IHクッキングヒーターの事故が増えている。「火種がないから大丈夫」と目を離した隙に、爆発音とともに勢いよく火が立ち上る―。少しの油断が大きな火災を招くかもしれない。
「先日、IHクッキングヒーターで揚げ物をしている最中に宅配便が届いたのですが、『少しくらい大丈夫』と、その場を離れて玄関で対応しました。顔なじみの宅配業者だったのでつい立ち話をしてしまい、キッチンに戻ったときには、鍋から煙が上がっていました……。
急いで電源を切り、すぐに対処できたので事なきを得ましたが、あともう少しで発火するところでした。キッチンを離れている間に油の温度が急上昇したようで、本当に危なかったです」(埼玉県・50代主婦A子さん)
近年、オール電化住宅などの増加により、従来のガスコンロに代わってIHクッキングヒーターの普及がどんどん進んでいる。だが、「火を使わない調理器なので安心、安全」だと油断をしていると、思わぬ事故や火災に発展する危険性があるのだ。
「IHクッキングヒーターは、火を使わずに調理ができるうえ、“異常温度上昇防止機能”などの安全機能も充実しています。そのため、『火災が起きる心配はないだろう』と、油断されている方が少なくありません。取扱説明書に記載されている使用の際の注意事項を確認せずに、誤った使い方をすることで起きる事故や火災が全国各地で発生しています」
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こう語るのは、家庭用電気製品や身の回り品などを対象に、製品事故に関する情報収集、調査、原因究明を行っている、独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)の製品安全広報課・安元隆博さん。
冒頭のA子さんも、取扱説明書に書かれた注意事項を守らなかったことから起きたケースだった。
A子さんは、取扱説明書に定められた油の量よりも少ない量で揚げ物をしていたという。さらに調理設定を“揚げ物”ではなく、“加熱”モードで調理中にキッチンを離れた。油の温度が上昇し続けたため、安全機能が正しく作動せず発火寸前となったのだ。
東京消防庁「火災の実態」によると、近年、都内で発生した電磁調理器(IHクッキングヒーター)の火災の件数は、2018年に19件だったのが、2023年には42件と2倍以上になり、年々増加傾向にある。
火災件数が増加していることに加え、火災に至らず顕在化しない危険な事例も多く存在することから、東京都は「IHクッキングヒーターの安全性に関する調査」を実施(使用経験のある都内在住の20歳以上の男女2千人を対象にアンケート調査。2023年3月発表)。
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その結果、「調理中に発煙・発火したなどの危険な経験をした」という人は、全体の15%もいた。発煙・発火の主な原因については、「その場を離れていたため、加温しすぎていた」が32.8%。「モードの設定を誤った」が11.8%、「IH非対応の調理器具を使用していた」が10.3%であった。
また、「使用しているIHクッキングヒーターの注意表示の確認の有無」については、「ない」が53.4%と、半数以上が注意表示の確認をしていないことがわかった。さらに、「調理時にIHクッキングヒーター本体から離れることがあるか」については、「たまにある」が50.2%。「ない(常にそばにいる)」が32.9%。「よくある」が16.9%もいた。
「NITEに通知があった事故、火災の中には、底が平らではない反った鍋などを使用して発火したという事例もあります」(安元さん、以下同)。
■購入から10年以上のIHクッキングヒーターからも油が発火する恐れが
「また、市販の汚れ防止シートをプレートの上に敷いて通常の加熱モードで調理していたら、天ぷら油が過熱され、火災が起きたという報告もあります。汚れ防止シートを使用すると、温度センサーが正しく働かない恐れがあるので、メーカー側も注意喚起しています」
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このほかにも、10年20年使用している古いIHクッキングヒーターの場合、経年劣化によって内部の電気部品が不具合を起こし、急激な温度上昇が起きる可能性もあるという。 また、電源を入れて異音がするような場合は、火災発生の原因ともなりかねないので、専門家に点検してもらう、あるいは買い替えを検討したほうがいいそうだ。
危険なのは、調理するときだけではない。室内で飼うペットが火災を引き起こすケースもある。
「飼い主が外出中に、飼っていた猫がプレートに乗って電源スイッチが入ってしまい、その上に置いてあった金属製ボウルが加熱され、周辺の可燃物と接触して火災になったという事例もあります。 猫は行動範囲が広いので、出掛ける際は室内で放し飼いせずにケージに入れておくことも、大切なペットを火災から守るために有効な対策の1つです」
過去にはIHクッキングヒーターが火元となり、住宅が全焼した事例もある。とくに空気が乾燥している今の時季は、火を使わないから安全、安心だと油断するのは危険だ。調理中はその場を離れず、取扱説明書の注意事項をもう一度再確認。正しい使用方法で火災を防止しよう!
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