写真横浜市旭区にある軟式少年野球チーム「横浜ECP ベースボールクラブ」(以下、ECP)。チーム名のECPは「Expand your child’s potential」の略称で「子どもの可能性を広げる」という意味が込められている。そんなチームには創設4年で区内最大規模の50人近い子ども達が集まってきている。子ども達が集まる理由はどこにあるのか? 低学年チームの練習が行われているグラウンドに足を運んだ。
<狭いグラウンド、短い練習時間>
練習が行われていたのは、少年野球の内野がすっぽりと収まるサイズの幼稚園の園庭。総監督の足立健太郎さんと幼稚園の代表者が親しかったことから、土日はこの場所を貸して貰えているのだという。
部員数が多く、グラウンドは狭く、練習時間は半日と短い。そのためチームの活動は5年生以上の高学年チームと4年生以下の低学年チームに分かれて行われている。
この日は高学年チームが大会に参加していたために低学年チームの練習が行われていたが園庭にいる子どもの数は23人。それに対して低学年チームの監督、コーチ、お父さんコーチの数は8人。大人1人で子ども3人を見ることができる計算になる。これだけの大人の目があるから、いわゆる「見守り当番」などの保護者の姿は0人だった。
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練習はウォーミングアップからスタート。ランジやダッシュ、ボールを扱ったり相手と競ったり、ゲーム要素も取り入れられた、子ども達が飽きないような工夫が込められた様々なメニューが行われていた。ちなみにこれらのメニューはプロのトレーナーとも一緒に相談しながら練られた専門的なメニュー。
アップは練習が始まる前に各自でやらせておくというチームを見かけることもあるが、ECPではたっぷり50分の時間が割かれていた。それは野球以外の体の動かし方を意識的に行うことや体を大きく使うこと、体を上手にコントロールする意識を持つことなどに重点を置いているため。足立総監督はこう話す。
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「私も大学まで野球をやっていましたが、経験上『体をコントロールする力』に優るものはないと思っていますし、『技術』はその上にあると思っています。ですのでドッジボールをやったりサッカーをやったりと野球以外の体の動かし方を経験させることも意識してやっていますし、冬場の三ヶ月間はヨガをやったりもしています。雨の日は幼稚園のホールを使わせてもらっているのですが、そこでは匍匐(ほふく)前進をやったり逆立ちをやったりとか、たくさん体を動かすようなことをやっています。それが今後野球を続けていくうえで『あのとき、やっていてよかった』ということになると思っていますから」
アップのあとはキャッチボールなのかと思いきや、その後に行われたのは子ども達各自がやりたい練習を行う「課題練習」。子ども達はバッティングやゴロ捕り、ピッチング練習、キャッチャーの捕球練習など、園庭内のあらゆる場所で各自がやりたい練習に励んでいた。キャッチボールは守備練習が始まる前に行われていたが、ECPでは練習効率を重視するため、全員で同じ練習を行うということが基本的にはない。
<ノックとドリルのローテーション>
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その後は内野の各ポジションに選手がついて守備練習が行われたが、三遊間の選手に打つノッカー、二遊間の選手に打つノッカーの二人が交互にテンポ良く打っていた。こうすることで守る選手はすぐに順番が回ってくるため、たくさんのノックを受けることができる。
園庭脇では数人の子どもたちに「グラブを下から出してゴロを捕る」ドリルが行われていた。ドリルでは総監督自身が大学まで内野手だったこともあり、「(ボールが転がってきたら)早めにグラブを地面の上に置く。下から上に動かす」と手本を見せながら子ども達に教えていた。手本を見ることで子ども達も正しい動きが分かるし、体の動かし方のイメージしやすくなる。実際、手本を見た後ではゴロを捕る子ども達のグラブの出し方が短時間で随分と良くなったように見えた。
ドリルを終えた子ども達はノックのメンバーに入っていき、ノックを受けていたメンバーの何人かが今度はドリルを行う。ドリルで「グラブを下から出してゴロを捕る」を数多く行い、それが守備位置についてノックを受けても実践ができるかを確認する。それが繰り返し行われていた。
コーチ陣からは、「今のは良いプレーだなー!」「まるで源田じゃん!」「ナイスプレーの時はみんなで言ってやろうぜー!」とポジティブな声が飛び、失敗やミスを怒ったり、なじったりする声は聞かれない。
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ノックの最中、何人かの子どもがワゴン車に乗り込んで出かけていた。ついて行ってみると、車で5分ほどの場所にある総監督の自宅敷地内に設けられていたバッティングゲージで打ち込みが行われていた。ここでの打ち込みが終わるとまた車に乗り込んで園庭に戻り、また別の選手が車に乗り込んで打ち込みに向かって行った。
守備練習とゴロ捕りのドリル、ゲージでの打ち込みが休むことなくローテーションのように上手くまわされていた。
<ECPを選んだ保護者達の声>
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練習時間は4時間(1、2年生は2時間で終了してその後はフリータイム)ほどだったが、子ども達は適宜休憩を挟みながらも終始動きっぱなし。グラウンドでボーッとたたずむ時間がほとんどない。狭いグラウンドと短い時間ということを逆手に取った効率的な練習が組まれていた。
最後に、練習のお迎えに来ていた保護者の声を紹介したい。令和の時代に子ども達が集まるチームとはどういうチームなのか、その理由が見えてくる。
■2年生の保護者
「会社の上司がこのチームの立ち上げに関わっていたこともあって誘われて入りました。少年野球は保護者の負担が大きいイメージがありましたが、でもECPはお茶当番もないですし、練習も丸々一日ではなくて半日で終わるところが良いなと思いました。コーチもたくさんいてくれるので子どものことも細かいところまで見てくれていますし、片付けの時などもそうですが、いつもコーチが『先のこともよく考えて行動しなさい』ということを子ども達に言ってくれて、そういった野球以外の部分もいいなと思っています」
■3年生の保護者
「子どもが『野球をやりたい』と言ったときは、親の負担が大きいとか親も覚悟をしないといけないとか、(少年野球には)そういったイメージがありました。でも子どもの保育園の同級生が先にECPに入っていて、親の負担は少ないことや、お母さんもほとんど何もやらなくていいと聞いていたので、安心して入部することができました。うちは母親が土日になかなか動けないので親の負担が少ないのが助かりますし、他の習い事とかと同じような感覚で入りやすかったです。子どもは野球を始めるまでは土日はずっと家にいたのですが、野球を始めてからは練習から帰ってきても外で活発に遊ぶようになりました。そういうところが野球を始めて変わったと思っています」
■入部したばかりの2年生の保護者
「同じ登校班の子が入っていてECPのことを知って入りました。これだけのコーチの方がいて大人の見る目が多いから怪我のリスクも減るでしょうし、練習時間が短いながらも内容の濃い練習ができているのかなと思います。親として安心して任せることができますし、子どもも毎週の練習を楽しみにしているようです」
ECPの練習からはチーム運営で参考になる点がたくさんある。
練習場所が狭くてもできることはたくさんあるということ。
効率よく練習を行えば長時間の練習が必ずしも必要ではないということ。
お父さんコーチがたくさん増えれば見守り当番などのお母さんの負担を無くすことができるということ。
練習時間が短ければお父さんコーチも参加しやすいということ。
後編では総監督の足立さんに、チームを立ち上げた経緯や保護者の負担、チーム運営などについて細かく話を聞きます。(取材・写真:永松欣也)