櫻井海音instagramより 近年のテレビドラマのちょっとしたトレンド感として、泥沼不倫系ドラマ作品に出演した二世俳優が、大ブレイクする傾向がある気がする。
それぞれ作品内では唯一ピュアなキャラクターを演じる『泥濘の食卓』(テレビ朝日、2023年)の櫻井海音と『夫の家庭を壊すまで』(テレビ東京、2024年)の野村康太が代表的存在である。
松坂桃李主演ドラマ『御上先生』(TBS、毎週日曜日よる9時から放送)にも出演する櫻井海音は特に、単なるネクストブレイク俳優候補の範疇にはおさまりきらない才能である。
男性俳優の演技を独自視点で分析するコラムニスト・加賀谷健が、ネクストブレイク俳優枠の先で金看板を掲げる櫻井海音の才能を解説する。
◆近年の深夜ドラマで双璧をなすネクストブレイク俳優
各局で放送される深夜ドラマにはいろいろな楽しみ方がある。まず時間尺が短い分、物語展開がジェットコースターのように急速で飽きないこと。あるいは、その時間尺で最大限の努力を込められる、才能ある映画監督が起用された場合の演出力。
もうひとつ。ネクストブレイク候補になる新人俳優が全編を通じて腕試しをする様子を定点観測できること。男性俳優の演技を分析する筆者は特に、この新人俳優の定点観測を楽しみにしている。
2024年だと松本まりか主演ドラマ『夫の家庭を壊すまで』を試金石として頭角を現した野村康太が、ダントツで出世頭になった。前年には齊藤京子主演の不倫ドラマ『泥濘の食卓』に出演した櫻井海音が抜群の存在感だった。両者ともに、近年の深夜ドラマで双璧をなすネクストブレイク俳優だ。
◆不倫ドラマによって紹介される二世俳優の才能
いずれの作品も主人公の女性キャラクターが、男性キャラクターの不倫に対して異常な執着を示す点で共通している。そのテーマ性をかなり強烈に濃い味付けにして、ドロドロな展開が持続する。
その中で唯一、ピュアな役回りを高校生の息子役として野村康太と櫻井海音にそれぞれ配役されている。そうしたテーマ性や役どころだけではなく、野村と櫻井がいわゆる、二世俳優であることでも共通している。
野村康太の父は俳優の沢村一樹、櫻井海音の父はMr.Childrenのボーカル・桜井和寿である。ディープな深夜帯ドラマで、しかもドロドロ不倫ドラマによって、注目の二世俳優の優れた才能が紹介される。彼らの魅力が一目でわかるように際立つトレンド感がある。
◆前世から生まれ変わる物語
野村康太が初めてバラエティ番組に出演した『トークィーンズ』2月6日放送回が面白かった。韓国ドラマ好きの野村が、有名ドラマ作品の名シーンについて、男性俳優の仕草にいかにときめくのかを解説する。
パク・ソジュンなどの男性俳優にときめく理由として「前世が女の子だった」と説明していたのである。初バラエティ番組出演で撮れ高十分(実際、ネットニュースの話題に)な発言だが、この「前世」というワードが、櫻井海音の名演が光る『【推しの子】』(Amazon Prime Video、2024年)へと連想を広げてくれる。
『【推しの子】』は、国民的アイドル・星野アイ(齋藤飛鳥)を推すファンが、前世の記憶を持ちながらアイの子どもとして生まれ変わる物語だからである。幼いアクアは天才的な子役の才能を発揮しながら、たくましく育つ……。
◆原菜乃華と画面を共有する櫻井海音
成長したアクアを演じるのが、櫻井海音である。櫻井演じるアクアがはっきり姿を現すまでにほとんどかなりの尺が使われ、第1話終わりでやっと櫻井が登場する。ためにためたインパクトがある。
第2話冒頭、アクアが妹のルビー(齊藤なぎさ)と道を歩く場面が印象的だ。カメラは最初ふたりの後ろ姿を捉える。ビル内に入ると、露出が多く、光量が多い画面上、後景の外が白飛びしている。櫻井自体の輪郭もうっすら白みがかっているが、これが彼の存在感をより神々しいものにしている。
アクアはすでに俳優を辞め、映画監督・五反田泰志(金子ノブアキ)の元で助手をしている。ルビーはアイドルを目指している。芸能コースがある高校にふたりで入学すると、幼いときにアクアが共演したかつての天才子役・有馬かな(原菜乃華)と再会する。
このキャスティングが面白い。『泥濘の食卓』で櫻井が演じた那須川ハルキを追いかけ回す狂乱の幼馴染み・尾崎ちふゆを強烈に演じていたのが、原菜乃華だからである。
泥沼不倫ドラマからさらに一歩踏み込んで、原菜乃華と画面を共有する櫻井海音が、演技に開眼したように名演を持続させる。この名刺代わりの代表作を引っ提げた櫻井海音は、すでにネクストブレイク俳優枠のずっとずっと先のフィールドで堂々と金看板を掲げている。
<文/加賀谷健>
【加賀谷健】
コラムニスト / アジア映画配給・宣伝プロデューサー / クラシック音楽監修「イケメン研究」をテーマにコラムを多数執筆。 CMや映画のクラシック音楽監修、 ドラマ脚本のプロットライター他、2025年からアジア映画配給と宣伝プロデュース。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業 X:@1895cu