
あらゆる事情から行き場を失った犬猫を保護し世話をしながら、第二の犬生へと繋ぐ動物保護団体。団体の多くは「1匹でも多く命を救いたい」と活動する一方、キャパシティは総じてオーバー気味。常に「1日も早く新しい里親さんに繋いであげたい」と考えています。
他方、そんなふうに過ごす保護犬たちの日々を「少しでも良く、楽しいものにできないか」と模索し続けるのが東京・足立の保護カフェ、PETS代表の田口有希子さん(39)。
田口さんは過去数400匹以上のワンコを救い幸せへと繋いできましたが、近年「かりん」という元野犬のお世話をきっかけに、ある思いを抱くようになったと言います。
「外の空気を感じさせたい」と元野犬と旅行することに
かりんは元野犬なだけに、人間との生活が苦手で超ビビリ。経験のない場面を前にするとお漏らししてしまうこともあり、数百匹を保護してきた田口さんにとって「過去最高の気難しい性格」でした。なかなか馴れてくれないかりんとの毎日の中で、田口さんは「かりんにとって、室内でずっと過ごさせるのって本当に良いことなのだろうか」とふと思います。
|
|
かつては野原を自由に駆け巡っていた野犬。人間と一緒に過ごすほうが幸せで安心なものだとは思いながらも、当のかりん自身にその自覚がなければ、ストレスが溜まる一方です。
後に田口さんは、かりんを含む保護犬たちに「たまには、広々とした外の空気を感じさせてあげたい」と連れ立って、旅行に行くことにしました。選んだ旅先は千葉・九十九里。ドッグラン付きの貸別荘で普段とは違う時間を過ごさせることにしました。
旅先で、普段とはまるで違う表情を浮かべた
旅先の九十九里に着くまで、田口さんにはいくつかの不安がありました。これまでと違う環境にかりんが逆にストレスを抱えないか、野外に出したところで野犬の血が騒いで脱走を試みるのではないか。なかなか心を開いてくれないかりんだけに、旅先での様子が想像できなかったのです。
そんな不安は杞憂に終わります。かりんは団体での時間とはまるで異なる笑顔を浮かべドッグランをうれしそうに走り回ります。さらに田口さんのことを「私の家族」といった表情で見つめ「もっと一緒に遊ぼうよ」と誘ってくるほどだったのです。
こんなにうれしそうに過ごすかりんを前に、田口さんは目頭が熱くなりました。そして、団体で保護犬のお世話をする時間が、単に「里親さんへ繋ぐまでの時間」ではなく「楽しい保護犬時代」になるようにしたいと強く思ったと言います。
|
|
「保護犬と一緒に泊まれる宿泊施設」開設へ
田口さんの考えをブログなどで知った他の保護団体、里親さんの多くが賛同しました。しかし、現状ではドッグラン付きの貸別荘はごく限られており、また「保護犬」という様々なバックボーンを持つワンコを自由に過ごさせてあげられる環境となれば、さらに限られます。
そこで田口さんは一大プロジェクトを思いつきます。「保護犬と一緒に泊まれる宿泊施設」の開設でした。
「多くの保護犬たちにとって、かりんと行った九十九里のような時間を過ごせる施設があれば、『楽しい保護犬時代』の時間がより多くなると思いました。また、併設するドッグランでは里親希望者さんと保護犬とのトライアルの場にもなるだろうし、さらに未来に保護犬猫のシェルターを併設することで、これま以上の命を救うことができるとも思います」(田口さん)
「清水の舞台から飛び降りる」気持ちで茨城県に土地を購入
田口さんは「保護犬と一緒に泊まれる宿泊施設」の場所を茨城県に決めました。茨城県は野犬が多く、さらに救える命があるかもしれないこと。そして、何より自然環境が素晴らしかったことが理由でした。
しばらく田口さんは、普段の保護活動の合間に茨城県に通い続け、ぴったりの物件を見つけまず土地を購入。土地・宿泊施設の最低限の総額が2600万円。本来はさらに費用がかかるところを、身内の手作業を加えることで絞り込みましたが、さらに併設予定のシェルターも含めると総額5000万円オーバーになるとも。
|
|
「まさに清水の舞台から飛び降りるような心境でしたが、多くの人の支援や応援があって、開設へのスタートを切ることができました。現状、費用捻出も完全と言える状況ではないですが、一歩を踏み出した以上、必ず実現させ茨城県で保護犬たちに『楽しい保護犬時代』を過ごしてほしいと願っています」(田口さん)
現在、田口さんはクラウドファンディングなどでも支援を呼びかけ奮闘し続けています。取材時に会ったかりんはすっかり穏やかな表情となり、奮闘する田口さんの背中を優しく見守っているように映りました。
(まいどなニュース特約・松田 義人)