「再会の暁には大嫌いと伝えるつもりだった…」最悪な思い出のあるかつての同級生との“大人になってからの友情”は成立する? 漫画『スイート・ライムジュース 無敵の再会ごはん』作者に聞く

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2025年05月12日 18:00  ORICON NEWS

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『スイート・ライムジュース 無敵の再会ごはん』(原作:一初 ゆずこ 漫画:灯/KADOKAWA)
 美人でいつも注目を集める翠子。ちょっと頑固で堅実な果澄。中学時代、好きな男子を翠子に横取りされた果澄は、大人になって翠子に再会する。“大嫌い”と伝えたいのに、なぜか翠子の喫茶店を手伝うはめに……。そんな“大人になってからの友情”をテーマに、様々な境遇の女性の成長を描くコミック『スイート・ライムジュース 無敵の再会ごはん』(KADOKAWA)が注目を集めている。原作の一初ゆずこ氏に、執筆のきっかけ、作品に込めた思いについて聞いた。

【漫画】再会の時には「大嫌い」と伝えるはずの相手に“お腹のふくらみ”を見つけて…

■『スイート・ライムジュース 無敵の再会ごはん』一初ゆずこさん(漫画原作)インタビュー【PART1】

――『スイート・ライムジュース 無敵の再会ごはん』の発売、おめでとうございます。この作品が生まれるきっかけはどのようなものだったのでしょうか。

【一初】ありがとうございます。『スイート・ライムジュース 無敵の再会ごはん』の原作は、5年前に書いた短編小説『スイート・ライムジュース』を「物語の1話目として配置し、現在の形に改題の上、2話目以降をコミカライズに当たって書き下ろした長編小説」です。元々の短編小説は、小説投稿サイト・エブリスタ様で2019年に開催されていた「三行から参加できる超・妄想コンテスト」の第102弾のテーマ「3時」に着想を得たことがきっかけで生まれました。
「3時」というお題に向き合ったとき、「二人の人間が、3時までという制限時間内に、己の今後の人生といった大切なものを賭けて勝負するお話」はどうだろうかと思いつきました。コンテストの〆切が、梅雨の時期でしたので、これから訪れる夏が楽しみになるような、読後感が爽やかなお話にしたいなと思いまして、物語の舞台は夏の喫茶店、店名は海を連想する『波打ち際』、ラストでスカッとするようなどんでん返しも盛り込もう、と決めていきました。勝負をする二人の名前も、涼しげな雰囲気を物語に添えるような漢字を選びたいなと考えていくうちに、「恋人との結婚を控えた果澄」と「離婚したばかりで妊娠中の翠子」という対照的なキャラクターが生まれました。男女ではなく女性同士の物語にした理由は、例えば「多感な学生時代に抱いていた、人間関係に対する息苦しさ」や「空気を読んで、周りに合わせないと生きていけないような切迫感」といったような、男女間でも共有できることに加えて、退職や結婚といった人生の転換期に生まれる「女性同士だからこそ、互いに共有しやすい感情」も、二人の勝負に絡めて描きたいなと思ったからです。
そんな経緯で、短編小説『スイート・ライムジュース』が生まれた5年後、カクヨムWeb小説短編賞2023の短編小説部門にてLScomic奨励賞を受賞し、現在お世話になっているLScomic編集部さまから、コミカライズの打診と合わせて「この短編を物語の『第1話』として捉えたとき、物語の『続き』をどんな方向で膨らませていけそうか」とお話をいただきました。その際に、頭に思い浮かんだ第2話以降のイメージは「1エピソードごとに美味しそうなお料理が出てくるヒューマンドラマ」でした。作中で、果澄のために特別なライムジュースを作った翠子が、他にはどんな料理を作るのか、私自身も見てみたかったからかもしれません。短編小説として一度は完結させていた物語に、「続き」という未来を切り拓いてくださった編集部の皆さまに、心より感謝申し上げます。

――美人でいつも注目を集める翠子。ちょっと頑固で堅実な果澄。中学時代の同級生だった彼女たちが、大人になってから偶然再会します。この再会、翠子・果澄はそれぞれどんな気持ちだったのでしょうか。

