【プレミアリーグ】遠藤航を「もっと信頼すべき」の声も リバプールにとってその価値とは?

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2025年03月19日 18:20  webスポルティーバ

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 忘れてしまいたい1週間――今季からアルネ・スロットが率いるリバプールとしては、そういったところだろう。

 しかし、いずれも敗退に終わった3月11日のチャンピオンズリーグ決勝トーナメント1回戦パリ・サンジェルマン(PSG)戦第2レグと、続く16日のリーグカップ決勝ニューカッスル戦は、リバプールの新監督に「遠藤航の価値を忘れてほしくはない」と感じさせもする内容だったのではないか。

 日本代表MFは、延長戦でも決着が着かず(1−1)、PK戦で敗れた(1−4)アンフィールドでのPSG戦で、111分が経過した時点でようやく、足がつったイブラヒマ・コナテに代わるCBとして投入された。ウェンブリー・スタジアムで、前半終了間際から追う展開となったリーグカップ決勝(1−2)では、ベンチで90分間を終えた。

 スロットは、中盤の底にも攻撃的な選手を好む監督だ。ポゼッションを確立し、試合の流れを支配することで敵に対する防御を行なう。

 遠藤が持つ守備力の必要性は認識している。本格的な優勝争いの始まりでもあるシーズン後半になると、起用頻度が増してきた。プレミアリーグ前半戦での出場時間は、第19節までに出場した8試合での計55分。後半戦では、3月8日の第28節終了(29試合消化)時点で、出場した8試合での計81分となっている。

 ただし、いわゆる「クローザー」としての起用が主流だ。チームには、自然と攻守のバランスや周囲との連携にも意識を配ることのできる、本職のボランチが遠藤ただひとり。開幕前から、「自分には自分の特徴があって、その特徴をいかにピッチ上で出せるか。それが結果的にチームに貢献することにもなる」と語っていた本人も、必要とされれば、きっちりと任務遂行で応えてきた。

 ウェンブリーで敗れたニューカッスルとの対戦でも、ホームでの前回リーグ戦での対決(第27節)では、後半32分にベンチを出ると、アンフィールドの観衆も沸いた頼もしいタックルやボール奪取で、勝利(2−0)へと締めくくっている。交代した相手は、遠藤と同じ一昨年の夏に8番タイプとして獲得されたが、ユルゲン・クロップからチームを受け継いだスロットが、6番役に抜擢したライアン・フラーフェンベルフだった。

【オランダ代表MFと比較すると......】

 身体能力も高いオランダ代表MFフラーフェンベルフが、新監督の期待に違わぬパフォーマンスを見せ始めた序盤戦には、ファンの間にも「遠藤不要論」があった。それが終盤戦の今は、ほとんど聞かれない。『ジ・アンフィールド・ラップ』『ブラッド・レッド』『ザ・レッドメンTV』など、リバプール通によるポッドキャストを聴いていても、「自分なら遠藤を使う」という意見が聞かれる。「あり得ないほど過小評価されている」と言う地元サポーターもいた。

 遠藤は、勝利への逃げきりだけではなく、勝利を引き寄せるためのチームパフォーマンスにも寄与できる存在であるはずなのだ。

 リーグカップ決勝後、「スロットは、もっと遠藤を信頼すべきだ」と言っていたのは、親子代々リバプールをサポートする友人のジャック。筆者と同じ西ロンドンの住人だが、アンフィールドのシーズンチケットを持つ彼は、最終スコア以上の完敗となったニューカッスル戦も、ウェンブリーのスタンドで見届けていた。

 先発したリバプールMF陣のなかで、フラーフェンベルフは数試合前からパフォーマンスに陰りが見えていた。まだ22歳と若いうえに、今季のような常時出場は、アヤックス時代の2021−22シーズン以来。プレッシャーのレベルも違うリバプール・レギュラー初体験のシーズンに、心身両面での疲労が溜まるのは当然だ。5日前のPSG戦でも、出来がよかったわけではないが、延長を含むフル出場だった。

「こういうこともある」風なスロットの試合後の会見を聞いて帰途に着いたところで、ジャックに「遠藤を使う手もあったような」と携帯メッセージを送ると、「守備的MFでも、CBでも、エンドーに期待を裏切られた記憶はない。スタメンだけじゃない戦力のクオリティも、今のチームの強みだったはずなのに」と返ってきた。

