東京都企業立地相談センター、誘致条例の改正で注目を集める多摩市に対する取材記事を公開 東京都企業立地相談センターは5月7日に、宿泊施設を対象に誘致条例の優遇措置を拡大した、多摩市役所の市民経済部 経済観光課に対する取材記事を、同センターのウェブサイトにて公開した。
その他の画像はこちら●2005年度〜21年度に8社9施設を誘致
東京都多摩市は、企業誘致を早い段階から始めた自治体の1つであり、ほぼ半世紀前となる1973年には市内に多摩ニュータウンの住民サービスに不可欠な産業立地をつくるべく、「永山サービスインダストリー地区」を設置するとともに、2002年には条例を制定して今に至るまで企業誘致の施策を継続している。
多摩市役所の市民経済部 経済観光課長 農業委員会事務局長である麻生孝之氏によれば、同市は2002年3月に初の企業誘致の条例として「多摩市企業誘致条例」を制定し、2022年4月にはそれを「企業立地促進条例」に改正して、企業の立地対象を多摩ニュータウン地区から市内全域に拡大したという。
同改正にあたっては、中古物件の取得も対象に含めるとともに、中小事業者の要件を緩和している。基本制度は、事業所の常用雇用者数の下限が20名以上で、奨励金額は固定資産税・都市計画税相当額の100分の80、上限は1億円だった。
多摩市では、この企業誘致の取り組みが功を奏して、2005年度から2021年度までに8社9施設を指定して奨励金を交付しており、市内への誘致に成功している。
多摩市役所の市民経済部 経済観光課 商工観光担当を務める武井淳氏によれば、おもな要件において土地面積2000平方メートル以上、または土地を除く投下固定資産額3億円以上(中小・小規模企業は1.5億円)と設定していたため、拠点を構えたのはいずれも大手企業だった。一方で、一般市民や教育機関向けに日本の国際通信の歴史やマンションづくりの技術や歴史などを見たり触れたりできるミュージアムを併設される企業や、小学生向けのワークショップを開催する企業もあり、企業活動への理解を深めるべく事業所ごとの特色を活かした、地域に対する取り組みを推進している企業もあるという。
さらに多摩市では、将来のまちづくりの根幹となる「多摩市総合計画」を策定したほか、これを上位計画とした産業振興分野において「多摩市産業振興マスタープラン」を策定した。同プランには、同市に誘致された企業も策定委員として参画しており、官民が一体となってまちづくりが行われている。
2025年度中には市内の企業から約30名を募って、多摩市の主催によるDX研修の実施を予定しており、1回当たり2時間、年間69回のeラーニングを行う。また年に4回、企業の交流会も実施するなど業種の枠を超えた連携のきっかけをつかんだり、情報を共有したりする機会の創出を目指している。
近年、200室超を含むホテル2施設が閉鎖されたことを受けて、市民や市内企業からは宿泊施設の誘致を求める要望が高まっていた。そこで、2025年4月1日に企業立地促進制度の一部改正が行われ、優遇措置が追加された。この改正では、常用雇用者数の下限を5名とすることで小規模施設も対象に含まれるとともに、建物の容積率50%未満の宿泊施設以外、商業施設や集合住宅などとの併用も可能となっている。
前出の麻生氏によれば、市民からは「以前、市内にホテルがあった時は親類が訪ねてきた際に泊まってもらう場所として使っていたため、なくなってしまうと親類を招きづらくなる。新たな宿泊施設、ホテルをつくってもらえないか」といった声が数多く寄せられていたという。また、市内の企業や議会からはビジネスで来街した人や、国内外の観光客誘致のために宿泊施設が必要との意見が挙がっていた。
多摩市には、「サンリオピューロランド」をはじめ、複合文化施設「パルテノン多摩」、パルテノン多摩に隣接してこの4月に大規模リニューアルされた「多摩中央公園」、万葉集にも登場する歴史的な古道「多摩よこやまの道」といった観光スポットが多く、同市としては宿泊施設を誘致することによって、同市への観光客の来訪を見込んでいる。
多摩市役所の市民経済部 経済観光課にて商工観光を担当する満井航平氏は、多摩市に企業が拠点を置くメリットとして、新宿から直通電車で約30分の多摩センター駅に京王線・小田急線・多摩都市モノレールが乗り入れており、中央自動車道の稲城、国立府中の両インターへのアクセスに優れるなど、車での移動も便利であるという、交通利便性のよさを挙げる。
また、同市内のニュータウン地域は多摩丘陵のほぼ中央にあり、海岸や大きな河川から離れているため、津波や洪水被害、液状化の心配がほとんどない点もメリットだという。東京都が実施した「地震に関する地域危険度測定調査」によれば、同市内のほぼ全域が各種危険度判定で5段階評価のうち、もっとも危険性が低いとされる「ランク1」に区分されている。
あわせて前出の武井氏は、市内の企業の多くが地元の協議会などに加盟しており、地域のイベントに積極的に参加している点を例に、市民と触れ合ったりカスタマー目線から意見をもらえる機会に恵まれている点を挙げる。具体的には、多摩センター地区連絡協議会が多摩センター駅に直結しているパルテノン大通りで定期的に開催されるマルシェなどの活性化イベントを主催しており、協議会会員企業などの中にはブース出展などを行い、ワークショップなどを通じて地域との接点多くもつことで、地域の声をCSR活動や事業所の運営に活かしているという。
麻生氏は、「保育園、幼稚園、学童クラブ、小中高から大学と教育施設が豊富にそろっています。また、大規模ショッピングモールや大型量販店など買い物の選択肢が豊富ですし、自然豊かな公園、緑地も点在しているため、生活利便性、子育ての面でも申し分のない環境であると自負しています」と多摩市の魅力をアピールするとともに、企業に対して同市での事業展開の検討を求めた。