
殴ったことに対する後始末がないんだよな。昨日ののぶちゃん(今田美桜)による嵩(北村匠海)へのビンタは、この2人の人生においてけっこうな大事件だったと思うんですよ。おそらくのぶが嵩に手を上げたのは初めてのことだったろうし、嵩もショックを受けていた様子はあった。少なくとも、この2人はあのビンタのことをずっと忘れないと思うわけです。
で、今日もそのビンタの話題からスタート。たぶんヤムおじ(阿部サダヲ)が楽しそうに朝田家に報告したんだろうね。「すごかったぜ〜、首から上が吹き飛ぶかと思ったよ」とか言って。そういう風景は、いわゆる行間として思い浮かぶんだけど、羽多子さん(江口のりこ)の言う「今度会うたとき、ちゃんと謝っちょきなさい」と言った「今度」がない。
めちゃくちゃ気まずいと思うんだよな。殴ったのぶも、殴られた嵩も、めちゃくちゃ気まずいでしょう。この2人は夫婦になるわけだから、殴った瞬間よりこの謝罪の瞬間のほうが2人の関係性の進展に寄与するはずなんだけど、そこが抜け落ちてる。
ドラマ的に、次に2人が会ったシーンは数か月後の年が明けた冬、互いに気持ちの整理をつけて受験に向けて勉強を頑張って、例のシーソーで嵩が戸籍を眺めている場面でした。その戸籍からは、母の登美子と弟の千尋が除籍されている。嵩の複雑な家庭環境を描くという、あのビンタとはまったく関係ない別の意味のシーンが訪れている。
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今日のクライマックスは受験当日、受験票を家に忘れていった嵩のためにのぶが疾走し、無事にそれを届けて「ボケぇ〜!」の場面だったと思うんだけど、あのビンタによる禍根の処理、というか気まずさの解消をしていないので、どうにもドライに見えてしまいました。たぶんちゃんとのぶが「うちハチキンやから」とか言って嵩に謝って、嵩が「僕のほうこそどうかしてた」とか言って、2人で笑い合うシーンなんかがあったら、潤ったと思うんだよなぁ。潤いをくれよNHK朝の連続テレビ小説『あんぱん』、第18回、振り返りましょう。
誰がアンパンマンなのか
またまた寛先生(竹野内豊)がアンパンマンマーチの「なんのために生まれて」を発動しました。兄弟げんかが無事に収まって、千尋(中沢元紀)の手当てをしながら「跡取りはいらない」と告げ、嵩に「なんのために生まれて、なにをして生きるのか」わからなかったらもがけと言う。
別に悪くはないんだけど、寛先生のキャラクターとしてはその名の通り寛大であり、貫録があって、先進的といったところでしょう。『あんぱん』ではインテリジェンスを司る存在であるはずなんだけど、こうもマーチのフレーズを乱発されると安っぽく見えちゃうんだよな。
ヤムに関しては「ジャムおじに寄せてます」という主張があるから戯画的でも許せるんだけど、寛先生の場合はこういうセリフが出てくるたびに、その人物像がぽろぽろと小さく崩壊しているように感じるわけです。今はまだいいけど、何かこう、戦争とかそういう胸が切り裂かれるようなシーンで「なんのために生まれて……」とか言い出したらイヤだな、という予感がある。この人だけは地に足をつけていてほしい。
千代子vs登美子
寛先生が地に足を付けていてくれればこそ、今日の千代子vs登美子のシーンも映えるわけです。この2人がどうなっても、まあ最終的には寛先生がなんとか収めてくれるだろうという信頼感がまだ残っているので、なんかよくわかんないイチャイチャも松嶋菜々子と戸田菜穂の迫力で押し切ることができてる。
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「同じ目標ができたら女は結束するがですよ」
そうなのか、知らんけど、と思うけど、楽しいシーンでした。のぶの受験に反対してた釜じい(吉田鋼太郎)が応援モードなのは「のぶががんばって勉強してるから」という理解でいいのかな。
当日のバタバタの無理やり感
いよいよ受験当日、一緒に朝飯を食っただろうにいつの間にか家を出ていた嵩は受験票を忘れていました。その受験票を、同日女学校を受けることになっていたのぶが届ける。
この場面、のぶ以外の全員が嵩に受験票を届けられる立場に見えて、のぶだけは自分の受験に専念したいところでしたが、まあこれはのぶが行くのでしょうがないかな。蘭子(河合優実)が行っちゃったら別のドラマになっちゃいそうだし、ヤムおじだと途中でどっか行っちゃいそうな気もするし、「ボケぇ〜!」で最高潮に持っていきたいところでしょうから、無理やり感には目をつぶっていいと思う。
ちょっと気持ち悪いのは、嵩とのぶ、それぞれにどれくらい合格の可能性があるのかが全然伝わってなかったことです。2人とも必死に勉強したことはわかるけど、勉強すれば「問題分の意味がわからない」と言ってた学生が高知イチの難関校に挑むところまでこれるのかな、とか思っちゃうんだよな。合格の可能性がどれくらいなのか見えないから、素直に「試験がんばれ」と思えないまま当日を迎えてしまっている感じ。
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嵩に関してはホームページの人物相関図に「芸術学校の教師」というのがいるから、たぶん落ちて芸術学校に進むんだろうな、とか、のぶは『あさイチ』で華丸さんが言ってた通り、あの先生の存在感からして今後のぶと絡んでくるだろうから合格するんだろうなとか、そういうことを考えてしまう。素直に応援できる前提があれば、こういうの気にならないんだけど。
さりとて構図はよい
冒頭の5人の女性のシーン。主人公ののぶを中央に置いて、それぞれが別の方向を向いてやるべきことをやりながら会話が飛び交うシーン。こういう構図のよさがあるんだよな。画面に奥行きが出てる。
3姉妹のお着物と羽多子さんの割烹着のコントラストもね、未来と現実を象徴しているようでいい感じ。くらばぁが唐突に「げぇりぃくぅぱぁ」とか言い出しても、そんなに気にならない。ここのワンカットの長回しは、会話の内容はともかくおもしろい演出だったと思いました。なんか今週はずっと文句ばっかり言っているような気がしますが、それでも楽しく見ていられるのはこうして演出が仕事してるからなんでしょう。
そういうわけで、いろいろあるけどまだ全然楽しい『あんぱん』、明日も見るよ。
(文=どらまっ子AKIちゃん)