65万円が330万円に! デイトナから始まった高級時計バブル、投資のプロが語る“30年の軌跡”

0

2025年03月16日 16:00  日刊SPA!

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

日刊SPA!

写真
―[腕時計投資家・斉藤由貴生]―
この30年の高級腕時計トレンドを振り返る!

腕時計投資家の斉藤由貴生です。

よく「次にどんな腕時計が流行る?」と聞かれることがありますが、「次」を考えるときに有効なのが、歴史だと思います。

ということで今回は、これまでの高級腕時計のトレンド変遷をお伝えいたします。

新品で売られている高級腕時計が「定価よりも高値で取引される」ようになったのは、1995年からといわれています。ちょうど30年分のトレンド変遷がお分かりいただけることでしょう。

◆1995年 ロレックス デイトナ

高級腕時計は、その名の通り「高級品」であるため、定価は高値でした。ゆえに、ただでさえ高い定価を相場が上回るなんて信じられないことだったのですが、それが1995年に実際に起きたのです。

その際、定価超えとなったのは、当時現行だったデイトナのステンレスモデル16520でした。

そして驚くことに、16520はそれ以来「一度も定価よりも安価」になることなく今に至っています。現在の相場は約330万円が最安値ですが、2000年頃の定価は65万円(税別)でした。

2000年頃における16520の新品実勢価格は120万円程度。当時の定価に対して「倍」近い相場だったのですが、その値段で買ったとしても、2025年現在までには「倍以上」になっている点が凄いといえます。

◆1998年 ロレックス エクスプローラー

デイトナの次に定価で入手困難、つまり「プレミアム価格」となったのがエクスプローラーです。

当時視聴率が30%以上となった大ヒットドラマ「ラブジェネレーション」。その作中で主演の木村拓哉が愛用する時計として目立っていたのがこのエクスプローラーでした。

当時の現行モデルである14270は、定価が34万円程度だったのですが、キムタク効果によって正規店では入手困難になり、1999年の新品実勢価格は60万円となっていました。

ちなみに、その後14270の相場は下落。特にリーマンショック後には21万円程度にまで下がりましたが、2025年現在では80万円台といった価格帯になっているため、結果的に持ち直したといえます。

◆2002年 パネライ&フランク・ミュラー

1990年代後半から2000年代前半にかけて、高級腕時計への注目が増し、「ロレックスブーム」とも言われましたが、2002年頃になると時計ファンたちは「ロレックスの次」を求めるようになりました。

そこで注目されたのが、新しいブランドであるパネライとフランク・ミュラーでした。どちらも2002年頃から高い注目度を誇っていました。

パネライは、ロレックスと同様のキャラクターを持ち、「味変」的に購入される需要がありました。一方で、フランク・ミュラーはロレックスに対して「グレードアップ」として購入される需要がありました。

パネライの場合、当時の定価が40万円台(ロレックス程度)だったため、一部モデルの相場が定価を上回る「プレミアム価格」になりましたが、フランク・ミュラーは定価が当時のロレックスよりも遥かに高かったため、プレミアム価格にはなっていなかったといえます。

ただ、当時のフランク・ミュラーは10代の若者にも知名度があり、「すごい人がつけているすごい時計」といった感覚で、現在のパテック・フィリップのノーチラスのように「憧れの的」となっていました。

◆2003年 独立時計師への注目

フランク・ミュラーがヒットしたことをきっかけとして、「独立時計師」への注目度が増していったのが2003年でした。

独立時計師とは、時計を製作する本人のブランドを指します。個人が手作業で時計を作るため、年間生産本数はわずかです。フィリップ・デュフォー氏などが最も有名な時計師でしょう。

フランク・ミュラー氏はもともと独立時計師として時計を作っていたため、「フランク・ミュラー」ブランドのヒットによって他の独立時計師への関心が増えていきました。

ただ、独立時計師が作成する時計は年間生産本数が少なく、どこで売られているかも分かりにくいため、入手難易度は高いといえます。

この時期、独立時計師への注目度が上がったといっても、実際に独立時計師の時計を買ったユーザーはそれほど多くなかったかもしれません。

◆2004年 雲上時計への注目度が上昇

「雲上時計」と呼ばれるブランドは、「パテック・フィリップ」、「オーデマ・ピゲ」、「ヴァシュロン・コンスタンタン」です。

2025年現在では、これらのブランドはとても人気ですが、実は2003年頃まで「手を出す」という人はあまりいなかったのです。

「雲上」と呼ばれるだけあって「雲の上すぎて自分には関係がない」と思われていたのかもしれません。

そのため、2002年頃までノーチラスは新品が90万円程度、ロイヤル・オークやオーヴァーシーズは50万円程度で売られていました。

2004年頃から、こういった雲上時計に対する注目度が上がりましたが、そのきっかけは「独立時計師ブーム」による本格志向の影響でした。

それまで、「雲の上すぎて関係がない」と思っていたユーザーも、フランク・ミュラーや独立時計師に注目することで「雲上時計に手を出しても良い」と思うようになったのでしょう。

その結果、この頃から雲上ブランドの時計は、現在ほどではないにせよ、2004年頃から徐々に注目度が高くなっていきました。

◆2005年 ウブロへの注目

2005年にウブロは「ビッグバン」を発表し、現在のラインナップ構成となりましたが、このことをきっかけに注目度が上昇。

「ロレックスより高値」ということや、腕時計ではあまり使われない「斬新な素材」が新鮮で、それまで人気だったブルガリやフランク・ミュラーといった時計を持っている人が「次に買う」といったポジションになったと思われます。

