
前編:大谷翔平だけじゃない! MLBアジア系野手台頭の時代
大谷翔平をはじめ日本人3選手がロスターに名を連なるロサンゼルス・ドジャースで、韓国出身の野手、金慧成(キム・ヘソン)がMLBデビューを飾った。まだ26歳、ベテラン主体のドジャースにおいて、26歳の若さで新たなパワーを吹き込む存在として期待を背負う選手だが、韓国、広く言えばアジア系の野手の活躍は、大谷がMLBで切り開いてきた道のりが大きく影響している。
【鮮烈なメジャーリーグデビューに大谷もねぎらい】
5月5日のロサンゼルス・ドジャース対マイアミ・マーリンズ戦は、MLBの舞台におけるアジア系選手たちの躍進を予感させる一夜となった。
ドジャースの金慧成(キム・ヘソン、26歳)が「9番・二塁」でメジャー初の先発出場。3―0で迎えた5回の第2打席、先頭で相手先発投手、サンディ・アルカンタラの外角直球をとらえ、レフト前に運んで待望の「H」ランプを灯した。さらに大谷翔平の打席で2試合連続となる二盗にも成功。これで無死二塁と好機を広げると、大谷が9号弾丸アーチを右翼へ運び、生還。ベンチに戻ると、2ランを放った大谷にヘルメットを抱えられ、頭をポンポンされ、手荒い祝福を受けた。6回2死一、二塁の好機では相手2番手投手のチェンジアップにうまくバットを合わせ、左前にポトリと落ちる適時打で二塁走者が生還。メジャー初打点を挙げた。
試合後、取材陣に囲まれると「最初のヒットを打てて、とてもうれしかったです。しかも、翔平がすごく喜んでくれて、自分のホームランより、僕のヒットに対して祝福してくれた。本当に光栄でした」と興奮気味に話した。代理人事務所が同じCAAで、チームメートにもなった大谷との関係については、「正直、今でもちょっと緊張します。だって彼は本当に大スターですから。でも、いつも向こうから話しかけてくれる。質問もしてくれるし、会話もしてくれる。そういうことが、自分がここに馴染むうえで大きな助けになっています」と笑顔を見せ、初安打の記念ボールは「大切な思い出なので家で保管します」と語った。
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大谷翔平も会見で、新たな仲間の活躍をねぎらった。「本人にとって特別な日だったと思いますし、昨日も得点にはつながりませんでしたが、すばらしい走塁でした。今日も本当にいい活躍だったと思います」と称賛した。
大谷が言及した走塁は、前日のアトランタ・ブレーブス戦でのプレーだ。9回表、アンディ・パヘスがブレーブスの守護神ライセル・イグレシアスから先頭打者としてシングルヒットを放つと、金が代走として起用された。ウィル・スミスの代打打席で、イグレシアスが3球目を投じた瞬間、金は二塁へスタート。完璧なスタートを切り、一塁から二塁まで4.31秒、見事に盗塁を成功させた。その後、スミスは空振り三振に倒れたが、ボールは捕手ドレイク・ボールドウィンの前でバウンド。振り逃げとなり、捕手が一塁へ送球した瞬間に金は三塁へスタート。マット・オルソンの送球が届く前にスライディングでベースに滑り込み、三塁を奪った。「本能的なプレーだった」とデーブ・ロバーツ監督も評価。ベテラン主体のドジャースにおいて、貴重な若々しさとスピードを見せつけるプレーだった。
大谷は、金が1月初旬にドジャースと契約する前から、すでに彼と行動をともにしていた。「たまたまなんですけど、同じ場所で練習していたんです。ドジャースタジアムが改修中だったので、別の場所で練習する必要がありました。ちょうど彼のFA期間と重なって、同じ施設にいました」と大谷は語った。
【大谷に憧れてメジャーリーグを目標に】
この試合を取材していた韓国のメディア『MKスポーツ』のジェイホー・キム記者は、MLBを10年以上取材してきたベテランだ。彼に「大谷翔平の成功が若い韓国人野手に影響を与えたか」と尋ねると、こう答えた。
「間違いなく与えています。大谷は韓国でも非常に人気があります。みんな彼のプレーを見て刺激を受けていますし、多くの若い選手が『自分もMLBで活躍したい』と思うようになりました」
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アジア系の野手は、アメリカや中南米の選手に比べて先天的にパワーに劣るとされ、MLBで成功するのは難しいと言われてきた。だが、大谷がバットで頂点に立ったことで、その意識は大きく変わりつつある。そして、大舞台でその変化を象徴するように最初の一歩を踏み出したのが、ドジャースの金だった。
オフにドジャースと3年総額1250万ドル(約18億7500万円)で契約を結んだ。守備力と俊足には高い評価が寄せられていたが、打撃面には不安もあった。韓国プロ野球(KBO)での通算打率は.304と優れていたが、MLBでどこまで通用するかは未知数だった。
2023年のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で韓国代表として共にプレーしたドジャースのトミー・エドマンは、こう語る。「2年前よりもフィジカルが向上し、パワーもついているように見えます。MLBでは速球のスピードが上がるため多少の適応は必要になりますが、彼のスイングは空振りが多い選手のように極端に大きくはないので、対応できるはずです」。
もっとも、春季キャンプでは苦戦が続いた。オープン戦では29打数6安打(打率.207)、1本塁打、11三振と結果を出せず、スイングの見直しが必要と判断され、開幕は3Aオクラホマシティで迎えることとなった。「スイングの基礎的な部分そのものに改善が必要だった」と、ブランドン・ゴームズGMも説明している。
しかし、金の成長は想像以上に早かった。3Aオクラホマシティでは打率.252、5本塁打、19打点、OPS.798という成績を残し、13盗塁も記録。持ち前のコンタクト能力を維持しながら、打球の質を大きく改善させた。「以前はスイングのたびに体が上に浮いてしまっていて、自分の持つパワーをうまく使いきれていなかった」と語るのは、打撃コーチのロバート・バンスコヨック。「その点を改善できたのは大きかったし、全体として機能的なスイングに仕上げることが重要だった」と振り返る。
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そして今回、開幕から約1カ月半遅れて、ついにメジャーデビューを果たした。当初、ドジャースの計画では、メジャーの雰囲気を経験させるために1週間だけ帯同させ、再び3Aに戻す予定だった。しかし、デビュー戦での活躍がその方針を変えさせた。「いきなり出てきてヒットを打ち、複数安打を記録し、守備でもいいプレーを見せてくれた。見ていて本当にワクワクする存在」とロバーツ監督も目を細めながら語っている。