「演技未経験でハリウッド俳優に」世界で活躍中の米本学仁が乗り越えた苦難。「突然、顔の左半分が動かなくなりました」

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2025年03月17日 09:30  日刊SPA!

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米本学仁
ある日突然、「君、演技に興味ない?」と声をかけられ、気づけばデビュー作からハリウッド映画「47RONIN」でキアヌ・リーブスや真田広之といった名優陣と共演。
そんなシンデレラストーリーで知られる俳優の米本学仁氏に、ハリウッドでの制作秘話やその後のリアルについて話を伺った。

◆LAでラーメンを食べていたらスカウトされハリウッド俳優に

米本氏が2013年公開のハリウッド映画「47RONIN」に出演することになったきっかけは、LAのフードコートで食事中、突然、ハリウッドの映画関係者に声をかけられたことから始まる。

米本氏が27歳のとき、語学留学のため渡米。その5年後、映像制作のアシスタントをしていたある日、フードコートでラーメンを食べていたときのことだった。

「突然、ハリウッド関係者から『演技に興味ない?』と声をかけられたんです。僕はあくまでもカメラの後ろ側の人間で、しかもそのとき、仕事で知り合ったなかやまきんに君さんと一緒でした。

『むしろ彼は日本の有名なコメディアンなので、何かオファーがあれば、彼にお願いします』と、水を向けると、なかやまさんも『そーですよ〜!』なんて言いながら盛り上がったのですが、『いや、彼はいいんだ』と言われました(笑)」

映画関係者と連絡先を交換すると、1週間も経たないうちに「まだ何の映画かは言えないけど、あるオーディションがあるから受けてみない?」との連絡が。

「映画プロデューサーになりたかったので、これもいい経験になると思い、オーディションを受けることにしたものの、俳優になりたいなんてことはまったく考えてませんでした」

◆オーディションで審査員に大ウケしメインキャストに抜擢

何の野望もなく、オーディション当日を迎え、待合室で待っていると、壁に誰もが知る日本の俳優さんの写真が貼られていて、「あれ?これってなんかすごい作品なんじゃないの?」とうすうす感じ始めたという。そうこうしてる間にキャスティングプロデューサーが5人くらい入って来ると…。

「『それじゃあタカト、このシーンを演じてみて』といわれたので、精一杯やってみたんです。すると全員『オーマイガッ!』とか言いながら、めちゃくちゃウケたんです(笑)。思わぬ反応の良さに鳥肌が立って、『え、なにこれ?』という感じでしたね」

この経験がとても楽しく、演技することを肌で実感した米本氏。その1週間後に2次審査の連絡があり、再び求められるままに審査員たちの前でデモ演技をすると、再びバカ受けすることに。

「僕としてはいい経験ができたな、くらいの感じでした」と振り返る米本氏だが、その後、映画のタイトルが明かされ、メインキャストの1人として正式オファーを受けた。そしていきなりヨーロッパに飛び、5カ月間の撮影に参加した。

その作品こそが、キアヌ・リーブスほか、真田広之や浅田忠信、菊地凛子、柴咲コウ、赤西仁らが出演し、忠臣蔵を元にした映画「47RONIN」だった。このとき米本氏は32歳にして俳優デビューし、いきなりハリウッドの大作に出演。

「僕はいろんなコンプレックスもあるし、自己肯定感もあまり高くなかったのですが、映画の制作陣から『君がいいんだ!』と“大きなアイラブユー”をもらった気がしてものすごく嬉しくて。本当にラッキーだったし、まわりからもシンデレラストーリーだねと言われました」

◆コロコロ変わる英語の台本に対応

渡米直後はまったく英語を喋れず、イミグレーションで質問されても全然聞き取れないレベルだった。語学学校でも、先生の話がほとんど理解できなかったという。

「そこから奮起して毎日寝ても覚めても英語漬けで必死に勉強しましたね。1カ月後にはなんとか日常会話には困らないようになっていました」

やはり、英語のセリフにも苦慮したのだろうか?

「渡米してから5年経っていたし、英語自体はどうにかなりました。ただ、製作の意図で刻一刻と台本が変わるのに対応するのが大変で。

最初の台本の表紙がレッドだとしたら、次にイエローやオレンジに変わり、何回も変わりすぎて、しまいには聞いたこともないような色の表紙になっていましたね(笑)」

ネームバリューのあるスターを揃えるのではなく、ハマり役かどうかが問われるハリウッドにおいて、制作陣にとって、「47RONIN」の芭蕉役はイメージ通りの配役だったという。さらに新人とはいえ、アメリカでは俳優が加入する組合がしっかりしていることから、高待遇を受けたと語る。

「最初の撮影地がブタペストだったのですが、空港までの移動も、僕みたいな新人俳優でさえ自宅にスーツ着用の運転手が黒塗りのリムジンで迎えに来ました。飛行機もゆったりしたシートで、おそらくビジネスクラスだったと思います。撮影中も個室のトレーラーをあてがわれましたね」