◆2010年代〜 人気ブランドの固定化

ウブロまでの間、「次はこのブランドが熱い」というトレンド変化が見られましたが、2010年代になると人気ブランドが固定化されました。

特に、ロレックスやオメガといった昔からの時計専門ブランドが強くなり、パテック・フィリップのような「雲上」と呼ばれるブランドの価値は、それまで以上に高くなりました。余談ですが、2015年には拙著『腕時計投資のすすめ』が刊行。「腕時計の相場は変化する」ということを本にしましたが、「これがきっかけで多くの人が腕時計は資産になる」ということを認識したかもしれません。

◆2017年 パテック・フィリップ ノーチラスの上昇、

この年まで、「数ヶ月で10万円単位」という値動きをするモデルは限られていましたが、2017年以降はそういったモデルが増えてきました。

また、値動きの激しいモデルは「ロレックスぐらい」と思っていた方も多かったでしょうが、2017年からはノーチラスが活発に値動きするように変化しました。そして、ノーチラスに遅れること1年、2018年にはオーデマ・ピゲ ロイヤル・オークも上昇するようになりました。

◆2020年 新型コロナによる下落とK18モデルの上昇

新型コロナによって時計相場は一時大きく下落しました。特に緊急事態宣言が発令されてから相場は一気に下がりましたが、解除されると時計相場は徐々に回復しました。

そして、興味深いことに2020年8月頃から、それまで「あまり動かない」という印象だったK18モデルが高くなる現象が起こりました。

金相場はリーマンショック後でも高い水準を維持していましたが、不思議とK18の腕時計は値下がりしていました。しかし、2020年夏頃まで「ステンレスは需要があるけど、K18を欲しがる人はあまりいない」という印象がありました。

こうした需要と、もともと高い価格(K18ゆえに定価の段階で高いため)のため、K18モデルはあまり派手な値動きをしなかったのです。

それが2020年8月以降、K18モデルの値動きが活発化し、2025年現在ではステンレスよりもK18のほうが値動きする(2023年に出たデイトナの例など)場合もあるぐらい、K18モデルへの注目度が高くなっています。

◆2022年 春の急上昇からの下落/オメガ、カルティエ相場の上昇

新型コロナが発生した初期の段階では下落した時計相場ですが、2021年頃からは反発。多くの時計が上昇するようになり、2022年春には過去最高値を大幅更新するモデルが多くありました。

しかし、同年4月頃からは下落傾向となり、その後は緩やかに下落。現在の相場は2021年水準よりは高値ですが、2022年春よりは安価なモデルが多いといえます。

従来からの人気モデルがそういった状況となっている一方で、それまで活発に値動きする印象がなかった「オメガ」や「カルティエ」が高くなる現象が発生。オメガのロングセラーモデルである「ムーンウォッチ(3570.50)」は、2017年頃まで20万円台という中古相場でしたが、2025年現在では50万円台に達しています。

また、カルティエのサントス ガルベ(W20055D6)は2021年頃まで長期にわたって25万円程度という相場が続いていましたが、現在では70万円台といった価格帯になっています。

◆2025年 素材や文字盤色におけるトレンドの変化

これまで、腕時計は「ステンレスが最も人気」でしたが、先にも触れたように、2020年以降、徐々にK18モデルへの注目度が増しています。

2023年に一斉モデルチェンジしたデイトナの場合、初値から現在までの相場変化は、ステンレスが下落&横ばいとなっている一方、K18モデルは上昇。なんと、K18のほうがステンレスよりも優秀な動きをするという事例も見られます。

また、文字盤色のトレンドも、長らく「黒文字盤」人気が高かったのですが、2016年に登場したデイトナをきっかけとして「白文字盤」人気が上昇。現在では、過去モデルも含めて「白文字盤」のほうが数十万円高いという現象がデイトナなどで見られるため、以前にも増して「白文字盤」の人気度が上がっているといえます。

以上、この30年間の高級腕時計におけるトレンド変化を振り返りましたが、こうやってみていくと、「こんな需要があって、それを満たすと次にあんな需要になるのだ」ということがお分かりいただけたかもしれません。このようなトレンド変化を振り返ると、次に「どんな時計が人気になるか」というヒントになると思います。

<文/斉藤由貴生>

―[腕時計投資家・斉藤由貴生]―

【斉藤由貴生】
1986年生まれ。日本初の腕時計投資家として、「腕時計投資新聞」で執筆。母方の祖父はチャコット創業者、父は医者という裕福な家庭に生まれるが幼少期に両親が離婚。中学1年生の頃より、企業のホームページ作成業務を個人で請負い収入を得る。それを元手に高級腕時計を購入。その頃、買った値段より高く売る腕時計投資を考案し、時計の売買で資金を増やしていく。高校卒業後は就職、5年間の社会人経験を経てから筑波大学情報学群情報メディア創成学類に入学。お金を使わず贅沢する「ドケチ快適」のプロ。腕時計は買った値段より高く売却、ロールスロイスは実質10万円で購入。著書に『腕時計投資のすすめ』(イカロス出版)と『もう新品は買うな!』がある

    ランキングトレンド

    前日のランキングへ

    ニュース設定