元警察官証言「外国人に不審事由がなくても職務質問は当たり前」 外国籍者の職務質問経験は日本国籍者の5.6倍 友人と一緒の小学6年生にも…「レイシャルプロファイリング訴訟」で弁護団が新証拠【“知られざる法廷”からの報告】

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2025年03月22日 07:02  TBS NEWS DIG

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 人種、肌の色、国籍、民族的な出自のみに基づく職務質問は「レイシャルプロファイリング」による差別であり違法だ−−として、外国ルーツの男性3人が国、東京都、愛知県を訴えた裁判で、今年2月、原告側弁護団が新たな証拠を提出した。「外国人に不審事由がなくても職務質問するのが当たり前だった」などの元警察官証言、外国籍者は受けた経験が日本国籍者の5.6倍に上るとの比較調査結果、中には小学6年生に対しても…との当事者証言という3つの柱で構成されたもので、いずれも実証的な内容だ。「外国人という外見のみを理由に職務質問するようなことはない」と主張してきた被告側はどう反論するのか。「知られざる法廷」から報告する。(元TBSテレビ社会部長 神田和則)

原告「外国ルーツの見た目で職務質問」、被告「不審事由があった」

 「(差別的な職務質問は)存在しないと被告は言うが、(外国籍者と日本国籍者の)大規模な比較調査と専門家の分析、元警察官や(原告と)同じような経験をされた人の証言で、存在していることを立証する」
 今年2月28日に開かれた第5回口頭弁論、原告側の谷口太規弁護団長が新たな証拠の意義を強調した。東京地裁で最も広い法廷には満席となる約100人が傍聴に訪れ、関心の高さをうかがわせた。

 この裁判は、24年1月、3人の男性(アフリカ系アメリカ人、南太平洋諸国の出身者、パキスタン人の両親を持つ日本国籍者)が起こしたもので、「何も不審事由がないのに、外国ルーツの見た目を理由に職務質問された」として、警視庁と愛知県警による人種、肌の色、国籍、民族的な出自のみに基づく職務質問が違法であることの確認や、国(警察庁)には各都道府県警に対してこうした職務質問をしないように指揮監督する義務があることの確認などを求めている。

 職務質問について警察官職務執行法(警職法)は、次のように規定している。 
 「警察官は、異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して何らかの犯罪を犯し、もしくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者または既に行われた犯罪について、もしくは犯罪が行われようとしていることについて知っていると認められる者を停止させて質問することができる」

 この規定について原告側は「職務質問は、単に警察官の主観や直感で怪しいと思えば良いわけではない。異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断することが求められている。海外ルーツである見た目を持つことのみで職務質問するのは、法律上許されていない」と主張。そのうえで「3人の原告は何も不審な事由がないのに、見た目から判断して職務質問された」と具体的な事例を挙げ、「3人は、これまで何度もこうした経験をしてきた。日本では人種や、肌の色、国籍、民族的出自などに基づき捜査対象を選別する手法であるレイシャルプロファイリングが警察組織で運用されている」として、憲法の法の下の平等や人種差別撤廃条約などに違反すると訴えている。

 一方、被告側は「警察学校における教養を通じて、職務質問が法令に基づき適正に行われるための指導がされており、人種、肌の色、国籍または民族的出自のみに基づいて職務質問の対象者と結論づけるような運用はされていない」「それ以外の場でも、『外見のみ』で職務質問をしてはならないといういわば当然の留意事項を含め、適正に行われるよう指導している」などと主張。原告の3人に対して職務質問したのは「不審と認められる挙動や交通違反の現認があったからだ」と反論している。 

職務質問の経験は日本国籍者12.8%、外国籍者71.1%

 法廷で、原告側弁護団は「人種差別的な職務質問を立証する」として、まず、日本国籍者521人と日本に住む外国籍者422人(いずれも20〜50代、男女比はほぼ半々)を対象に実施した比較調査について言及した。
 「多数の官公庁や地方自治体から委託実績があり、とりわけ外国人に対する調査では、スキルやモニター数など日本でもトップクラス」(原告側弁護団)という民間の調査会社に依頼し、過去5年間に職務質問された経験の有無を尋ねた。この際警察官から見て「日本人と思われる人」と「外国人と思われる人」を比較するために、一見して判断が難しい場合がある北東アジア国籍の人は除いた。
 その結果、警察官による職務質問を経験した人は日本国籍者が12.8%だったのに対し、外国籍者71.1%と5.6倍の差があることがわかった。
 年代別では、20代で日本国籍者14.4%、外国籍者88.3%と大きな開きがあったのを筆頭に、外国籍者は全年代で半数以上が職務質問の経験(日本国籍者は22.9〜6.9%)があった。
 調査結果は、統計学的、社会学的分析を専門家に依頼し「高度に有意」との結論を得た。

