吉野家ホールディングス(HD、 東京都中央区)が、事業の多角化を進めている。全国に1259店舗を展開する「吉野家」、415店舗を構える「はなまるうどん」に続いて、「ラーメン事業」を“第3の収益源”に育てていく方針だ(店舗数は2月末時点)。
同社の業績(2025年2月期第3四半期)を見ると、ラーメン事業を中心とする「その他」セグメントの売上高は前年同期比142.5%の72億5900万円、営業利益は同1億1800万円増で増収増益となった。
同社の河村泰貴社長は「世界で一番ラーメンを販売する外食グループになりたい」と宣言。2024年10月には、子会社の「ウィズリンク」(広島市)がとんこつ鶏ガラ醤油の「ばり馬」で欧州市場に初進出した。英北部スコットランドの首都エディンバラに店舗を構える。
2019年に吉野家HDが買収したウィズリンクは、「ばり馬」のほかにも丸鶏醤油ラーメン「とりの助」や石焼濃厚つけ麺「風雲丸」など複数ブランドを展開。シンガポールや香港など海外店舗も運営しており、「吉野家HDにとって海外の水先案内人のような存在」なのだという。
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ラーメン事業の勝ち筋と欧州初進出の「ばり馬 エディンバラ コックバーンストリート店(以下、エディンバラ店)」の反響について、吉野家HD グループ企画本部 茅野誠氏、ウィズリンク 秋月大輔社長に聞いた。
●吉野家HDが「ラーメン」に進出した3つの狙い
吉野家HDがラーメン事業に参入したのは2007年のこと。経営破綻した「ラーメン一番本部」(大阪市)から、1杯180円の激安店「びっくりラーメン一番」などの事業を譲り受けて開始したが、軌道に乗らず2009年に撤退した。
その後、2016年に「せたが屋」や「ひるがお」を運営する「せたが屋」(東京都世田谷区)を買収して、ラーメン事業に再参入。さらに、2019年にウィズリンク、2024年5月にラーメン店向けの麺、スープ、タレなどを手掛ける「宝産業」(京都市)、2025年1月にラーメンブランド「キラメキノトリ」を運営する「キラメキノ未来」(京都市)を子会社化して、事業拡大を図っている。
「ラーメン事業を拡大したい狙いは3つある」と茅野氏。1つめは、ご当地グルメとして発展したラーメン店をグループ化し、新たな価値を生み出すこと。2つめは、吉野家HDが主軸とする牛丼よりも原材料高騰やリスク管理の面で、より耐性があると見込まれること。3つめは、グローバルな和食として、寿司に次ぐのがラーメンだと考えていることだ。
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「さまざまな地域に根ざしたブランドを、専門店とチェーン店の両軸でポートフォリオに取り込んでいます。例えば、『せたが屋』や『金澤濃厚中華そば神仙』などは店内で手仕込みする専門店領域として。『キラメキノトリ』や『ばり馬』などは、オペレーションを効率化したチェーン店として。そして、両者をつなぐのが、ラーメン店向けの麺、スープ、タレなどを手掛ける宝産業です」(茅野氏)
このような戦略でラーメン事業を拡大していき、大きな目標として掲げるのが「世界で一番ラーメンを販売する外食グループになること」だという。
●ばり馬は世界で通用する味
吉野家HDにとって「海外の水先案内人」となるウィズリンクは、2013年にシンガポールで海外1号店を出店した後、香港、インドネシア、マレーシア、フィリピン、オーストラリアと海外展開を加速。2025年3月時点で、エディンバラ店を含め、海外で28店舗を運営している。
国内では43店舗を運営する。「当社の強みは、高いスキルを持つ職人を必要としない店舗運営にある」と秋月社長は話す。
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「当社のブランドは店舗でダシを取るのではなく、工場で完成させたスープを各店に納品しているため、スープの経時変化(時間経過による味の劣化)が起こりづらい特徴があります」(秋月氏)
店舗で骨からダシを取る場合、長時間沸騰させなければならず、揮発(液体が気体になる)の影響などにより、どんどん味が変わってしまう。それに対し、職人は味を微調整しなければいけない。一方、工場で作ったスープは経時変化による味の変化は少ない。同社によると、味がブレにくい仕組みと運営ノウハウを確立しているので、「国内では月商1000万円を超える店舗でも、アルバイトのみでの運営が可能」(秋月氏)だという。
海外では「ばり馬」を中心に展開しており、出店エリアのうち香港とオーストラリアの店舗は特に業績がいいという。
ばり馬のラーメンは世界に通用するという自負があり、世界中に日本製のスープを輸送できる体制も構築できている。こうした状況下で吉野家HDは、ラーメン市場が急成長している北米や欧州にアプローチをしたい意図があり、タイミングよく現地パートナーが見つかり、エディンバラでの出店に至った。
●エディンバラの「ばり馬」はどんな店?
