義姉に誘惑されて…母親の不倫がトラウマの男性、不倫だらけの女性に囲まれて幸福になるのか？

母親や職場の同僚、まさか義姉まで？不倫だらけの女性に囲まれた彼に幸福はおとずれるのか。

◆周囲の女性が不倫ばかり

『離婚まで100日のプリン　僕には幸せな結婚がわからない』10〜13（KADOKAWA）は、『女子SPA！』にて以前レビューした『離婚まで100日のプリン』：『離婚までの100日を描いたコミックエッセイが壮絶。夫の不倫、DVに妻はどうすべきか 』、『離婚まで100日のプリン　5年後にサレタ側のババロア』2〜5：略奪婚したら妊娠中に夫が不倫。かつてのシタ側がサレ妻側に…こりない夫の言い分がエグい＜漫画＞ 、さらに『離婚まで100日のプリン　本当のパパは誰？』6〜10：『子連れ再婚で娘と夫は血のつながりナシ…「本当のパパに会いたい」と言われブチ切れた女性に涙。漫画『離婚まで100日のプリン　本当のパパは誰？』に続く大好評の第4弾です。

プリンシリーズで唯一の聖人君子、女性なら誰もが彼氏にほしい、パンナコッ太君が主役の本作、いよいよ彼が泥沼の餌食（えじき）に。彼が不倫するのか否かは本編に譲りますが、パンナコッ太君の周囲は相変わらず地獄絵図。

甘えが過ぎてあきれるほどのクズ男性、スピリチュアルに傾倒し過ぎる自我なし女性などなど。とはいえ決して「笑えない」のが、毎回感じるこの漫画の恐さです。

それは、肌がひりつくほどのリアルさを、私達が感じてしまうから。

◆はじまりは義姉の誘惑

イケメンだけど男臭くはなく、性格も人当りもよく、安心感も頼りがいもあるけれど、後腐れもなさそう。女性から見たパンナコッ太君の印象はこんな感じでしょうか。

間違いなくモテ系男子ですが、悪い匂いがしないぶん、都合よく扱われてしまいます。ゆえに、女性達の勘違いをもろに受けてしまうのです。

最初にパンナコッ太君をおそったのは、義姉の誘惑。義姉自身のメンタルもブレブレで、なぜか夫（パンナコッ太君の兄）には胸の内を告げずに手近で親身になってくれるパンナコッ太君にすりよります。幼少期、母の不倫によって両親の離婚を経験したパンナコッタ太君にとって、身内の浮気は許しがたいものでした。

そもそもなぜ、大切な家族に心をさらけ出さないのか。悩みがあるならまず夫なり妻に相談すべきではないのか。過去のトラウマが起因して、パンナコッ太君のマインドも潔癖に傾いています。しかたのないこと、どうしようもないこと、というのが時に人間関係に生じて、夫婦や家族だからこそこじれるというのを、認められないでいるのでしょう。

◆そのクズをどうして捨てないのか

既婚者との職場不倫を経て別の男性と結婚、今度は自身がサレ妻になったババロアさんは、今や一児の母。酸いも甘いも知るパンナコッ太君とは、男女を超えた友人同士です。ババロアさんも家族3人で穏やかに暮らしていると思いきや、まさかのトラブル。夫が失踪したのです。

子育て、育休、仕事復帰、大変なのは男性も同じで同情の余地はあるものの、雨降って地固まるというわけにはいかないのが、このシリーズのクセの強さ。自分のヘタレっぷりを棚に上げてキャバクラに逃げ込む、ババロアさんの夫に理解が追いつきません。かつての浮気をポリアモリーにすり替えて正当化した夫だけある、とあきれるやら、感心するやら。「こういう人いるよね」と苦いため息をつきながらも、ページを繰る手が止まりません。

フィクションよりもノンフィクションのほうが、時に残酷で愚かだというのを本作はおしえくれます。「（夫の）捨て時」というパンナコッ太君の言葉がまた言い得て妙で、読者としては「そうだ、クズ夫を捨ててしまえ！」と応戦したくなりました。しかしクズに慣れ過ぎたのか、執着が過ぎるのか、ババロアさんの出した結論は、パンナコッ太君にとって諸手を上げて賛同できるものではないのです。

◆母との再会、和解は叶うのか

やがてパンナコッ太君のラスボス、不倫をした母との再会がおとずれます。パンナコッタ君の兄、義姉、ババロアさんが見守る中、パンナコッタ君は母を許せるのでしょうか。母を許せば、幸せのフィールドが広がると、パンナコッ太君も心の奥底でわかってはいるのです。

切なさとやさしさ、そして教訓の混ざった締めくくりに涙がにじみます。不倫も浮気も、できればしたくないし、されたくもない。でも、許す力が人には備わっているし、だからこそ人生は豊かでおもしろいのかもしれない、と読後にしみじみと思わされました。

＜文／森美樹＞

【森美樹】
小説家、タロット占い師。第12回「R-18文学賞」読者賞受賞。同作を含む『主婦病』（新潮社）、『私の裸』、『母親病』（新潮社）、『神様たち』（光文社）、『わたしのいけない世界』（祥伝社）を上梓。東京タワーにてタロット占い鑑定を行っている。X：@morimikixxx