 次に弁護団は、2人の元警察官への聴取結果を明らかにした。
 1人は、「テロ対策名目で、見た目が外国人であれば、とにかく声をかけて職務質問して情報を収集していた」「ノルマが指示されていたので、達成するまでさせられた。休みを返上したこともあった」「躊躇率ゼロ」などと証言した。
 また、もう1人は、外国人を狙い撃ちにした職務質問を推奨する取り締まり強化月間があったことや、「上司からは、自分が『不審だな』と思ったら、それが不審事由だとよく言われていた」「後から『目をそらしていたから職務質問した』といった風に、適当に上司が書き直すこともあった」などと答えた。

 続いて当事者19人に対するアンケート調査の結果についても法廷で説明があった。
 このうち3人は小中学生で、アフリカにルーツのある愛知県の小学6年生は、昨年、同級生5人と自転車に乗っている時に1人だけ呼び止められて、父母の国籍のほか、ヘルメットを脱いだらドレッドヘアだったため髪は誰が編んだのか、「どこかのチームやギャングに入っている?」などと聞かれたという。

 弁護団は、こうした証拠を踏まえて、人種、肌の色、国籍、民族的な出自に基づく差別的な職務質問が行われていることが裏付けられているとしたうえで、「原告の3人に対する職務質問に不審事由はなかった」と述べた。

被告側の反論はいつ?4月に今後の進め方を協議

 原告側弁護団は、これまでにもレイシャルプロファイリングによる差別的な職務質問を裏付けるとする証拠を提出してきた。

 東京弁護士会の「外国人の権利に関する委員会」が、2022年に外国ルーツを持つ約2100人を対象に実施した調査では、過去5年以内に6割が職務質問を受け、うち約8割が身体的特徴から声をかけられた、自分に「不審事由はなかった」と回答した。
 このほか米国大使館領事部が21年12月、「外国人がレイシャルプロファイリングが疑われる職務質問をされて拘束や所持品検査をされたとの報告を受けた」とXで注意喚起したこと、愛知県警が作成した「若手警察官のための現場対応必携」(2009年4月)で「心構え ☆旅券を見せないだけで逮捕できる! ◎外国人は入管法、薬物事犯、銃刀法等 何でもあり!!」などと記載されていることも指摘している。

 新たな証拠提出を受けて、被告側の反論がいつ示されるのか、岡田幸人裁判長と被告側代理人との間で、かなり長いやりとりが続いた。

裁判長「原告から大部の書面をいただいて、それぞれ被告に反論をお願いするが、国の反論のスパンは?」
国側代理人「すべて反論できる期日は申し上げられない。可能なところから反論していく。専門家の意見を考えている。次回期日に、反論がどれぐらいになるのかをお伝えできれば」
裁判長「できるところは出して、残りはという二段階で」
国側代理人「次回期日は、提出がいつごろかをお伝えする場に」
裁判長「次々回で?」
国側代理人「そこですべてお伝えできるか…」

         ※         ※          ※

裁判長「仮に被告はいつごろになったら、どれぐらいの主張が出せそうか、わからないのですか」
国側代理人「次回、期日までに」

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裁判長「大(きな)法廷が空いている日が少ない。次回は6月になる」
原告側谷口弁護団長「いつ(反論を)出せるのかが4カ月後というのは、訴訟の進行上あり得ない」

         ※         ※          ※

裁判長「次回(4月に)進行協議。国が出せる書面は出して、見通しがわかるようにしていただければ…」
 
 結局、4月に非公開で今後の進行について協議する場を設けて、約4カ月先の6月下旬または7月中旬を想定して弁論を開く候補日を仮押さえするという異例の形となった。

 被告側が、今後どう反論するのか。法廷に注目したい。

<“知られざる法廷”からの報告>
 裁判所では連日、数多くの法廷が開かれている。その中には、これからの社会のあり方を問う裁判があるが、人知れず終結することも少なくない。“知られざる法廷”を掘り起こして報告していきたい。

このニュースに関するつぶやき

  • 職務質問に文句を垂れるのは、いわゆる被害妄想。
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