基礎生物学研究所などの研究グループは2月5日、昆虫「ナナフシモドキ」(単にナナフシとも呼ぶ)において、まれに生まれるオスはメスと交尾しても遺伝子を残せないとの研究成果を発表した。ナナフシモドキの個体はほとんどがメスであり、メスだけで繁殖する。一方、まれにうまれるオスは外部生殖器を持っているにもかかわらず、生殖機能を失っていることが判明したという。
ナナフシモドキは日本で最も一般的なナナフシの仲間。植物の枝によく似た外見を持ち、メスがメスを生んで子孫を残す「単為生殖」を行うことで知られる。オスの出現は非常にまれで、これまで今回の研究を含めて数十例しかなかったことから、ナナフシモドキのオスがどのような意義を持つのか、オスとしての機能をどの程度維持しているのか判明していなかったという。
研究では、博物館やアマチュア研究者の協力のもと、4年をかけてナナフシモドキのオスを7匹集めた。観察したところ、ナナフシのオスとして典型的な要素である、メスに比べて細い体や、体液で伸展する外部生殖器(ペニス)を持つことが判明。7匹のうち3匹はメスと交尾を行い、メスの体内に精包(ナナフシの仲間などにみられる、オスがメスに受け渡す物質)を確認した。
この交尾の前後に産み落とされた卵を回収して遺伝子型解析を実施した結果、交尾前と交尾後、どちらからも母親の遺伝子型と全く同様な遺伝子型を検出。オスがもし機能しているならば、オスの遺伝子型が検出されるとして、「ナナフシモドキのオスは交尾をするものの、オスの遺伝子を受け継いだ子孫を残す可能性は非常に低い」としている。
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続けて、ナナフシモドキのオスとメスについて、有性生殖に必要な器官の細胞構造を観察・分析した。日本において有性生殖を行うナナフシ「エダナナフシ」を比較対象に、ナナフシモドキのオス2匹を観察したところ、両方で正常に精子が形成されていないことが判明した。
ナナフシモドキのメスについても、エダナナフシにはオスのペニスを受け入れる器官と、精子を貯蔵する器官があり、「豊富な分泌物」や「厚いクチクラ構造」といった特徴を持っているが、ナナフシモドキにはその両方の特徴がなかったという。加えて、多くの細胞が細胞死を起こしていたことから「十分な機能を維持しているとは考えにくい」と指摘している。
そもそも単為生殖には、遺伝子の混ぜ合わせがなく有害遺伝子が蓄積するなど長期的には不具合が生じると予測されている。研究グループによると、一部の単為生殖を行う種ではまれな有性生殖を示す証拠が見つかっており、これをエラー的に生じるまれなオスが担うとされてきたという。
一方、今回の実験結果に加え、日本にはナナフシモドキの近縁種がいないことから、研究グループは「同種の交配が意味を為さないとなると、まれな有性生殖は起こり得ない」と説明。「ナナフシモドキにおいて、単為生殖が不可逆的な状態になっているという証拠を提示した」と結論付けている。
同研究グループによるこれまでの研究で、ナナフシモドキの単為生殖は30〜50万年続いている可能性があると判明している。研究グループは今後、なぜナナフシモドキの単為生殖がこれほど長く続いているのかなどを調べるとしている。
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研究には、基礎生物学研究所のほか、神戸大学と福島大学が参加した。研究成果は1月29日付で国際学術誌「Ecology」に掲載。
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