エディンバラとはどんな都市なのか。「観光、学業、保険が有名で、英国の人々にとっては避暑地のような場所」(秋月氏)だという。調べてみると、“投資信託発祥の地”と言われており、世界的に評価の高いエディンバラ大学があり、留学先としても人気が高いようだ。エディンバラ城をはじめとした観光スポットも点在している。
2024年10月にオープンした「ばり馬」のエディンバラ店は、エディンバラ城から徒歩5分ほどの立地で欧米人観光客が多いエリア。実際、訪れる客の約7割が観光客だという
エディンバラ店は1階にレジ、土産コーナー、製麺室があり、2階にキッチンと74の客席がある。正午〜午後10時の営業で、価格帯は昼も夜も同一としている。
「『日本の食文化に触れたい』というお客さまが多いので、外観や内装は日本以上に“日本らしさ”が求められます。木目を多く使ったり、日本らしいデザインのポスターを飾ったり。国内店舗では白基調の内装が多いのですが、エディンバラでは白い壁や天井がチープに見えるようで黒基調にしています」(秋月氏)
メニューには、ラーメンのほかにカレーライスやご飯ものを用意し、サイドディッシュも国内店舗より豊富に取りそろえる。主力となるとんこつ鶏ガラ醤油の「AJITMA-UMA(味玉馬)」(14.9ポンド、約2900円)は、日本で製造したスープを使い、現地で最終的な仕上げをして完成させている。
「KATSU-CURRY RICE(カツカレーライス)」(14.4ポンド、約2800円)のルーは、日本で製造したカレーソースに隠し味としてラーメンのスープを入れている。動物性の食品を使用していないベジタブルメニューも用意している。
価格帯は現地のラーメン店とほぼ同じ。現地のイタリアンや中華レストランと比べても、同程度かやや安い価格設定だという。
●日本企業による「本場の味」が好評
現在、オープンから約5カ月が経過したところ。業績を尋ねると「想定どおりの売り上げ」とのこと。
「ラーメンが一番人気で、特にチャーシューが多くトッピングされたものが好まれます。欧州ではカレーライスも人気が高く、約15%の人がカレーライスを注文されますね。複数人で訪れて、日本の食文化に触れたい、ハレの日に特別な体験をしたいといった需要が強いので、誕生日パーティーを開く人もいます。平均滞在時間は約60分、客単価は約16ポンド(約3000円)です」(秋月氏)
「海外だとラーメンを単品で頼む人は少なく、サイドディッシュなども一緒に注文して、やや長めに滞在するスタイルが一般的です。そのため、海外進出しているラーメン店は基本的にレストランのような感じで、客単価が1万円を超える高級志向の店もあります」(茅野氏)
ネット上の口コミでは、「本格的でおいしい」と味を評価する声が目立つ。「ようやく本物の日本の味がエディンバラで楽しめるようになった」との声も。実際、スープを飲み干す人が多いという。エディンバラには現地の人が日本の味を模倣したラーメン店はあるが、日本で誕生したラーメンブランドの店舗は「ばり馬」が初めてだそうだ。
一方、オペレーションが不慣れなためか、「待ち時間が長かった」「チャーシューが硬かった」といった不満もあり、座席が地下にあるので「最初は席があることに気付かずに通り過ぎてしまった」という人もいた。より分かりやすい案内が必要なのかもしれない。
「現在の課題は、レシピどおりの商品を安定して提供すること。日系のラーメンレストランがエディンバラに初進出していることから、集客力は確保できています。宣伝より正しい味の再現性を高めるほうが重要で、それが事業成長に最も寄与します」(秋月氏)
将来的にはグループシナジーを活用して、より低価格で高品質なラーメンの提供を狙う。現在は日本で製造したスープを輸送しているが、子会社の宝産業が持つフランス・パリの工場を活用すれば輸送費を削減できる。
ご当地ラーメンをグループ化して世界へ。吉野家HDが思い描く未来の実現に向け、ウィズリンクでは2025年に欧州と中東を戦略エリアに据えている。エディンバラ店が軌道に乗れば、欧州展開に拍車がかかるかもしれない。
(小林香織)
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