
Aさんは物心ついたころに、今の両親に養子として迎えられました。実子ではない自分に対して愛情深く育ててもらったことを深く感謝しています。Aさんの3つ下には両親の実子である妹がいましたが、分け隔てなく育ててもらっていました。
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Aさんが中学校を卒業するころまでは妹とも良好な関係を築いていたものの、高校進学のころからぎくしゃくしだし、大学進学に伴い独り暮らしをするころには、妹から無視されることも増えていったのです。
帰省しても以前のような打ち解けた雰囲気はなく、どこかよそよそしい態度を取られることが増え居心地も悪く感じてしまいます。ただ、いつも笑顔で迎えてくれる両親に対しては、育ててくれた感謝の気持ちは変わりません。
妹との関係はそのまま、Aさんが大学を卒業して就職し数年が経過したころ、父親が病気で入院してしまいます。Aさんは仕事を調整してできる限り実家に帰り、母と共に父の看病にあたります。
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しかしそのころから、妹が母に相続の話を持ちかけるようになり、父が大切にしてきた家や土地、わずかな預貯金の分配について話をするようになったのです。父がまだ入院中だというのに、妹が相続の話を持ち出すのはあまりにも理不尽だと感じたAさんは、「いい加減にしてよ!」と注意せずにはいられませんでした。すると妹は「あんたは実の子じゃないんだから、関係ないでしょ!」ときつく言い返してきました。
Aさんは養子なのはわかっていたものの、面と向かって言われるとショックを受けてしまいます。さらに妹からは相続を放棄するように詰められてしまうのでした。養子のAさんは実子の妹に遠慮しなければならないのでしょうか。北摂パートナーズ行政書士事務所の松尾武将さんに聞きました。
ー養子は実子とでは相続の扱いが異なりますか
原則として、養子と実子の相続における法的な扱いに違いはありません。養子は縁組の日から、養親の嫡出子(=法律上で婚姻関係のある夫婦から生まれた子のこと)と同じ身分を取得します。相続においても同様で、養子は実子と全く同じ立場で「法定相続人」となるのが原則です。相続できる財産の割合(法定相続分)についても、養子と実子の間に差はありません。
実子である妹さんが「あんたは実の子じゃないんだから」という理由でAさんに相続権がない、あるいは放棄すべきだと主張したとしても、それは法的に意味があることではありません。Aさんは、両養親について実子である妹さんと同等の相続権を持っています。
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ー相続を放棄するよう迫られたらどのようにすればいいでしょうか
相続放棄を迫られたとしても、Aさん自身が家庭裁判所へ「相続放棄の申述」をおこなわない限り民法上の相続放棄とはなりません。その他事実上の相続放棄として、Aさんの相続取得分をゼロとする遺産分割協議書への署名捺印を求められたり、妹を譲受人とする相続分譲渡契約への署名捺印を求められることがあるかもしれませんが、Aさんに相続意思があるのであれば同意する必要はありません。「申出に応じるつもりはない」ときちんと意思を表明すべきです。
メールやLINEなどで脅迫的なメッセージを受け取った場合は、また別の問題が生じますので、相続放棄を迫られた日時や場所、具体的な内容などを確保するため削除せずに保存しておきましょう。そのうえで相続問題や法律問題に詳しい弁護士に相談してください。
養子であったとしても実子に遠慮する理由はありません。正当な権利を主張すべきだと考えます。
◆松尾武将(まつお・たけまさ)/行政書士 長崎県諫早市出身。大阪府茨木市にて開業。前職の信託銀行員時代に1,000件以上の遺言・相続手続きを担当し、3,000件以上の相談に携わる。2022年に北摂パートナーズ行政書士事務所を開所し、相続手続き、遺言支援、ペットの相続問題に携わるとともに、同じ道を目指す行政書士の指導にも尽力している。
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(まいどなニュース特約・八幡 康二)
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