
少しずつ、綻びといいますか、納得できない部分が積み重なっていっている気がして良くない予感に苛まれ始めましたNHK朝の連続テレビ小説『あんぱん』も第4週。今週は「なにをして生きるのか」とのことで、アンパンマンマーチ的には先週の「なんのために生まれて」の続きということになります。
先週描かれたのは、おおまかに、のぶ(今田美桜)が「先生になりたい」という思いに至る流れと、嵩(北村匠海)が「のぶに恋焦がれている」という現状でしたが、この2人の軸になる思いが2人とも、いまいち伝わり切ってないんだよな。
のぶは主人公だから明確な夢を決めなければいけない。嵩は思春期だから女の子への恋心に悶々としなければならない。そういう前提というか段取りの必然が先にあって、その流れに強引に2人のキャラクターを引き寄せてきたような、そんな感じがしていたわけです。
そんなこんなで第16回、振り返りましょう。
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おなごが先生なんて!
先生を目指すことになったのぶにとってのハードル、越えるべき壁というのは、具体的には釜じいの言った「おなごが先生なんて! 嫁の貰い手がなくなる!」という主張であって、概念的には「そういう時代」として提示されていました。この時代に、おなごが先生になることに意味があって、主人公だからそういう型破りな夢に向かって走り出すのだ、というヒロイニズムを描こうとしているように見えた。
そしたら夏休み前、のぶに通知簿を渡す先生が女性でした。普通におるやん、と思ったんです。女性の先生、普通にいる時代なんじゃん。そりゃ史実としてはいるんだろうけど、少なくとも『あんぱん』というドラマの世界線、この時代のこの土地では「おなごが先生なんてとんでもない」という価値観が示されていたはずなのに、それがあっさりと覆されてしまう。
こうなると、のぶにとってのハードルは時代の価値観ではなく、単に勉強ができるかどうかという学力の問題だけになってしまう。
で、その学力は通知簿によればほとんどが「乙」か「丙」だという。のぶはこの通知簿を見て絶望しているわけですが、いやそれ見る前から自分が勉強できないことはわかってるだろ、と思うわけですよ。試験とか、できなかったでしょ。それも自覚してなかったの?
時代の価値観に抗って夢を追う姿には共感して応援しようという気にもなりますが、普段から勉強してないやつがその学力に見合わない夢を見て、その夢に対して自分がどういう位置にいるかも把握していなかったということが描かれたわけで、こうなると「のぶ=夢に向かって突っ走る女」という設定も名ばかり、「勉強せえよ」以外に言うことがなくなってしまうわけです。なんか知らんけど先生になりたいんだろ、勉強せえよ。
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問題の意味がわからない嵩
一方、嵩のほうも成績は芳しくないようで、特に数学は「問題の意味もわからない」のだそうです。それで答案用紙の裏にマンガを落書きしていたら、「丙」の下である「丁」という評価を戴いてきた。
当たり前だけど数学以外の試験も日本語で制作されているはずで、数学だけ「問題の意味がわからない」からマンガを描いた、数学以外は「問題の意味がわかった」からマンガを描かなかった。だから「丁」ではなく「乙」や「丙」だった、というのはちょっと話が通らないんです。
Fランだとか学力崩壊だとかの話題になると、よく出てくるのがこの「数学の問題文はそもそも国語だから国語力がないと問題の意味がわからない」という話。そこからの引用なんでしょうけれども、なんかシンプルにバカにしすぎだと感じたんです。
勉強ができない子、注意力が散漫になってしまう子に対する作り手の視線の冷たさといいますか、そういう個人の性質をもってコメディ的な展開の下地にしてしまう配慮のなさといいますか、嵩とのぶが年下の千尋に勉強を教わるシーン、役者の芝居はすごく良くて楽しいシーンではあったのですが、どこか残酷に見えてしまったんですよね。
「問題の意味がわからないって、アハハ」と笑うことはできないんです。それは悲しいことだから。
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松嶋菜々子はもう「そういう人」でいいかな
急に柳井の家に押し掛けてきて居候を決め込んでいる登美子さん(松嶋菜々子)。あいかわらず柳井の千代子さん(戸田菜穂)とはバチバチのようです。
先週、嵩に「柳井の家に居づらい」「千尋も素っ気ない」などと心境を吐露しており、その際、嵩に「居たらいい」と許可をもらったからかなんなのか、態度を改めることもなく兄弟の進路や教育方針に口を挟んできます。
どういうつもりなんだ、今まで放っておいたくせに、今さら急に帰ってきて母親気取りか? と思っちゃうところですが、千代子は千代子で子を産めなかったことに負い目があるのかもしれませんね。登美子さんは柳井の家から叩き出される気配すらない。
この人については、もう筋を通す気もないんだろうな。「そういう人」として、兄弟と柳井家を引っかき回す「美しきトリックスター」という記号として、いろんな矛盾を菜々子の美貌で押し通すつもりなんでしょう。それならそれで別にいいかな、初期のトリックスターだったヤムおじ(阿部サダヲ)の存在感も薄れてきたところですし、だったら思う存分引っかき回していただきたいところです。
キャラと物語が合ってない
のぶと嵩は「トホホな2人が互いの夢を目指しながら心を寄せ合う」ということにしたいんでしょう。前述の2人で千尋に勉強を教わるシーンも、それ単体で見ればほほえましい描写ではありました。お似合いだし、2人ともちゃんとティーンエイジに見えるのもたいしたもんだと思う。
ただ、その肝心の夢に乗れないんです。のぶが「先生になりたい」という思いに共感できないし、嵩はどう見ても医者にはなれないし、絵を描くことへのモチベーションも見えてこない。先週は「新聞のマンガ賞で入選する」ほど絵が好きな子で、今週は「答案用紙につい落書きしちゃう」程度の好きさ加減になってる。入選してマンガへのモチベーション爆上げで寝食も惜しんで次回作に腕を振るう、とかもない。
あのマンガ賞に入選したことが嵩にとってどれほどの事件で、寛(竹野内豊)や千代子はそれをどう考えているのか、そこらへんが抜け落ちているので、将来のきっかけになるはずの「入選」という事実がリセットされて、それよりも嵩&のぶのほのぼの恋愛劇と、大人たちの入り混じる思惑みたいなものが優先されている感じ。
描きたいキャラと描きたい物語がいまいち噛み合ってないように見えるんです。
いいところはいっぱいある
いいところはいっぱいあります。ラジオ体操、抜けるような青空の下でいきいきとしたのぶの姿。首の運動で動きが左右逆になって向き合ってしまう釜じいとくらばあ。のぶとの結婚を打診されて、なんだかよくわからない理由だけどとにかく断りたいという思いで実直に言葉を絞り出した豪ちゃん(細田佳央太)。それを受ける河合優実。ああ、河合優実。息をのんでしまう、その横顔。
今週はかなり不安なスタートとなりました。基本あんまよくないけど、いいところを拾っていく、という作業はあんまり楽しくないのでね。基本いい感じになったらいいなと思います。
(文=どらまっ子AKIちゃん)