映画『レイブンズ』(3月28日公開)(左から)瀧内公美、マーク・ギル監督、浅野忠信 (C)ORICON NewS inc. イギリス・マンチェスター出身で元ミュージシャンの映画監督マーク・ギルが、日本を代表する写真家・深瀬昌久の波乱万丈の人生を、実話とフィクションを織り交ぜながら描いた仏・日・西・白合作映画『レイブンズ』が、今月28日に日本で公開される。12日、都内の日本外国特派員協会(FCCJ)で、ギル監督と主演の浅野忠信、共演の瀧内公美が記者会見を行った。
【画像】会見中の浅野忠信や瀧内公美の写真 本作で“天才写真家・深瀬昌久”の光と闇を、ワイルドかつ繊細に演じた浅野は、会見の冒頭で「ゴールデングローブ賞受賞俳優」と紹介されると、満面の笑みを浮かべながらガッツポーズを披露し、会場を沸かせた。
さらに、「『SHOGUN 将軍』の撮影が終わった後、その年の6月から『レイブンズ』の撮影に入る予定だったのですが、『SHOGUN 将軍』の撮影が押してしまい、『レイブンズ』の撮影を1年先に延ばしてもらいました。そのため、『SHOGUN 将軍』の現場では『(『レイブンズ』の撮影があるから)早く日本に帰らなきゃいけないのに!』と取り乱しながら撮影していました(笑)。結果的に『SHOGUN 将軍』でゴールデングローブ賞を受賞し、それはそれで素晴らしい経験だったのですが、深瀬という役を、『SHOGUN 将軍』の撮影中もずっと心の中で温めていたんです。こうして皆さんに作品をお届けできる日を迎え、会見の場を設けていただけたことを本当にうれしく思っています」と、本作への熱い思いを語った。
司会者が「今日は『レイブンズ』にフォーカスしてくださいね。『SHOGUN』の質問はなしでお願いします」と念を押すと、ギル監督が「僕が質問するのはアリ?」と茶目っ気たっぷりに返し、記者たちの笑いを誘う一幕も。司会者の心配(?)をよそに、イギリス人監督が日本の俳優を起用し、日本で撮影を行った稀有な映画づくりに関心を寄せる記者たちから、活発な質問が飛び交った。
話題の一つは、言語の壁だ。浅野や瀧内は多少英語で会話できるが、ギル監督は日本語がほぼ話せない。しかし、本作の脚本はギル監督自ら執筆したもので、浅野たちは日本語に訳された脚本で演じた。
ギル監督は「監督の仕事は“人間と向き合うこと”だと思っています。私はイギリスで育ち、子どもの頃から海外映画を字幕付きで観ていたので、言語を超えて俳優の演技を感じ取ることに慣れていました。撮影現場では俳優たちを信頼し、モニターを見ながら、自分の心が動いた瞬間を大事にしていました。その感情の揺らぎを基準に、OKを出していました」と説明した。
現場で俳優たちを信頼するために「キャスティングに力を入れた」とギル監督。当初から、深瀬役は「浅野忠信一択」だったという。深瀬の妻・洋子役は、キャスティングディレクターから薦められた『火口のふたり』の瀧内の演技を見て決めた。「脚本・監督として、自分が生み出したキャラクターをこのような素晴らしい役者たちに演じてもらえたのは、本当に光栄でした」と話した。
浅野は「脚本はとてもよく作り込まれていて、日本人の僕が読んでも自然な日本語でした。語尾やニュアンスを微調整することはありましたが、基本的には脚本通りに演じました」といい、「監督はとても真摯(しんし)で、常に優しく接してくれました。日本語は話せませんが、僕たち俳優の繊細な演技や動きをしっかりと観察し、それを大切にしてくれました。その上で新たな演出を提案してくれるので、本当に信頼できる監督です。彼の優しさに何度も救われました」と感謝した。
瀧内も「私も同じく、翻訳がとても秀逸だったので、まったく不安なく演じることができました。撮影現場では、助監督の北川(博康)さんが親身になって相談に乗ってくださり、監督にもすぐ伝えてくれたので、スムーズに進めることができました」と振り返った。
むしろ瀧内にとっては、浅野と共演することの方がプレッシャーだったようで、「この仕事を始めた頃から憧れていた浅野さんと共演することになり、ものすごく緊張していました。本当に一緒に演じることができるのだろうか?と不安だったのですが、監督が寄り添ってくれて、『Believe yourself(自分を信じて)』『I trust you(信じているから)』と励ましてくれました。彼の優しさと、ユーモアあふれるジョークに何度も救われました」と語った。
『レイブンズ』のキャラクターを演じたことで、自身の変化や成長を感じたか?という質問に、浅野は「深瀬という役は、今でも自分の中に残っているんです。普段、役を演じ終えた後は自然と手放せるのですが、深瀬はなぜかまだどこかにいて、常に僕を見ているような気がします。彼を通じて成長したかどうかは分かりませんが、何かを共有している感覚があります。それが僕自身の成長にどう影響を与えているのか、これからわかってくるのかもしれません」と返答。
瀧内は「撮影をしながら日に日に、これは浅野さんなのか?それとも深瀬さんなのか?と区別がつかなくなっているような感覚がありました。お芝居をしていて、こんな経験をしたのは初めてです。その印象が、自分の中に強く焼き付いています」と、浅野の演技を称賛。
浅野なのか、写真家・深瀬昌久なのか、わからなくなる感覚はギル監督も身に覚えがあったようで、「洋子が深瀬に再婚したことを告げるシーンで、本当に心が折れる深瀬を演じた浅野さんの姿がとても印象に残っています」と明かしていた。
本作のように、外国人監督が日本で映画を作る機会が増えることは、日本映画の魅力を広げる上でも好ましいことのようにも思われる。日本での撮影についてギル監督は「本当に素晴らしい経験になりました。映画の撮影は戦場のようなもので、だからこそ“家族”のようなチームを作ることが大切です。海外の監督が日本に来てブツブツ文句を言うのもどうかと思うので、できるだけ日本的なやり方でやりました。今回の撮影では、チームの皆さんが私を支えてくれたので、本当に心強かったです」と、郷に入っては郷に従えの精神で取り組んでいたことを明かしていた。