「ダメージ受けるのは現役世代」高額療養費制度 自己負担限度額の上限引き上げに識者警鐘

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2025年02月12日 11:10  web女性自身

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ステージIVの末期がんで約1年におよぶ闘病生活を続けていた経済アナリストの森永卓郎さん(享年67)が1月28日に亡くなった。



「民間の保険には加入していなかった」という森永さんは生前、「がんの治療でも、手術、放射線治療、抗がん剤治療といった標準治療の範囲内であれば、ほとんどが“高額療養費制度”など公的補助でカバーできる」と、低所得者でも治療を受けやすい日本の医療制度の利点を語っていた。



高額療養費制度とは、医療費が高額になった場合、自己負担限度額を超えた分については公的医療保険から支給する制度のこと。まさに“命綱”というべき制度なのだが、現在、崩壊の危機にある。



政府は患者団体にも一切ヒアリングをしないまま、「自己負担限度額の上限を今年8月から段階的に引き上げる」と昨年末に発表。2027年8月から、中間層となる年収約700万円のケースでは、1カ月あたり5万8,500円の負担増になる。



「引き上げられると、多くのがん患者や難病患者が、治療を中止するか否かという決断を迫られます。実際、当団体が1月に緊急実施したアンケート調査には、3日間で3,600件以上もの悲痛な声が寄せられました」



そう明かすのは、52のがん患者団体からなる「全国がん患者団体連合会(以下、全がん連)」の理事長、天野慎介さん。



アンケートには、次のような叫びが並ぶ。



《現在でも月に10万円近い医療費がかかっており、家族に申し訳なく思っています。これ以上は支払えないので無治療を選ばざるをえない(50代女性)》



《乳がん骨転移ステージIVです。エンドレスの抗がん剤治療をしていますが、とてつもなく高額。小学生の子どもが2人いるので学費のことを考えると不安しかない。もう生きることを諦めるしかないのか(40代女性)》



《ステージIIIの乳がんで抗がん剤の治療をしています。1錠8,000円の薬を朝晩毎日飲めるのは高額療養費制度のおかげと感謝しています。治療を続けていきたいです。これ以上がん患者を苦しめないでください(30代女性)》



ほかにも、悲痛な声が多く寄せられている。



最近のがん治療は、高額な抗がん剤を継続して使用するケースも多く、治療費がかさむという。



「女性にもっとも多いタイプの進行性乳がんの場合、標準治療はページニオ(経口の分子標的薬)とアリミデックス(ホルモン治療薬)の併用です。しかしページニオを用いたホルモン陽性乳がん治療薬の総額は1カ月あたり約50万円(1錠約8,000円)と高価なうえ、悪化しない限り1日2回、服用し続ける必要があります」(天野さん)



1カ月あたりの自己負担限度額はいくらになるのか。



「年収約700万円の方の場合、現行の自己負担限度額は8万2,430円ですが、最終的な引き上げとなる2027年8月からは、1カ月あたり13万8,980円と、約6万円も負担増になります」(天野さん)





■高額な抗がん剤を長期間継続して使用する必要も



臨床データによると、悪化するまで続くページニオの服用期間は、中央値で約29カ月。つまり、平均すると29カ月間、高額な医療費を払い続けねばならない。



「ただし、直近12カ月の間に3回以上高額療養費の対象になった場合、4回目以降は自己負担限度額が引き下がる“多数回該当”が適用されます。



この特例のおかげで長期の治療を継続できている患者も多いのですが、多数回該当の自己負担限度額も現状の4万4,400円から7万6,800円に引き上げられてしまうんです(年収約700万円の場合)」(天野さん)



進行性乳がんの患者が29カ月間、ページニオとアリミデックスを併用すると仮定した場合、単純計算(年収約700万円で、上限額3回、4回目以降多数回該当26回の支払いをした場合)でも現在約140万1,000円の自己負担限度額が、約241万3,000円と約101万円も負担増になる。



「検査代や通院時の交通費、ウイッグ代なども含めると、さらに負担は膨らみます」(天野さん)



女性特有のがんをサポートする会からは、「今回の引き上げは、働く世代の女性に大きな影響が出る」と懸念の声が上がっている。



「とくに女性特有のがんは、20〜50代の者が多いので、単身、子育て中、シングルマザーなどから、現行でも治療することは経済的にぎりぎりとの声を聞いています。



今後は目の前に薬があっても使えないという状況になりかねません」(天野さん)



「NPO法人 京都ワーキング・サバイバー」理事長の前田留里さんも「仕事と治療のはざまで悩む女性からの相談が多い」として、こう明かす。



「単身・非正規の女性はもちろんのこと、治療のために正社員を辞めてパート勤務に変わったものの、収入が落ちて医療費の支払いが大変という方もいます。



今回の自己負担限度額引き上げは、そうしたなかでも踏ん張っている方々を相当厳しい状況に陥れることになります」



一方で、家計を支える夫ががんに罹患した場合の経済的打撃も深刻だ。



9年前に夫(当時50歳)をスキルス胃がんで亡くした「認定NPO法人希望の会」理事長の轟浩美さんは、こう話す。



「スキルス胃がんは若い世代の患者が多く、現行の制度下でも治療費の負担が大きく、家族に申し訳ないという声が多い状況です。



引き上げ案を知り『治療を断念し、死を受け入れる』との悲痛な叫びが届き始めています」



スキルス胃がんの治療には、オプジーボという免疫チェックポイント阻害剤が使用されることがあるが、これも非常に高額になるという。





■低・中所得者層の負担を大幅に増やす可能性が



問題なのは、一連の自己負担限度額の引き上げによって、「もっともダメージを受けるのがボリュームゾーンである現役世代の“低・中所得者層”(年収約260万〜約770万円)だ」



と指摘するのは、全国保険医団体連合会、事務局次長の本並省吾さん。こう続ける。



「石破首相は1月24日の施政方針演説で、『高額療養費の見直しなどで社会保険料負担の抑制につなげる』などと、いかにも現役世代の負担を減らすかのように述べましたが、実際はちがいます」



70歳未満の現役世代で見ると、公的医療保険の加入者9,640万人のうち、年収が770万円以下の低・中所得者層が8,720万人と8割以上を占める。



また、高額療養費を年1回以上利用している400万人のうち、9割以上を占めるのも低・中所得者層だ。



そもそも高所得者の場合、上限額も高いため利用対象から外れることが多いのだという。



つまり、自己負担限度額の引き上げは「現役世代の負担を減らす」どころか、ボリュームゾーンである現役低・中所得者層の負担を大幅に増やす可能性があるわけだ。



「2人に1人ががんに罹患し、3人に1人ががんで亡くなる時代。国民を不安にさせる自己負担額引き上げは、将来不安を助長するものでしかありません」(本並さん)



前出の天野さんは、「まず、高額療養費制度を利用している患者の実状を石破首相に知ってほしい」として働きかけを続けている……。



こうした、がん患者らの反発の声を聞いてか、政府は今夏から自己負担の上限を引き上げる方針を見なす方向で調整に入った。



石破首相が掲げる「楽しい日本」が「地獄の日本」とならないよう期待したい。

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  • 「何百万もかかる中の数万円」の上限引き上げに、大きな意味はあるのだろうか。それよりも子ども医療とかのコンビニ受診をどうにかした方が良さそうな気もするけど…。
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