「39歳→40歳のときのショックに比べると、59歳→60歳のショックはそうでもない」
女性の心理を鋭く突いたひとことだと唸(うな)ったあなた、もしかしたら50代、いいえ40代後半でしょうか。
『マダム60 60代もいろいろある』(竹書房)は、漫画家・青沼貴子さんが60代のあれこれを綴ったコミックエッセイです。
◆気がつけば、あっという間の60歳
39歳→40歳は、まだ若いという実感があったのです。しかし59歳→60歳は、高齢者ではなさそうですが、間違いなく熟年者です。華やぐ気持ちはありつつ、体のあちこちから不具合の声が聞こえたりして。
40代ではそんな声に抵抗したものの、60代では納得したうえですみやかに対処する、という潔いあきらめが身につくのかもしれません。
親の介護や子供の独立、経済的な問題など、自身の変化に加え、60代も人生の転機です。
60代、悩む時間など無駄!笑って過ごしてこそ人生!青沼さんの元気の秘訣、ちょっとのぞいてみませんか。
◆美容整形にチャレンジしてみる
顔の造作や体のラインを整えるのが、若い世代の整形だとしたら、60代の整形は、現状を維持したい清潔感を保ちたいという主旨が圧倒的かもしれません。青沼さんのお母様(よしえ・86歳)がチャレンジしたのがホクロ除去。
最近ではイボ除去も人気ですが、青沼さんが気になっていたのが首にある赤ボクロです。シワやシミはそれなりに保存しつつ、不自然でないレベルで年齢なりにきれいでいたい。美しさの基準を自分で決めて、流行など関係なく、自分をプロデュースできるのも60代ならではの楽しみではないでしょうか。
手術は10分ほどで完了、料金は数千円。3週間ほどでだいぶ目立たなくなるそうです。ホクロにシミ。サクッと取るだけで幸福度はみるみるアップ。心身の高揚のために、大人の整形は大いにアリです。
◆意外にイケる、娘’Sファッション
気持ちはまだ若いのに、体はそれなりに老いていく。60代が感じるのは心身のギャップ。着たい服と似合う服がズレてくるのも、しかたないとはいえ切ないもの。
青沼さんはこっそり、アンさん(娘さん)の服を借りているのだとか。女性の服は若い方向けのほうが色合いも鮮やかですし、デザインも可愛いです。
でも歳だから……、なんて本当は無視したい一般論に毒されて我慢してしまうのは、かなりもったいない。
「遊び心で、たまーに派手な服を着ると気持ちも華やいだりする」と本書。ファッションも悩むよりまずトライ。
青沼さんはアンさんの許可は得ているそうですが、借りた後は洗濯または消臭剤をかけて干すなど、マナーは厳守しています。
年を重ねたからこそ着たい、赤やピンク、花柄やフリルの服など。オシャレ心というのは、年齢不詳なのかもしれません。
◆股関節が悲鳴を上げる
夜になれば就寝して、朝がくれば起床する。こんなあたりまえの日々に亀裂が入るのも、60代ならでは。
ある朝、青沼さんは股関節の激痛に襲われました。原因はどうやら筋肉の衰え。
運動が大事、ストレッチは必須、世の中は相変わらず筋トレブーム。日常の些事にかまけて、運動の時間は後回し。こんな60代、いえ、60代でなくとも、多いのではないでしょうか。
耐えに耐えてきた股関節が悲鳴を上げ、青沼さんも一念発起。鍼、バランスボール、水中ウォーキング。人づてに聞いた、効果がありそうなものを片っ端から試したのです。
このフットワークの軽さも、ある意味、元気の秘訣でしょう。ちなみに水中ウォーキングは「週に1〜2回」。1ヶ月経過した頃から股関節の痛みが軽減したのだとか。
筋トレブームもあながち嘘でも大げさでもないのです。熟年者から老年者へ、オシャレ心を保ちつつ、筋トレに励む。
まだまだ若い、でも時々年相応?な年代を駆け抜けるべく、もがいて笑って今日もがんばる。本書にならって、私達も輝く60代を目指そうではありませんか。
<文/森美樹>
【森美樹】
小説家、タロット占い師。第12回「R-18文学賞」読者賞受賞。同作を含む『主婦病』(新潮社)、『私の裸』、『母親病』(新潮社)、『神様たち』(光文社)、『わたしのいけない世界』(祥伝社)を上梓。東京タワーにてタロット占い鑑定を行っている。X:@morimikixxx