アセットマネジメントOneは2月6日、東京・丸の内の東京會舘で「DCセミナー2025」を開催した。 アセットマネジメントOneは2月6日、東京・丸の内の東京會舘で「DCセミナー2025〜未来を見据えたDC法改正と金融経済教育の新潮流〜」と題したセミナーを開催した。DC(確定拠出年金)を導入している企業の担当者を対象としたセミナーで、みずほ銀行、第一生命保険、ティー・ロウ・プライス・ジャパンの協賛を受けた大規模なセミナーになった。冒頭であいさつに立ったアセットマネジメントOne代表取締役社長の杉原規之氏(写真:上段の左)は「施行が待たれている改正DC法は、年金改革の柱の1つとなると期待されている。今後日本のDCビジネスや金融経済教育の在り方がどのように変わっていくのか、重要な転換点にある」とし、DC運営管理機関であるみずほ銀行、第一生命保険とともに、米国のDC市場で大きな存在感のあるティー・ロウ・プライスと共催する同セミナーの狙いを語った。
セミナーは3部構成で開催。まず、「次期DC法改正のポイント〜社会保障審議会から〜」と題して社会保障審議会企業年金・個人年金部会の委員であるNPO法人確定拠出年金教育協会理事兼主任研究員の大江加代氏(写真:上段の中央)から、DC法改正における企業型DCに関する改正のポイントを解説した。大江氏は、改正のポイントを4つとして「DB/DC含めた掛金限度額が月額7000円アップ」「マッチング拠出の事業主掛金額以下という制約の撤廃」「外国籍社員が帰国する際の脱退一時金について加入期間要件を5年以下から8年以下に延ばす」「加入者のための見える化」と紹介した。
拠出限度額の拡大については小幅のものとなったが、「マッチング拠出における事業主掛金額以下という制約の撤廃は、長年にわたって要望が出ていたもの。制約が撤廃されたことで、特に企業からの拠出額がまだ少額になっている若年層のマッチング拠出の活用が期待される。企業型DCだけでなくiDeCo(個人型確定拠出年金)も含めた活用法が進展していくことが期待される」(大江氏)とした。そして、「見える化」については、厚生労働省が取得している企業年金関連の情報を活用して年金運用の現状を示すことをめざす。大江氏は「たとえば企業ごとのDC運用利回りの平均値などが開示されれば、他の企業と比べて利回りが低い企業では運用状況の見直しについて議論されるようになるかもしれない。どこまで踏み込んだ情報開示がなされるのか、その内容を待ちたい」と語っていた。また、「今後のDC市場の発展のためには、商品ガバナンスについて十分に吟味された運用商品を揃えているのか、適正な入れ替えが行われているのかなどのチェックも重要になってくる」と語っていた。
第2部は「DC加入者が求める金融経済教育と現状分析〜日米DC加入者の比較〜」と題してアセットマネジメントOneの未来をはぐくむ研究所長である伊藤雅子氏(写真:上段の右)が講演した。ティー・ロウ・プライス・ジャパンの協力を得て米国のDC加入者を対象として実施した調査結果を使って日米の比較を行った結果を解説した。伊藤氏は「日米でDCに関する考え方が異なるのは、米国には定年退職という制度がないため米国人は自らが退職の時期を決めている。このため、退職後の生活設計などリタイアに関する悩みが強い」と全体の印象を語った。そして、「日本では自分が受け取れる年金額について知っている人は退職年齢期が近い50歳以上64歳以下の方々でも36%程度と全般的にリタイアメントプランに対する関心度が低い。ただ、近年、29歳以下の若手層の間で会社が行う従業員のための金融経済教育への関心が高まるなど、若い層に資産形成への関心が強まっている」と今後への期待を寄せた。
一方、日本の企業型DC制度加入者約830万人に対し米国では約7000万人がDC制度に加入している日米の制度的な違いについて、「日本はマッチング拠出など従業員が希望を出さないと始められない『オプト・イン型』の制度運営が基本になっているが、米国は拒否しないと自動加入になる『オプト・アウト型』を活用している」と強制加入的な取り組みの有効性を指摘した。また、米国では企業が従業員向けに提供している資産形成に関するツールやコンテンツへの信頼度が高く、多くの人が活用しているが、日本ではYoutubeやSNSなどを使って投資情報を自主的に得ている傾向が強いことを紹介。「どちらが正しく有効な情報を得ているのかという点では国内の状況に不安を覚える」として国内でも企業型DCを通じた金融経済教育の充実が求められると語っていた。
第3部は「事業主における今後のDC制度運営と加入者エンゲージメントに向けた道しるべ」をテーマにパネルディスカッション(写真:下段)を行った。パネリストはティー・ロウ・プライス・ジャパンのリレーションシップ・マネジャーの横川雄佑氏、パパラカ研究所長の山根承子氏、NPO法人確定拠出年金教育協会の主任研究員の絹川竜男氏。アセットマネジメントOne常務執行役員機関投資家営業本部長の三木威氏がモデレーターを務めた。三木氏は、新NISAスタートも背景として、2024年のDC制度で活用されるDC専用ファンド全体の資金流入額は過去5年平均の1.4倍、そのうち、特に海外株式ファンドは2.4倍に拡大するなど、新NISAがDC市場を活性化している状況を紹介し、「DC市場は転換点を迎えており、投資教育の充実やDC導入企業が抱えている課題へ対応も重要になりつつある」とした。
絹川氏は企業の規模別の継続投資教育の実態を調査した内容を紹介し、事業規模の大きな企業を中心にイントラネットやeラーニングを活用した教育が進み、習熟度の違いや運用タイプ別の勉強会といったセグメント化した教育も実施されているとした。また、行動経済学に詳しい山根氏は「行動を変えるきっかけになる方法はいくつかの取り組みがあり、ひとつにはデフォルトを強制すること。そして、社会比較といって周囲と比べること。また、フィードバックをしながら目標設定を行うことなどがある。目標設定をするだけでは不十分で、その結果を振り返り、目標を再設定するなどフィードバックを併せて行うことが重要だ」と語っていた。また、横川氏はティー・ロウ・プライスが米国で実際にDC導入企業が利用している従業員向けのツールを紹介した。個々の従業員ごとに拠出金額や残高の状況に応じたコンテンツ内容がカスタマイズされて提供されている状況がよく分かった。