『あんぱん』第19回 大筋は無理なので小手先の上手さを楽しむ時期なのかもしれません

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2025年04月24日 17:01  サイゾーオンライン

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今田美桜(写真:サイゾー)

 昨日はのぶ(今田美桜)が嵩(北村匠海)をビンタしたあとに謝ったシーンがなくて寂しかったと感じたNHK朝の連続テレビ小説『あんぱん』、今回もこんなシーンがあったらなぁと思うところがありましたので、その話から。

『あんぱん』人を殴ったら謝ろう

 のぶの受験した師範学校の受験科目は数学、国語、歴史、地理、理科、音楽、習字、図画、そしてのぶちゃんが大の苦手としている裁縫なのだそうです。それと体操と面接。ずいぶんたくさんあるけど、これを1日でやるのか。すごいな。

 それはそうとして、図画があるのか。のぶちゃんが大の苦手としているのが裁縫じゃなくて図画だったらよかったのに、と思ったんです。のぶの身近には幼少期から図画に親しみ、新聞のマンガ賞を獲るほど図画の才能にあふれた人がいます。その人はその人で受験に向けて、大好きなマンガを封印して勉強に勤しんでいた。

 互いに勉強ができないことはわかっていても寄り集まって勉強会をしようとしていた2人ですから、「ところでのぶちゃん、師範学校の受験科目はなんなんだい?」みたいな話があって「あれとこれこれだけど、特に図画が苦手やき」とか言い出したら、ほら、ドラマチックじゃないの。

 のぶの合格を願っているから図画を教えてあげる嵩。「頭身? パース?」とか言いながら必死にヘタクソな絵を描くのぶちゃん。そんなのぶちゃんに絵の描き方を教えていくうちに、マンガへの思いがムクムクと頭をもたげてきて、勉強が手につかなくなる嵩。

 嵩ののぶへの愛情も表現できるし、のぶにとって嵩が必要な人になっていく過程も描ける。のぶが合格して嵩が落ちるという展開が用意されていて、それをきっかけに嵩が本格的に絵の道に進んでいくのであれば、なんだか薄れてきているように見えた嵩の絵への情熱が再燃していく要因にもなる。

 受験が終わり、寛先生(竹野内豊)に「今日だけは」と言われて妄想マンガを描く嵩も悪くなかったけど、この受験期間の「マンガを封印する苦しみ」みたいな部分があんまり伝わってこなかったんだよな。「芸術は爆発だ」って岡本太郎大先生は言ってたけど、あの嵩のマンガには小手先の上手さはあっても、ずっと描けなかった鬱憤が爆発している感じがしなかった。

 今日はこの嵩のマンガだけでなく、『あんぱん』というドラマの小手先の上手さが随所に見られた回だったような気がします。決してネガティブな意味だけじゃなく。

 第19回、振り返りましょう。

足取りの演出

 試験中も特に悩むこともなく、音楽も体操もそつなくこなし、面接でも堂々と自己紹介ができたのぶちゃん。しかし、試験を終えて帰ってきたその足取りはいかにも重そうです。

「走る人」であり、いつも足取りが軽いことでお馴染みののぶちゃんが、足取り重く帰ってくる。ざざっ、ざざっ、と下駄が土間をこする効果音が挿入される。のぶにとって不本意な出来であったということを、この重い足取りを表現する効果音でもって伝えてくるわけです。丁寧な演出だなと感じるわけです。ちゃんと、効果音が人物の心象表現を補強する効果として使われている。

 そののぶが失敗だと感じている面接のシーンも、のぶの実直な性格ゆえ面接官との会話が噛み合わなかったという、慎ましいところで抑制されている。パラパラとか踊らない。この失敗が、のぶが「たぶんダメ」と感じたことと、「それでも合格する」という展開の、その両方のリアリティを失しないところに落ち着いている。のぶが嵩に受験票を届けるというのはだいぶ無理筋だと思ったけど、この試験を経てのぶが合格するに至る経緯は上手くいっていて、納得感のあるものでした。

登美子、ノーテンキに転化する

 再婚先から離縁して街に戻ってきた登美子(松嶋菜々子)、当初は邪悪な雰囲気を振りまいていましたが、ここにきて千代子(戸田菜穂)と結託して赤飯を炊くなどノーテンキな感じになってきました。

 前祝いと称された豪勢な食卓のシーン、嵩のプレッシャーに共感するより、女性2人のノーテンキによる楽しさが勝っていたような気がします。

 結果論ですけど、登美子の所業について考えてみると、千代子が許せばそれでいいという類のものだったように思うんですよね。嵩と千尋を立派に育て上げ、「あんなかわいい子を捨てて」と言っていた千代子が、登美子と一緒に「お赤飯炊きましょ」「そうしましょ」って言い合っているなら、もうそれでいいんじゃないかと思ったんです。それこそ柳井の家の問題であって、視聴者側である私たちが「それでも登美子のやったことはおかしいだろ」と言っても、それは余計なお世話というもので。

 ノックもせずに、マンガに没頭する嵩の背後に現れた登美子にも「ちょ、おま!」と思ったけど、まあなんか愛嬌あるしな。いつの間にか登美子を「許せる存在」としてしまったこともまた、このドラマに上手さを感じた部分でした。

それでも波乱はやってくる

 明日はいよいよ、その登美子が嵩の不合格を知ることになります。一度は許されたと感じた登美子さんが、また許されざることを言いそうな気がしてワクワクしますよ。できれば「バカ」とか言ってほしいところです。そんでまた千代子とバチバチになったら超楽しいね。

(文=どらまっ子AKIちゃん)

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