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帰省するたびに親の老化を感じ、「介護が近いかも」と不安を覚える人も多いのではないだろうか。介護は、経済的な不安も大きい。
「介護は家族だけで背負わず、専門家を頼りましょう。そして、それらの費用は、基本的に親のお金でまかなうものです」
そう話すのは“介護離職ゼロ”を目指す活動を続けるファイナンシャルプランナーの柳澤美由紀さん。実は、介護費用への補助制度はたくさんあるという。
「ただし、補助は申請しないと受けられません。さまざまな情報を集めて、補助をどう活用して親を見守るかを考えるのが子どもの役目です」(柳澤さん、以下同)
「親のようすがおかしい」「いつもきれいな実家が片付いていない」など親の異変に気づいたら、まずは地域包括支援センターに相談して、介護保険を利用しよう。
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介護保険は、介護が必要になった人が、生活援助や身体介護などの介護サービスを原則1割負担で受けられる制度だ。65歳以上が対象と思われがちだが、若年性認知症や末期がんなどで介護が必要な40〜64歳の人も受けられる。
また自己負担の割合は、現役並みの収入がある人などは2割や3割の場合もある(以下、本稿では1割負担として解説する)。
介護保険サービスは、要支援1、2と要介護1〜5の7段階の要介護度によって、1カ月に利用できる限度額が決まっている。在宅だと自宅での訪問介護や施設に通ってのデイサービスなどを組み合わせて利用することが中心だ。しかし、限度額以外で、自宅の改修などにも介護保険が利用できるそう。
「手すりの設置など20万円までの住宅改修が、『居宅介護住宅改修費』として1割負担で行えます」
玄関や階段、トイレ、風呂場などに手すりをつけて20万円かかっても、9割=18万円が返金される。1割分2万円の支払いですむ業者もあるそう。
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「住宅改修の補助は要支援の人も利用できます。原則1人1回の補助ですが、要介護度が3段階上がったときなどはもう1度使えます。ですから、早めに介護認定を受けることをお勧めしています」
注意したいのは、最初に地域包括支援センターやケアマネジャーに相談すること。先に施工業者に見積もりを取るなどすると、介護保険が使えないことがある。
また、介護保険では介護ベッドや車いすなど福祉用具をレンタルできる。レンタルは介護プランに組み込み、毎月の限度額内に含めて払うのが一般的で、1割負担だ。
「ただ、ポータブルトイレや入浴用いすなどレンタルになじまない『特定福祉用具』を購入した場合、年10万円までは1割負担です」
こうした介護保険サービスを最大限活用しても、仕事を休まざるをえない日もあるだろう。
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「介護で仕事を休む際は、介護休暇と介護休業が使えます」
介護休暇は短期間の休暇で、休む当日に口頭での申請でもよい。年5日まで取得可能で、介護休暇の取得を会社は拒否できない。
「ただし多くの場合、無給です」
いっぽう介護休業は、介護される人1人につき3回まで通算93日間取得できる。さらに、その期間中は給料の67%相当の「介護休業給付金」が受け取れるのだ。雇用保険への加入などの要件を満たせばパートでもOK。生活費の心配を減らせるだろう。
「介護休業は、介護プランの策定から介護される人が慣れるまでの期間や入所施設を探す時期など、介護の体制づくりに活用するといいと思います。突発的に病院への付き添いが必要になったら、有給休暇か介護休暇を使いましょう」
介護休暇が有給扱いとなるなど手厚い制度の会社もあるそう。勤め先の介護制度は要チェックだ。
「自治体独自の支援策もあります」
多くの自治体で実施されているのが「家族介護慰労金」だ。介護保険サービスを利用せずに、在宅で介護を行う住民税非課税世帯に、年10万〜12万円を支給する自治体が多い。
なかには、岐阜県郡町のように年36万円という高額の家族介護慰労金もある。
また、東京都中央区は3カ月以上在宅の要介護3以上で寝たきりか認知症の人に、年24万円支給する。介護保険サービス利用の有無や住民税非課税などの条件がない手厚い自治体もあるが……。
「多くの家族介護慰労金は、介護される人が介護サービスの利用を嫌がるケースなどに限られます。該当する人は少ないかもしれませんが、忘れずに申請してください」
また、住民のニーズに応えて、介護用品の支給や補助を行う自治体も多い。
「東京都豊島区は月7千円まで紙おむつの購入費助成があります。おむつ代の補助は、おむつの現物支給やおむつ券の配布などやり方はさまざまですが、多くの自治体で実施されています」
ほかにも食事の宅配や寝具の洗濯乾燥など“あると便利”なサービスが多い。
「介護される高齢者のお住まいの自治体に問い合わせてください。せっかくの補助策を知らずに活用できないのはもったいないです」
■デイケアなどが確定申告の医療費控除の対象に
とはいえ、介護が始まるとお金がかかる。介護保険サービスの費用だってばかにならない。
「介護保険サービスの利用者負担(1〜3割)は、所得によって上限が決まっています。これを『高額介護サービス費制度』といい、上限を超えて払った分は、申請すれば返金されます」
父親は他界し、専業主婦だった母親が、住民税非課税世帯で老齢年金収入等が80万円以下というのはよくあるだろう。このケースでは母親1人の介護サービス費は月1万5千円が上限だ。たとえば要介護2で在宅の介護サービス費を月2万円近く払う人は、約5千円の返金が受けられる。介護費の負担を抑えられる制度だ。
「高額介護サービス費制度に該当する人には、自治体から書類が届きます。必要事項を記入などして返送。1度手続きすれば、それ以降の該当月は自動的に指定の口座に振り込まれます。
ただ高齢者の家に届くので、手続きできず放っておく人もいるでしょう。帰省の折には、郵便物などもチェックしてください」
さらに、入院などで医療費も介護サービス費も高額になり、それぞれの自己負担の合算額が著しく高額だった場合は「高額介護合算療養費制度」が利用できる。年間の負担上限が年収などにより決まっていて、上限を超えた金額が払い戻される制度だ。
「これほど高額になる人は少ないと思いますが、セーフティネットがあることは覚えておきましょう」
今年も確定申告が近づいてきた。実は、介護保険サービスにも「医療費控除」の対象となるものがあるという。
医療費控除とは、対象となる医療費や薬代などが年10万円を超えるなどした場合、超過分が課税対象所得から差し引かれ、還付金として戻ってくる制度だ。
「在宅介護では、訪問看護や訪問リハビリテーション、デイケアと呼ばれる施設に通ってのリハビリテーションといった医療系のサービスなどが医療費控除の対象です。
また、訪問介護やデイサービスなどの福祉系サービスも、医療系サービスと合わせて利用した場合、医療費控除が受けられることも」
ただし該当する費用の半額が対象という場合もあり、すべてを把握するのは難しい。
「介護保険サービスの領収書の下のほう、合計額の近くに『医療費控除の対象額』が記載されています。これを合算して、医療費控除に利用してください」
柳澤さんは「介護のために仕事をやめないで」と力説する。
介護保険や雇用保険、自治体の補助、国の支援など、使える制度はすべて使い倒そう。経済的な負担を軽減して、親の介護を乗り切ろう。
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