◆大スター、キアヌ・リーブスとの意外な思い出

人生で初めて俳優として初舞台に立ったとき、初めてのシーンで、大スター、キアヌ・リーブスの意外な一面を知り、緊張がほぐれるような一幕も。

「中盤から後半に差し掛かるあたりで、キアヌと喋りながら、傍では真田さん演じる大石内蔵助や赤西君演じる大石主税に見守られて死ぬシーンを撮りました。

かなりお顔が近い距離でキアヌと喋るので、死ぬ演技をしながらキアヌの吐息を感じ、『ああ、今日のお昼にキアヌは魚を食べたんだな』と思いましたね(笑)」

ハリウッド映画に出演後は、周囲の仕事関係者が急によそよそしくなるなど、まわりの変化も感じた。

「ハリウッド映画に出ると母に伝えたときは、さすがに驚いていました。その後は、『次は何に出るの?』『ギャランティはいくら?』などと根掘り葉掘り(笑)。父は『恥をかかないように』と、それだけ。

厳格な人で、渡米するときも、まず言われたのが、『もしアメリカでお前に何かあって日本に戻って来ても、人としてではなく荷物として送られてくることになるけど、それでもいいのか?』でしたから。でも、今では僕の出る作品すべてをチェックしてくれているみたいです」

◆ハリウッド映画出演後の挫折と努力

棚ぼた式にハリウッド映画に出演後、いろんなオーディションに声をかけてもらう機会が増えたものの、その後の道のりは決して順風満帆ではなかった。

「自分から役を取りに行ったわけではない『47RONIN』では全面的に楽しめたのに、その後受けたオーディションでは、『絶対取りにいかなければ』と気負い、力んで硬くなっていたので、全然上手くいかなかったですね。

僕には積み重ねた経験が圧倒的に足りていませんでした。そのとき会ったキャスティングディレクターには有名な人も多くいましたが、その後呼んでくれることはありませんでした」

光と影を経験した米本氏は、LAのアクティング・クラスで学ぶほか、他の役者たちとワークショップをするなど、日本で多くの作品に出演するようになった今でも演技を磨く努力を続けている。

「毎回、オーディションに落ちると自分でも引くほど落ち込むし、悲しいですよ。アメリカのベテラン俳優は、『100回受けて1回受かれば上等だよ』なんてうそぶいていますが、僕は100回受けたら100回受かりたい。

傷つかないように『そんなもんだよ』なんて自分を守っていると、喜びもあまり入って来ないような気がして。心を開いて、嬉しいことも悲しいこともすべての感情を味わい尽くしたいと思ってやっています」

◆突然顔の左半分が麻痺して動かなかくなった

米本氏が「すべての感情を味わい尽くしたい」と語るのは、最近直面した一つのトラブルがきっかけになったという。

「今はほぼ治っていますが、少し前、突然、原因不明で顔の左半分がまったく動かなくなったんです。

病院に行っても何をしても治らなくて、もしかしたら役者の仕事ができなくなるかも…と焦りました。

顔が動かない中で、できることをしたいと思い、友達のフォトグラファーに頼んで写真を撮ってもらうと、動かない方の顔に怒りを湛えていたんです。これまで知らないうちに感情を抑えて生きてきたのが、溢れてしまったのかなと感じました。

このときばかりはさすがに妻にも弱音を吐いたし、人に頼ることの大切さを実感しましたね。

顔に麻痺が起こった後、どうにか臨んだ撮影で僕がピンチに陥るシーンの直前に相手役の方にセリフにはないですが『助けて』と声をかけました。

それが、ちょうど僕の心とリンクしました。以前の僕なら口に出来なかった言葉で、役者の仕事に活きない経験はないんだなと」

◆鮭やあんこうみたいに余すことなく使える俳優になりたい

役者としての理想について、「鮭やあんこうみたいになりたい」と豪語する米本氏。

「世の中には鮭の皮で服を作るクリエイターもいて、まさか自分の皮でジャケットが作られるなんて鮭も思っていないと思うんです(笑)。もうすぐ46歳になりますが、僕も、年齢などで役の可能性を閉じることなく、全身余すことなく使ってもらえるような役者になりたいですね」

2017年公開のメキシコ映画で、1週間で100万人を動員するヒットとなった「The Kids Are Back」に出演したのを機に、近年、スペイン語圏のファンからも人気を得ている米本氏。

出演しているディズニープラス「ガンニバル」シーズン2が2025年3月19日配信、スカイバウンド×フジテレビ共同制作ドラマ「HEART ATTACK」がFODにて3月20日配信予定など、国内外問わず活動の幅を広げ続けている。今後も、世界を股にかけた活躍に期待したい。

<取材・文/庄司真美 撮影/山川修一>

【米本学仁】
1979年3月9日仙台生まれ、大阪育ち。映画プロデューサーを目指し2007年に渡米。ラーメンを食べているときに「オーディションに出てみないか」と声をかけられ映画「47 Ronin」でハリウッド俳優に。日本でも大河ドラマデビューし2022年「鎌倉殿の13人」2023年「どうする家康」で2年連続大河ドラマに出演。国内外で活躍の幅を広げている。Instagram:takato_yonemoto

【庄司真美】
EDIT for FUTURE代表取締役。編集者、ライター、編集コンサルタントとして多くのメディアで編集長やライティング、記事制作を手がける。おもなジャンルはビジネス、ライフスタイル系。趣味は散歩とギターと山登り。

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