今年のアカデミー賞で3部門にノミネートされた話題作『野生の島のロズ』(公開中)の監督・脚本を手掛けたクリス・サンダースにインタビューを行った。
【画像】映画『野生の島のロズ』場面カット
ディズニーで経験を積み、『リロ&スティッチ』(2002年)の監督を務め、ドリームワークスで『ヒックとドラゴン』(10年)などを手掛けてきたクリス・サンダース。本作は、16年に出版されたアメリカの作家ピーター・ブラウンによる童話『野生のロボット』が原作。野生の島に漂着した最新型アシスト・ロボット「ロズ」は、ひょんなことから雁(がん)の子「キラリ」を育てることになり、やがて愛情が生まれ、動物たちと共に生き、島の危機を乗り越えていく物語。
昨年9月27日に3962館で全米公開され、初週末3日間の興行収入ランキングで初登場第1位(3500万ドル※)を獲得。世界興収合計3.2億ドルを超える成績をあげている(※数字は2月6日現在、BoxOfficeMojo調べ)。「第82回ゴールデングローブ賞」4部門ノミネート、「第52回アニー賞」では最多9部門10ノミネート。「第97回アカデミー賞」には長編アニメーション映画賞、作曲賞(クリス・バワーズ)、音響賞の3部門にノミネートされている(授賞式は、現地時間3月2日予定)。
――すでに世界各国で大ヒットしていますが、今、どのような気持ちでしょうか?
【クリス・サンダース】これまで手がけた映画の中でも、これほどまでにワクワクした作品はありませんでした。制作が進むにつれ、スタッフ全員がこの物語に惚れ込んでいきました。アニメーターたちが「もっとやれることはないか?」と尋ねるほど、情熱を注いでいました。もちろん、僕自身もそうです。締め切りがある以上、終わらせなければならないけれど、終わらせたくない。こんな経験は本当に稀で、特別な作品になりました。
――観客もいつまでもロズと一緒に“野生の島”にいたい、そう思えるほど心ひかれるものがありました。監督は、この作品が持つ感動の本質をどのように捉えていますか?
【クリス・サンダース】それは、原作者ピーター・ブラウンによるところが大きいと思います。彼は「カインドネス(人に優しくあること)は、生きるためのスキルである」ということを念頭に置き、『野生のロボット』を執筆していたと聞きました。私たちもそれを“north star(北極星=方向性と指針)”にしました。
そして、この作品は“母親の物語”でもあります。アニメ作品では、母親が不在の設定が多いのですが、母親というのはとてもパワフルな存在ですよね。さらに、ロズが自分のプログラムを超えて変わっていくというテーマも、多くの人に響くものだったのだと思います。誰しもが「変わること」を求められる瞬間がある。それは容易なことではないけれど、変わることができれば成長につながる。そこに共感してもらえるのではないでしょうか。これらの要素が積み重なって、観客の感動につながっているのだと思います。
――蝶が羽ばたくシーンがとても印象的で、言葉にならない感動がありました。
【クリス・サンダース】私もあのシーンにはグッときました。そこにある“純粋さ”が、心に直接響くのだと思います。加えて、音楽の力も大きいです。僕は「映画の中で最も大きな声を持つのは音楽」だと思っているのですが、本作では、作曲家のクリス・バワーズが、ゴージャスでありながら繊細なスコアを書いてくれました。せりふを入れる必要がないほど物語を語ってくれました。渡り鳥たちが飛び立つシーンもそうですね。ビジュアルと音楽だけで語れるシーンにしたかった。
もう一つ、僕が気に入っているのは、冬の訪れを描いたシーンです。渡り鳥が去り、生き物たちが冬支度を始め、ロズが通信シグナルを発信する場面。あのシーンは、アニメーションの素晴らしさも際立っていますし、音楽が一層そのシーンを感動的なものにしてくれました。
――何度も観たくなるシーンばかりです。一方で、ゴールデンゲートブリッジが半分海に沈んでいるショッキングな描写もありました。これは温暖化が進んだ未来を暗示しているのでしょうか?
【クリス・サンダース】サンフランシスコの子どもたちも、あのシーンを観てショックを受けたみたいです。「僕たちのゴールデンゲートブリッジが沈んでる!」って。原作者のピーター・ブラウンに「時代設定はあるのか?」と聞いたところ、「特に決めていない。ただ、地球の未来のどこかだ」と言っていました。映画の中でそのことを伝える象徴的なものを入れたいと思いました。最も簡単な方法は、誰もが知っているランドマークを使うことでした。
――今回の作品で大切にしたことは何ですか?
【クリス・サンダース】この作品では、3つのことを大切にしました。1つは、ロズがプログラミングを超えて変わっていく姿を描くこと。2つめは、原作者が伝えたかった「カインドネス(親切・優しさ)」のメッセージをしっかり表現すること。3つめは、1時間半という限られた時間の中で、急ぎすぎず、観客が感情を受け止める余白を作ることです。
映画は飛行機のようなものです。1時間半のフライトの間に、観客をどこへ運ぶのか。そのために「どの情報をどこに置くか」が大切になってくる。決して「スケジュールに追われている映画」にはしたくなかった。観客が作品の中で呼吸できるような間(ま)を作ることが、僕たちにとって最大のチャレンジでした。
――まさに、観ていて気持ちのいい時間を過ごせ、観終わった後にいつもの景色が違って見える映画でした!
【クリス・サンダース】そう言ってもらえるのが一番うれしいです。この映画を通じて、観た人それぞれが何かを感じ取ってくれたら、それが何よりの成功です。