 マイボールの扱いにおいては、選手としての感性からして攻撃寄りのフラーフェンブルフに分がある。だが遠藤も、本能的にアンテナが働く守備面での負荷を背負うことで、攻撃的な周囲の味方を活かすことができる。

【リバプールに欠けていたもの】

 今回のニューカッスル戦では、マイボールの活用自体がままならかった。その証拠に、エースのモハメド・サラーは90分間でシュート0本。第一の原因は、中盤での力負けだ。中盤のバトルを制し、実際にチーム2点目を決めることになる得点源のアレクサンデル・イサクにボールを届ければいいという、ニューカッスルの狙いどおりの戦い方をされた。

 リーグカップ優勝チームの英雄は、見事なヘディングで先制ゴールも決めたCBのダン・バーンだろうが、影の主役は、強烈なインテンシティと闘志を体現していた、ジョエリントンとブルーノ・ギマランイスの両インサイドハーフだった。敗軍の将は敵のロングボール多用を強調していたが、リバプールは空中戦でのデュエルだけではなく、タックルの成功数でも、インターセプトの回数でも負けていた。

 五分五分の競り合いに勝てずにいたチームに、ピッチに立つや否やタックルやインターセプトを決める姿も珍しくない遠藤がいれば、形勢逆転へと近づくことができたのではないか。加えて、見た目の高さ以上のヘディング能力は、移籍1年目の昨季、リバプールのファンと地元メディアが驚いた、遠藤が持つ特性のひとつでもある。

 采配を振るうスロットは、優位な展開となっている試合でも、攻撃陣のリフレッシュによるゲームマネージメントを行なうタイプだ。2点のビハインドとなったリーグカップ決勝では、攻撃陣を送り出し続けたが、事実上の4トップ状態になっても逆転勝利を予期させはしなかった。途中出場のひとりであるFWフェデリコ・キエーザが、後半アディショナルタイムに一矢を報いただけで、敗戦を告げる笛の音を聞くことになった。

 試合後、出番のなかった遠藤自身は、「今日は何も話すことないです」と言いながら、ミックスゾーンを足早に通過して代表合流へと急いだ。「じゃあ代表戦、頑張って!」と声を掛けると、親指を立てるサムズアップで応えた表情は、さばさばとしていた。

 リバプールのチームメイトたちも、代表ウィークが心機一転の時間となるのかもしれない。しかしながら、たとえばオランダ代表としてスペインとのUEFAネイションズリーグ準々決勝2試合を戦うフラーフェンベルフが、一気に疲労が抜けてクラブに戻ってくるわけではない。タイトル獲得の望みが残されるプレミアの終盤戦再開に向け、リーグカップ決勝敗退後の17日間で変わるべきは、指揮官が先発レギュラー以外に寄せる信頼度のレベルだろう。

 リーグ戦29試合を21勝7引分け1敗で首位に立つリバプールは、9試合を残して、2位アーセナルに勝ち点12ポイント差をつけている。とはいえ、残り試合には、アーセナルとの直接対決のほかに、難敵との対戦が残されていることも事実だ。

 次節は、4月2日のマージーサイド・ダービー。地元の宿敵エバートンは、デイビッド・モイーズへの監督交代を境にインテンシティが高まっている。中3日でのフラム戦は、第16節では敗戦回避(2−2)に留まった。同じくロンドンでのアウェーゲームには、第8節で勝利(2−1)したものの、ボールを支配されて88.1%のパス成功率を記録される内容だったチェルシー戦もある。どちらも、フラーフェンブルフが"ガス欠"状態に陥る前の対戦だ。終盤戦で調子と順位を上げてきた、ブライトンとのアウェーゲームも残されている。

 5年ぶりとなるリーグ優勝は、コロナ禍での前回、アンフィールドでのセレモニーに立ち会うことが許されなかったファンが、最も獲得を待ち望んでいるタイトルでもある。その実現へと、スムーズに首位をひた走りたいスロットのリバプール。そのためには、遠藤という確かなクオリティを、"最後の締め"を超えて活用することが望ましい。

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