですよね。絵画は買ったら押入れにしまわないし、それと同じ感覚でヘルメット自体もインテリアとして見せてしまおうと。つまり、取りやすい場所にヘルメットがあるということです。
◆ヘルメット上の“光る星”は防災面でもプラスに
――飾れるという要素がある一方、防災用としての実用性はいかがしょうか?
奥村:もちろん、まったく問題ありません。元となるヘルメットは、防災専用ヘルメットの大手「谷沢製作所」のものです。飛来・落下物、墜落時保護などの検定を通った、国家検定合格品のヘルメットなんです。
それでいて、飾れる可愛らしさもある。実際に手に取ってみるとわかりやすいですが、ヘルメット上にはいろんな星があしらわれています。中には、箔プリントでキラッとする星もあります。写真ではわかりづらいですが……。
――避難中にヘルメットが反射することで、「ここにいますよ!」というアピールになるかもしれません。
奥村:そうですね。ライトに当たると反射して見え方が変わるので、インテリアとしてもおもしろいです。
◆ファッションブランドとのコラボは2028年まで続く
――今後、ヘルメット以外でファッションブランドとコラボする可能性はありますか?
奥村:実は、バッググメーカーのACE(エース)とずっとコラボを続けていて、2025年9月には新しい防災グッズを発表します。いろいろなメーカーさんと頻繁にコラボしており、サイボウパークがコラボする相手・商品は2028年の分までもうすでに決まっているんです。
――そんなに先まで!? たしかになにがあるかわからない世の中ですし、常に防災グッズは求められていますよね。
奥村:特に、島国でこれだけプレートが重なっている国はほかにあまりないです。南海トラフ地震も予測されていますし、地震だけでなく豪雨にも注意が必要ですからね。
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とにかく、アパレルが手掛けたという事実はデザイン性として説得力十分! 普段から防災を身近に感じるという意味でも、“みせたい防災”というコンセプトはすごく有意義でしょう。
みせて、飾ることで安全がより身近になる……なるほど、盲点でした。
<取材・文/寺西ジャジューカ>