写真 投資の世界には「神様」がいる。その代表が、50兆円もの資産を運用する「バークシャー・ハサウェイ」率いるウォーレン・バフェット氏である。対して、日本には“逆神”がいる。買うと下がり、損切りすると上がる――。立てた予想はことごとく外れ、相場とは正反対の投資行動をして損ばかりしてしまう人物、それが“逆神”である。
そんな不名誉な愛称を与えられながらも、多くの個人投資家から愛されているのが「岐阜暴威」さんだ。岐阜暴威さんの投資歴は20年近くあり、Xのフォロワー数は17万人以上。“株クラ”における人気と知名度は絶大な個人投資家である。
岐阜暴威さんの累計損失額は2000万円以上。これまで7度も相場から退場を余儀なくされたものの、そのたびに復活。しかし、2024年も前半だけで1100万円の損切りをしたという。
ところが、年後半にはFXで700万円ほど勝っているとか。“逆神”岐阜暴威に何が起きているのか? これまでの退場経験やあまたの「しくじり」を振り返りつつ、2025年の最新事情を聞いた。
◆株式投資を始めた月に即退場!
−−株式投資を始めたのはいつ頃でしたか?
岐阜暴威(以下、岐阜):2006年1月からやっています。始めたきっかけは、その前年にいわゆる「ジェイコム騒動」っていうのがあって。いまや神のような存在になっているBNFさんやcisさんという当時20代の若者が20億円だとか6億円だとかを儲けたというニュースを見て、「あっ、これ一発逆転のチャンスきたわ!と思ったのが、きっかけですね。
そのときは社会人でもう働いていて、100万円を入金したんですね。ところが、100万円を入金した途端、ライブドアショックが起きたんですよ! ほんとにびっくりするようなタイミングで起きて!
当時の株式市場は非常に好調で、新興銘柄を買っていればとにかく何でも上がるみたいな相場だったので、ライブドアショックで新興市場が完全に崩れちゃって、元手の100万円を一度たりとも超えることなく、半年も持たず退場しました……。本当になにもできずに100万円を失ったのが、2006年の投資デビューでした。
−−その後、復活したのはいつ頃ですか?
岐阜:2006年に退場して、働いていた給料の一部を入金して復活して、今度は2008年のリーマンショックでも退場して……。だいたい退場してます(笑)。
まとまったお金としては、2012年にもう一度戻ってくるんですが、アベノミクスに乗って株で4600万円くらいまでバンと増やせたんですよ。ただ、その後に先物取引とかFXをバンバンやり始めちゃって……。そんなときに、2015年8月の チャイナショックが起きたんです。
チャイナショックとは、人民元切り下げをきっかけとした世界同時株安で、1か月ちょっとの間で日経平均は17%以上も下落しました。ロングで持っていた先物も大暴落に巻き込まれて、最後11万円くらいなっちゃって退場……。
この頃は会社員を辞めて専業投資家になっていたのですが、資金がなくなってしまったので2015年に再就職しました。このとき29歳くらいだったと思いますが、2022年9月まで7年間勤めて、投資資金を貯めていました。
――2022年9月というと、コロナ禍も終わりかけくらいでしょうか。そこで三度復活を果たし今に至る、と。
岐阜:そうですね。ただ、2020年4月にも退場してました(笑)。このときは、原油の大暴落があったんです。新型コロナウイルス感染拡大で需要が急減した影響で、投機家が損失覚悟で投げうって、原油の先物価格が史上初めてマイナスを記録したんですよ。
さすがに「ここで買えば大丈夫だろう」と思って買ったら、もっと下がっちゃって。
そういえば、2019年10月も一度退場してますね。先物オプションかなんかで一発勝負して退場しました。
――それだけ退場してもまた不死鳥のごとく復活していますが、投資資金はどうやって貯めているんですか?
岐阜:会社員をやっていたときには、毎年200万円くらい入金していたからです。実家暮らしだったので、最低限の生活費以外はすべて株。6月と12月のボーナスは入った瞬間に入金。そのほかに、ニコニコ動画などの動画配信の収益なんかも入金していました。
この“入金力”のおかげで毎月、毎年ゾンビのように復活していた、という感じですね(笑)。
ただ、年間200万円くらい入金していましたが、全然増えなかったですね……。一番パフォーマンスがひどかったのは2017年で、12か月のうち11か月がマイナスだったこともあるくらいです。
◆相場で負けたツラさを一人で抱え込むことができない孤独さ
――Xをはじめ、多くの個人投資家から愛されている岐阜さん、負けている投稿をポストするのはなぜですか?
岐阜:たぶん投資の世界って、勝っているときだけ投稿したい見栄っ張りが多いので、僕みたいな負けたらツイートする人間って珍しかったんですよね。今でこそ、そういう人はいるんですが。
でも、僕は自虐的にやっていたわけではなくて、含み損を抱えたり損切りしたとき、自分の心では抱えきれなかったからなんです。ツイートして、画像出して、そこでポイってやらないと、精神的に本当におかしくなってしまうので。
だから周囲の反応を意識したとかではなくて、“抱えきれないゴミ”を吐き出してるだけ、っていう感じなんです。
――ツイートして気がラクになりましたか?
岐阜:めちゃくちゃラクになります。これ、投資としては本当によくないんですが、負けを晒すことで、みんながワッと騒いでくれる。本当は負けて、へこんで、そこから学んで同じ間違いを繰り返さないようにしなければいけないのに、一方で承認欲求が満たされてしまう……。
負けて落ち込んだ気持ちと、承認欲求が満たされる気持ちよさで、ある種の“相殺”がされてしまうんですね。いや、なにも“相殺”できてないんですが、負けから学ぶことをしなくなってしまう。SNSの承認欲求って本当によくないですね。
◆1100万円の損切りと700万円の利益確定
――2024年はどのようなパフォーマンスでしたか?
