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ウクライナ戦争勃発から世界の構図は激変し、真新しい『シン世界地図』が日々、作り変えられている。この連載ではその世界地図を、作家で元外務省主任分析官、同志社大学客員教授の佐藤優氏が、オシント(OSINT Open Source INTelligence:オープンソースインテリジェンス、公開されている情報)を駆使して探索していく!
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――大統領就任の直前までウクライナ戦争を「24時間で停戦させる」と言っていたトランプ米大統領は、「6ヵ月かかる」と修正してきました。
佐藤 『かぐや姫』みたいな話ですよね。
――と言いますと?
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佐藤 取れないもの、手に入らないものを要求しているんですよ。ただ、これは事実上の後退ではありません。ウクライナ停戦のシナリオが一歩進んだ、具体化したと見るべきです。
――どういうことでしょうか?
佐藤 24時間で解決するというのは、「24時間以内に解決の意志を表明する」ということでしょう。そして「6ヵ月で具体的な目処を付ける」と解釈できます。なので、やっぱりトランプは真面目に考えているんだ、と見るべきだと思います。
――確かに。
佐藤 だから、大きな構想があって、それを具体化するのに6ヵ月ほどかかるということです。
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――米のJ・D・バンス副大統領は、大統領選中に戦争終結の和平案を提示していました。ウクライナはNATO(北大西洋条約機構)に加盟せず、現在の前線を非武装地帯とする、という内容でした。その準備をするのに6ヵ月かかると思えばいいですか?
佐藤 この準備と枠組みを作るのに6ヵ月必要だということです。
――枠組みとは?
佐藤 和平を結ぶには結局、プーチンが了承しないといけませんからね。このゲームはベトナム戦争末期の南ベトナムと同じだと思えばいいんです。当時の南ベトナムの大統領には統治者能力がありませんでした。
――懐かしのグエン・バン・チュー大統領ですね。
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佐藤 そうです。あの時、最終的にはアメリカと北ベトナムがプレイヤーでした。ウクライナもそれと同じです。トランプとプーチンの腹づもりが同じ方向性にならないと決まりません。
――ベトナム戦争の終わりと同じ図式です。
佐藤 だから、これから作られる枠組みはうまくできています。しかし、残ったウクライナをどのように整理するかが問題です。
はっきりしているのは、ウクライナのNATO加盟は絶対にありません。アメリカが嫌なのは、ウクライナがNATO加盟することです。加盟してしまうと、ウクライナが戦争になった場合、共同防衛しなければならないからです。
――それも、NATO全軍が行かないとならない。
佐藤 そうです。アメリカの参戦だけでなく、ヨーロッパ全域が戦争に巻き込まれます。それを望んでいるのはポーランドくらいです。
――NATOには「戦争中の国は入れない」との加盟規定があります。
佐藤 そもそも、ウクライナのNATO加盟はないわけです。
もうひとつNATOに関して重要なことがあります。ロシアの対外諜報庁が「実はウクライナの保障占領計画がある 」と以前言っていました。それが、いま現実になろうとして
います。
――英国がウクライナに送ろうとしている平和維持軍とかの話ですか?
佐藤 それが、対外諜報庁が行なっている分割保障占領のシナリオでしょう。
――太平洋戦争末期にも、米英ソ中の四カ国による日本の分割統治計画がありましたね。
佐藤 それに近いものです。ただし、こちらの話では主権は一応ウクライナにあることになるので、支配は少し薄まりますけどね。しかし、ロシアが分割統治を認めるわけはありません。なので、どのようにしてロシアとウクライナの安全を保障するのか、そこはプーチンもまだ白紙だと思います。
バンス案が大枠で良い点は、今の占領地で休戦することです。ただし、ロシア領とは明示的に認めず、ロシアもそこまで要求しません。
まず軍は戦闘を止めて、非武装地帯を作って武力衝突がないように監視します。それで、残ったウクライナの領地をどう安全保障するか? そこにNATO諸国が出しゃばって来ると、今後、衝突が起る可能性があります。だから、ロシアは保障占領=分割統治を嫌がるわけです。
――仮にその枠組み作りの半年間にウクライナで陣取り合戦が起きたら、プーチンはやれるところまで行きますか?
佐藤 行きます。
――その時はドニエプル川左岸まで?
佐藤 左岸は全て取るでしょう。
――すると、首都キーウの川の向こう岸はロシアになっている。
佐藤 その可能性は十分にあります。だけど、その前に白旗を上げれば別です。だから、ウクライナがいつ手を上げるか、そのタイミングだけですよね。
――それはいつですか?
佐藤 アメリカが「白旗を上げろ」とウクライナに告げた時です。
――あっ、なるほど。
佐藤 ウクライナには自分たちで停戦を決断する能力はありませんから。
――言われた通りにやれと。
佐藤 ではなくて、「教えた通りにやれ」です。いまウクライナが戦闘をチマチマと続けているのは、まだアメリカからその教えが出ていないからです。
バイデンは基本的に、「教えた通りに戦え」「最後のひとりまで戦うんだ。アメリカの価値観のために」と言っていたわけですからね。しかし、トランプが出てきたら......。
――停戦。すると、もしプーチンが力の均衡点を目指すならば、できるところまで続けるのですか?
佐藤 できるところまでやるでしょうね。
――その均衡点はどこにあるのでしょうか?
佐藤 ロシアの内政要因と獲得できるウクライナの領土の比較考量になると思います。ロシア国民は戦争が長引くことを望んでいません。今後も戦争が続けば、計30〜50万人の国民を動員することになります。その人的資源を別に使った方が有効じゃないですか。
――そりゃ、戦死や戦傷するより別の方が有効です。
佐藤 そこが均衡点になります。つまり、この戦争はロシアが勝つので利益になります。もう、個々に要衝は取れていますしね。ただし、一定の損失があります。
なので、どこで戦争を止めて、占領した地域に産業、農業を興して、そこから金を儲ける方法に人的資源を使うか。戦争で領土を広げることと、戦争で国民を失うこと、どちらが良いかの選択になります。
――そここそが、均衡点ですね。
佐藤 だから、ロシア側の事情という意味において、均衡点があります。
――両者の均衡ではなく、ロシア側の均衡点ということ。
佐藤 そうです。領土を取ればいい、広げればいいというゲームではないですからね。広げた領土に人が住んで、食っていけるようにしなければなりません。
ただし、ウクライナが攻めてきている間は止められません。いまはウクライナが弱くなり、十分に抵抗できない状況になっていますが、最後はやはり「アメリカがそこで終わりと思ったら」ということになると思います。
次回へ続く。次回の配信は2025年2月14日(金)予定です。
取材・文/小峯隆生