
2024年1月25日、入院中の病院で自身の名を公表した東アジア反日武装戦線「さそり」のメンバーだった桐島聡。その4日後に胃がんのため死亡というショッキングなニュースが流れた。
それから1年あまり。桐島の逃亡生活を綴った映画『逃走』が公開を迎える。監督・脚本を務めたのは、日本赤軍元メンバーである足立正生。青年期の桐島を杉田雷麟が、晩年の桐島を古舘寛治が演じた。古舘自身「僕が桐島を演じることが映画にとっていいことなのか…」という葛藤があったという。
桐島という人間像について古舘は「テロを犯した、いわゆる指名手配犯。しかも政治的な動機のもと行ったわけで」と語ると「僕自身、政治的な発言を昔はよくしていたので、僕が桐島を演じることで、いたずらに刺激してしまう危険性があると思った。それは映画にとって良くないことなのかな」と躊躇があったという。
一方、「足立監督はまったくそんなことを気にしていなかった」という。脚本の感想を問われ、「面白かったです」と答える古舘に、足立監督はスッと手を差し出してきたという。古舘は「それはもう拒否できないですよね」と笑うと「でも握手したあとも『これは僕にとっても、作品にとってもあまりいいことじゃないのでは』という思いはずっとありました」と率直な胸の内を明かしていた。
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古舘自身、桐島という人間と彼の行動に対して「彼が何をやってきたのか、彼がいたグループが何をしたのか、なぜそのグループに彼が入ったのかということは、できる限りのリサーチはしましたが、あくまで足立さんの本に書かれた桐島を演じる上でのもの」と、台本を理解するために桐島という人間の外郭を調べただけで、人物に感情移入するというアプローチ方法は取らなかったという。
むしろ古舘が興味を持ったのが桐島という人物が亡くなってから、1年もたたないうちに作品に着手したという足立監督のスピード感だという。「ものすごくタイトなスケジュールで、正直足立さんの要求に僕がどこまで応えられているのかは分からない」と述べると「そのなかで、なぜこのスピードで作品を作ったのか、また作らざるを得なかったのかということが重要だと思うんです。僕も一番の興味はそこにある。ただ本当に撮影中はそんなことを話す時間もなかった」とわずか10日間で作り上げた撮影を振り返る。
作品の特殊性について古舘は「日本のメジャーどころでは作れない作品。政治的に物議を醸すような映画は、なかなか難しい」と、監督がこのスピード感で作り上げたことの一つの要因であることを示唆する。
作品の持つメッセージ性について古舘は「映画は監督のもの。僕が伝えたいことはない。足立さんが伝えたかったことを、桐島を通してしっかり表現し伝えられたのかが問題」とあくまで演者は、脚本に書かれている思いをどうやって伝えていくかということが大きな役割だという。
それでも自分のなかで伝えたい思いはあるという古舘。「僕が脚本を自分で書く人間だったら。もっと早く監督をしていると思う」と語ると「僕はエンタメや娯楽だけを伝えたいとは思わない」と断言。古舘にとっては「フィクションとして価値のあるものを撮りたい」と述べると「いま世界はとんでもないことになっていると思っています。日本もそれは同じ。そのときにフィクションを作る意味って何だろうと思うし、作る意味があると信じられるものを作りたい」と思いを吐露する。
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そんな古舘が目指すものは「フィクションのなかでしっかりその場所で生きているなと感じられる俳優が好きですし、俳優ではなく物語の登場人物としてしっかりそこで生きていると思えるような表現をしてくれる人が好き。そんな人と共に、しっかりと価値のあるものをいつか作っていきたいなと思っています」と自らの思いを乗せる映画を撮ることを目標に掲げていた。
(まいどなニュース特約・磯部 正和)