岐阜:ひどい年でしたね。2024年は年初から株価が上がって、バブル後高値を更新、一気に4万円超えまでいったんですね。そのとき、日経とナスダックをショートしていたんです。
1月にショートした分は2月に550万円ほど損切りしたのですが、どこを見てもみんな「儲かった!儲かった!」っていうポストしかないなかで、自分だけが損切りしていて、本当に苦しかったです。
しかも、そこから逆にロングで入ればいいのに、買うこともできず、ひたすら上がってくのを指をくわえて眺めているだけで、後悔しかなかったですね。
続いて2月には原油先物をショートしたのですが、それもどんどん上がって、3月か4月に330万円くらいを損切りして……。
そのあともちょこちょこ損切りして、5月には確定損失で1100万円になっていました。このときはさすがに再就職とかハローワークが頭にチラつきましたね。
――年後半はどうでしたか?
岐阜:実は12月上旬の時点で700万円ほど取り返すことができ、1100万円のマイナスが400万円のマイナスまで減っています。そのほかに今、含み損が200万円ちょっとありますが。
――年後半に700万円も取り返すことができたのですね! 主に何で利益を出すことができたのですか?
岐阜:FXですね。FXの収支は433万5812円のプラスなんですよ。
――なぜFXでは勝てているのですか?
岐阜:なぜでしょうね(笑)。ヘタな逆張りをするとまず負けるので、一番気をつけているのは「トレンドに乗る」ということですね。
特に自分がよく見ているのは、日足の75日移動平均線と5日移動平均線です。75日移動平均線が上を向いて上昇トレンドが出ているときに、ずっと下がっていた5日移動平均線が上向いてきたとき。
いわゆる「押し目」からの反転のタイミングで、ちょっと遅れて入るくらいの気持ちでエントリーしています。押し目の「底」を取ろうとするのではなく、底を打って、ちゃんと上がったのを確認してから買いで入っています。
上昇トレンドでこう続く場合は、そこからでもバーッと上がっていくので、その一部を取るのを目指しています。
――今までは「そろそろ底を打って反転するんじゃないか」という予想でエントリーしていたけれど、明確に反転してきたのを確認してから入るようにしたら勝てるようになったということですね。
岐阜:そうなんですよ。だいたいいつも、ポジション取るのが早い。まだ底打ちする前に買ってしまい、損切りすることが多かった。その損切りをした後にブワーッと上がっていく。
そんなことが多かったので、大底と天井を当てるのは諦めて、上がり始めたのを見てからエントリーしています。それでも十分間に合うし、勝率も高いと思いますね。
◆数多くの「しくじり」から学んだこと
――FXにおいては勝ちパターンを身に着けたということですね。でも、そんなに勝ってしまう岐阜さんは、“岐阜さんらしさ”がない感じもしますが……。
岐阜:いやいや、日経先物とか原油先物とかで死ぬほど負けてますから!(笑) それに、そのルールを作っても、ルールを守れなくなる瞬間があるわけですよ。
ルールを守って機械的にできれば、案外、投資ってみんな勝てると思うんです。ただ、負けが込んだりしてメンタルが崩れてしまうと、やってはいけない取引をしてしまい、負ける。
例えば、勝てるタイミングでエントリーすればいいのに、違うタイミングで買ってしまう。損切りをしなければいけないのに、損切りせず大きな含み損を抱えてしまう。一度設定した逆指値をずらす。本当にメンタルが崩れるとよくないですね。長期投資はテクニカルとかよりもファンダメンタルなどの影響が大きいですが、短期トレードになればなるほど、メンタルの重要性が大きくなると思います。
――たくさんの“しくじり”を経験した岐阜さんだからこそ、負けから学んだ経験がすごく参考になると思います。
岐阜:投資の神様と呼ばれるウォーレン・バフェット氏も、「第1ルール、損しないこと。 第2ルール、第1ルールを忘れるな」という黄金のルールを持っていると言われます。まずは「負けないこと」が大事で、増やすのは二の次でいい、と。
――新生・岐阜暴威さんは、2025年の相場をどのように見ていますか?
岐阜:けっこう不穏な空気が相場に漂っているような気がしています。なぜかと言うと、新NISAをはじめ、みんなが米国株相場に対して前のめりすぎると感じていて。
Xでは、「新NISAは年始に一括投資!」みたいな声も多いんですね。こういうときってみんなが安心してるから、ジワジワ下がっても「安く買えた、ありがとう」なんて言って強気で買い増しして、さらにジワジワ下がって、真綿で首を絞められるような相場が来るかもしれない、ということも想定しています。
あるいは、8月5日の「令和のブラックマンデー」のような、何かをきっかけに売りが売りを呼ぶ大暴落もあるかもしれない。基本的にはインフレになれば株価も上がっていきますが、そんなリスクも起こりうるかもしれないということは、頭の片隅に置いて注意深くトレードしていきたいと思っています。
2025年は順調に資産を増やすことができていて、3月の時点で含み損益も考慮して2460万円になっています。僕は1000万円を「億チケット」と呼んでいるのですが、今、億チケットは2枚持っています。2025年には3枚目の億チケットを入手できるようにしたいですね。
【プロフィール】
岐阜暴威
個人投資家。2006年1月から株式投資を始めるも、ライブドアショックで即退場。すぐに入金して復活するも、2008年のリーマンショックで再度退場。その後も入金して復活しては退場を繰り返し、いつしか“逆神”の異名を持つように。株のほか、FX、日経先物、原油先物などにも手を出す。Xのフォロワー数は17万を超える。Xのアカウントは@gihuboy
<取材・文/日刊SPA!編集部 撮影協力/Kabu FX Bar>