
横浜DeNAベイスターズ・戸柱恭孝インタビュー(前編)
昨年、シーズン3位からクライマックス・シリーズ(CS)で阪神、巨人を破り、日本シリーズに進出。日本シリーズでもパ・リーグの覇者・ソフトバンクに2連敗からの4連勝で一気に頂点へと上り詰めた横浜DeNAベイスターズ。その立役者のひとりが、山本祐大、伊藤光の相次ぐ離脱のなか、マスクを被った戸柱恭孝だ。CSのMVPに輝くなど獅子奮迅の活躍でチームを牽引。戸柱が"史上最大の下剋上"を振り返った。
【日本一の瞬間は安堵感】
── 26 年ぶりの日本一おめでとうございます。"史上最大の下剋上"と言っても過言ではないと思いますが、「日本一の景色」はいかがでしたか。
戸柱 プロ入り2年目の2017年も、レギュラーシーズン3位から阪神、広島を破って、日本シリーズに出場させてもらいました(ソフトバンクに2勝4敗)。その時は右も左もわからなくて、一生懸命プレーするだけだったのですが、今回に関しては周囲の状況も客観視しながらプレーできました。
── それがCSの全8試合中、スタメン出場した7試合で安打を放ち、さらに好リードで投手陣を牽引しMVPを獲得。それが日本シリーズでの活躍にもつながったのですね。
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戸柱 日本一になった瞬間は、ホッとした安堵感が一番強かったですね。2、3日経ってから、「本当に日本一になったんだな」という実感がじわじわ湧いてきました。
── シーズン終盤の9月15日に右手首を骨折した山本祐大選手に続き、伊藤光選手がCS阪神第1戦で左ふくらはぎ肉離れと、相次いで戦線離脱。自分に出番が回ってきた時はどんな心境でしたか?
戸柱 開幕前に「どんな状況でもDeNAのために尽くそう」という思いでシーズンに臨んだので、結果的にシーズンは46試合にとどまりましたが、毎日試合に出る準備だけは欠かさずやっていました。出番が回ってきた時は、「よし、やってやろう!」という気持ちが一番でした。
── 努力が報われましたね。
戸柱 人間ですので気持ちの浮き沈みはあるし、正直、心が折れそうな時期も少なからずありました。でも、いい結果が出た時には「やるべきことをやってきてよかった」と、あらためて思いました。どんな時でも準備するという大切さを、周りにも証明できたのではないかと。プロは結果を出さないと評価されない部分はありますし、ただでさえ捕手はなかなかスポットが当たらないポジションですから。
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── 阪神とのCS第2戦で5打点。シーズンでの打点を1試合で上回りました。あれで気持ち的に乗れましたか。
戸柱 毎日、早出特打をしていたので、見てくれていたコーチには「たまたまではなく、打つべくして打ったんだよな」と声をかけてもらいました。
【捕手としての引き出しが増えた】
── もともと勝負強い打撃には定評がありますが、リード面はどうでしたか。
戸柱 今年は山本捕手が骨折した9月中旬以降、試合に出させてもらいました。僕はプロ入り1、2年目に開幕スタメンから100試合以上に出ていたのですが、当時とは違った手応え、駆け引きをつかみました。捕手としての引き出しがもう1個、2個と増えた感覚です。それが、その後の短期決戦にも生きました。
── 「捕手としての引き出し」とは具体的にどんなところでしょうか?