【一初】主人公の果澄にとって、翠子は「初恋を台無しにした相手」であり、再会の暁には「大嫌い」だと伝えようと意気込んでいました。再会を果たした瞬間は、果澄にとって積年の思いを込めた「大嫌い」を伝えるチャンスでしたが、翠子が妊娠中だと気づいたことで、出鼻を挫かれた気分になったのでしょうね。けれど、その後もなかなか翠子に「大嫌い」を伝えられない果澄は、言うタイミングを逃したことに、実はどこかで少し安堵していたのではないかな、と想像しております。自分に自信がない果澄は、誰かを傷つける言葉の棘に敏感で、初恋を台無しにされた過去を根に持っていても、他者を傷つけたくないという相反する思いを抱えていたように思います。そういった真面目で不器用なところも含めて、翠子は果澄のことを一目置いていたように感じます。
翠子は、果澄と再会できたことを「運命」と形容するくらいなので、とても嬉しかったのだと思います。中学生時代には、果澄と友達になれなかったので、今度こそ仲良くなりたい、という気持ちも抱いているはずですね。また、このときの果澄が結婚を理由に仕事を辞めているように、翠子も離婚という形で人生の岐路に立っています。シングルで出産・子育てをしながら、喫茶店を守っていくにはどうすればいいのか……と思案していた矢先の再会なので、これからの人生に一筋の光明を見出せたような気持ちになったのではないかな、と思います。
再会のときに抱いた感情が対照的な二人ですが、相手のことが好きであれ嫌いであれ、互いに「十三年前から忘れられない相手だと認識し合っている」という点では、気持ちが一致していますね。

――果澄は翠子に中学時代、好きな男子を横取りされた過去があり彼女のことが「大嫌い」。でも付き合っていくうちに印象が変わっていきます。果澄にとって翠子はどんな存在でしょうか。

【一初】果澄にとって翠子は、最初は「大嫌い」な相手でしたが、恋人の達也との婚約が破談になった瞬間からは、日常を目まぐるしく変えていく台風のような存在にもなったのだろうな、と思います。寿退社から一転して無職になり、達也と一緒にではなく一人で引っ越しを決めて、新しい仕事を始める……翠子の再会が齎したものは、果澄が予期していなかったものばかりで、人生が劇的に変わっています。そこからさらに、喫茶店で共に働く日々を送る中で、中学生時代には気づけなかった翠子の思慮深さに触れていくことで、彼女もまた果澄のように、複雑な感情を持つ人間なのだと気づいていったように思います。
大人になってから再会した翠子は、果澄が婚約解消の件で落ち込んでいたときに、甘いホットココアを振る舞ってくれたり、営業を再開した喫茶店に常連客が戻ったことを、果澄のおかげだと言って喜んでくれたり、屈託のない笑みを見せたかと思えば、不意打ちで心細さを垣間見せたり……私自身、episode2以降を書き下ろす中で、彼女が明るい笑みの下に忍ばせていたさまざまな思いを知るたびに、新鮮な驚きを感じていました。
「大嫌い」以外の感情も抱かせる翠子と一緒に過ごしていたら、果澄は落ち込んでいる暇なんてなくて、きっと前を向いて生きていくしかないのでしょうね。現在の果澄にとっての翠子は、生きるパワーに満ち溢れた存在なのだろうなと思います。

――翠子から見ると「唯一思い通りにならない子」だった果澄。そんな彼女に喫茶店の手伝いをお願いしますが、翠子にとって果澄はどんな存在でしょうか。

【一初】翠子にとっての果澄は「不器用だけど、周囲に流されない意思を持っている、特別な女の子」です。たとえ傷つくと分かっていても自分を曲げず、信念を貫かずにはいられない果澄のことを、翠子は「不器用で損な人」と思う一方で、高く評価しています。
凛としているように見える翠子も、果澄のように思い悩んだり、心に迷いが生じたりすることがあります。そんなとき、すっと冷静な自分に立ち返るために必要な、さながら方位磁針のような存在が、翠子にとっての果澄ではないかなと思います。嘘がつけない正直者で、決してぶれない芯を持っている果澄の存在は、果澄自身に自覚がなくとも、周囲に信頼感や安心感を与えているのかもしれませんね。

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