藤田菜七子に続き「20歳の女性騎手」が突如引退…。女性騎手“引退ドミノ”はなぜ続いてしまうのか

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2025年02月06日 09:00  日刊SPA!

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現役時代の大江原比呂騎手 
写真/橋本健
 ここ最近、競馬界では大きな話題があった。
 1月26日、キャリーオーバーで大いに盛り上がったWIN5。その翌週の2月2日は、1番人気の馬が全滅する一方、15番人気と9番人気の伏兵馬が勝利したため、的中はわずか5票にとどまった。その結果、配当は1億2000万円オーバー。ほんの1時間足らずの間に最大5人もの“億り人”が誕生した。

 また、その前日の土曜には競馬界を揺るがすニュースも……。JRAが1日に発表したのは、昨年3月にデビューした大江原比呂騎手の引退である。

 現役生活わずか11か月での引退は異例で、多くの関係者やファンを驚かせた。

◆苦難の連続だった大江原比呂騎手の現役生活

 大江原比呂騎手といえば、祖父が元調教師の大江原哲氏で、父の大江原勝氏もかつて調教助手として女傑グランアレグリアの攻め専を務めた(現在は蛯名正義厩舎の調教助手)、まさに競馬ファミリーである。

 自然の成り行きか、大江原比呂騎手もその道を志し、JRA競馬学校に入学。ケガのため1年の留年を経験したが、昨年春に無事に騎手としてデビューした。その3か月後には待望の初勝利を飾り、これまでJRA通算4勝を挙げていた。

 ただ、短い現役生活は苦難の連続だった。昨年夏には新潟競馬で体重超過のため過怠金を科されるなど、たびたび制裁の対象になっていた。昨年10月には体重の調整に失敗する過程で、脱水症を発症し、9日間(開催4日)の騎乗停止処分も受けた。

 それでも11月30日には中山競馬で久々の騎乗を果たし、挽回に努めていたが、運悪く直後の12月1日の調教中に右手小指を負傷。その後は実戦から遠ざかっていた。

 20歳のホープが急転直下の引退を発表したことを受けて、師匠の武市康男調教師は「心が折れたのかな」と取材陣の前でコメント。度重なる減量苦に加えて、勝負の世界に身を置くことの厳しさも悟ったのかもしれない。武市師によると、大江原比呂騎手は今後、競馬界からはいったん距離を置くとのこと。「いくらでも生き方はある」と最後は弟子の背中を押す苦渋の決断を下したようだ。

◆女性騎手の現在地

 女性騎手の引退といえば、昨年10月の藤田菜七子騎手の電撃引退が記憶に新しい。昨夏に結婚を発表し、まさに心機一転するタイミングで藤田菜七子騎手を直撃したのが“文春砲”だった。通信機器の不正使用の疑いがあることが『週刊文春』の取材で判明したが、釈明する間もなく、競馬界から姿を消した。

 あれから3か月半。大江原比呂騎手の引退を受けて、一時は7人まで増えていたJRA所属の女性騎手は5人となった。現役5人の中で最も勢いがあるのは、順調に勝利数を伸ばしている22歳の永島まなみ騎手だが、今年はまだ2勝と波に乗れていない。さらに日曜の小倉競馬で落馬し、首を負傷。その後の4鞍で乗り替わりとなってしまったが、幸い大事には至らず、今週末の競馬では予定通り騎乗できるようだ。

 また、1年目に重賞勝利を含む51勝を挙げた今村聖奈騎手も騎乗数が激減中だ。順風満帆で迎えた2年目の春に他の女性騎手らとともに通信機器の不適切使用が報じられたが、それを境に勝ち鞍は右肩下がり。3年目の昨年は6勝にとどまり、今年は1勝しているものの、騎乗数は女性騎手の中で最少と、復活に向けてもがき続けている。

◆相次ぐスマホの不適切使用

 女性騎手に限らず、若手騎手全体にいえるのが、通信機器、つまりスマホの扱いである。JRAに所属する騎手は、公正を確保するため、レース前日の夜から調整ルームに入り、部外者と情報をやりとりするなどの接触を断つことが義務付けられている。

 しかし、令和の若者にとってスマホは体の一部のようなもの。昭和、平成世代の“大人”にとっても必需品となっているのが現実だ。昨年11月には有望株の一人、永野猛蔵騎手が偽装工作をしたうえで、調整ルーム内にスマホを持ち込み、通信していたことが判明。永野騎手も藤田菜七子騎手と同じように速やかに引退を届け出た。他にも若手を中心にスマホの不適切使用が相次いでいる現状だ。

◆若手騎手にとって体重調整も課題

 また、男女問わず若手騎手が越えなければいけないハードルの一つが減量である。まさに今回の大江原比呂騎手がそうだったように、まだ成長途上の若手にとって体重調整は簡単ではないはずだ。

 若手騎手には最大4kgの“減量特典”もあるが、逆にそれが足枷になることもあるだろう。

◆出産をする場合は2年前後現場から離れることに

 そしてもう一つ、女性騎手は今後「結婚→出産」という可能性もある。もちろん多様性の時代といわれる現代社会では結婚をしない、出産をしないという選択肢もある。

 ただ、結婚だけなく出産をするとなると、女性騎手は少なくとも2年前後は現場から離れなければいけなくなるだろう。地方競馬では出産、子育てを経て、40代で活躍している女性騎手もいるが、結婚もしくは出産を機に引退の決断を下すことも珍しくない。

「スマホ」「体重調整」「結婚・出産」——。若手騎手、とりわけ女性騎手が越えないといけないハードルは決して少なくない。

文/中川大河

【中川大河】
競馬歴30年以上の競馬ライター。競馬ブーム真っただ中の1990年代前半に競馬に出会う。ダビスタの影響で血統好きだが、最近は追い切りとパドックを重視。競馬情報サイト「GJ」にて、過去に400本ほどの記事を執筆。

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