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戸柱 12種類のカウント別に打者がスイングしている球種、ヒットになった球種、ファウルしている球種は頭に入れてあります。それとは別に相川亮二ディフェンス兼バッテリーコーチと相談しながらやっていました。配球を組み立てるなかで、これまでは「打者優先(弱点を攻める)」オンリーでした。
── それがバージョンアップしたということですね。
戸柱 シーズン途中、(アンドレ・)ジャクソンをリードしていて「投手優先(長所を引き出す)」が加わりました。さらに「打者心理」を考えるようにしたら、ストレートが通る(打者が見逃す)ようになりました。それが試合において1打席目、2打席目、3打席目とつながるようになったのです。プロ9年間、なかなか埋まらなかったパズルのなかで、見つからなかったピースがカチッとはまったような感覚でした。そこに「投手心理」を加えられたらいいなと思っています。
── プロ入り時の2016年はアレックス・ラミレス監督就任の年でもありました。現役時代は「投手の球種より、捕手の配球」を研究して、通算2000安打を達成した選手でした。
戸柱 ラミレス監督には5年間お世話になりました。僕がデータ好きになったのは、ラミレス監督の教えが基盤です。データの使い方ひとつで、捕手が安心できる材料になります。
── 東克樹投手(シーズン13勝4敗)が阪神とのCS第1戦で、左太もも肉離れで4回降板。ただでさえ先発投手の頭数が足りないなか、特にアンドレ・ジャクソン(8勝7敗)投手とアンソニー・ケイ(6勝9敗)投手を絶妙なリードで引っ張りました。
戸柱 巨人とのCS第1戦で初めてケイとバッテリーを組みました。試合前の投球練習で彼の球を受けて、球威、球質に衝撃を受けました。「ユー、すごい投手や。なんで、この球でシーズン6勝なんや」と(笑)。荒れ球ではありますが、本番でいかにボール球を振らせるか、ストライクを投げさせるかは捕手の仕事です。案の定、ケイは巨人打線に6回4四球でしたが、6奪三振の無失点に封じ、初戦をとったのです。今シーズンは2ケタ勝ちますよ。
【栗原陵矢に6球連続チェンジアップ】
── ソフトバンクとの日本シリーズでは、第1戦の1回表、四球で出塁した柳田悠岐選手の盗塁を刺し、7回にも周東佑京選手の二盗を刺しました。シリーズ第1戦で2つの盗塁を刺したことが、後々の戦いに大きく影響したのではないでしょうか。
戸柱 はい。その試合は結果的に負けてしまったのですが、その後の試合はそんなに盗塁を仕掛けてこず、結果的に6試合で許した盗塁は2つだけでした。
── チームとしてのターニングポイントは、2連敗のあとの選手ミーティングだと聞きました。
戸柱 若い選手が多くて、経験が少ないチームなので、CSで阪神、巨人を破ってみんな満足したのか、少し浮ついた部分はありました。だから、僕、筒香嘉智、桑原将志、柴田竜拓、主将の牧秀悟が中心となって、選手ミーティングを開きました。それが結果を左右したのかどうかはわからないですけど、そこから4連勝で日本一に駆け上がったわけですから......みんながいろんな意見を出し合い、ほんとに"いい時間"でした。
── シリーズ第3戦は、復帰した東投手の好投も大きかったです。第4戦ケイ投手、第5戦はジャクソン投手がともに7回零封。リリーバーにつないで、強打のソフトバンク打線を連続29イニング無失点に封じました。
戸柱 東は(山本祐大とバッテリーをよく組むので)2年ぶりにリードしたのですが、さすが2年連続2ケタのコントロールの持ち主ですよ。東もジャクソンもケイも好投手で、試合後に「捕手は誰でもいいんじゃないのか」と、冗談っぽく言ったほどです(笑)。
── 戸柱さんは、難しい左投手のスライダーのキャッチングが絶妙です。
戸柱 投手陣が「投げやすい」と言ってくれるのでうれしいですよね。普段から投手陣とはコミュニケーションを取ることを心がけていたので、突然バッテリーを組んでも信頼関係ができていたのがよかったと思います。
── 特に第5戦は、初回を3者連続三振。3回には3番の栗原陵矢選手に対し、ジャクソンが6球連続チェンジアップを投じ、空振り三振に打ち取りました。
戸柱 1戦目から4戦目までのつながりがあったなかで、あそこは単純に「投手優先」と「打者優先」の2つがマッチしたということです。どこかで違う球種を挟もうと思っていたのですが、2球投げた時点で「全部チェンジアップでいこう」と考え直しました。
── 2017年もシーズン3位で日本シリーズに進出し、同じソフトバンクに2勝4敗。今回リベンジできましたね。2025年の目標は?
戸柱 僕も含めて、チーム全体として「リーグ優勝しての日本一」です。個人的にはチームの戦力としてどれだけ必要とされるかも大事だと思うので、それがスタメンであったり、途中出場であったり、また抑え捕手であってもどこでも対応できるようにやっていきたいと思います。
つづく>>
戸柱恭孝(とばしら・やすたか)/1990年4月11日、鹿児島県出身。鹿屋中央高から駒沢大に進学し、卒業後はNTT西日本へ入社。 入社2年目の2014年に正捕手となると日本選手権8強入りに貢献。 15年のドラフトでDeNAから4位指名を受け入団。プロ1年目から開幕スタメンを果たすなど124試合に出場し、DeNA初のCS進出に貢献した。24年、シーズンでは46試合の出場にとどまったが、CSではケガで離脱した山本祐大、伊藤光に代わりスタメンマスクを被ると、MVPを獲得する活躍で阪神、巨人を破り日本シリーズ進出。ソフトバンクとの日本シリーズでも攻守に存在感を発揮し、26年ぶり日本一の立役者となった