
さすがは鹿島アントラーズ、と言っていいのだろうか。
今季J1は第16節を終了し、鹿島が11勝4敗1分けの勝ち点34で、首位に立っている。
空前の混戦状態にある今季J1にあって、Jリーグが誇る常勝軍団が、持ち前の勝負強さを発揮している格好だ。
特に第11節から現在まで6連勝中。しかも、そのうち5試合が1点差勝利、さらには2試合が逆転勝利なのだから、接戦での強さは際立っている。
まさに、鹿島らしさ全開、である。
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そんな好調・鹿島を支えているのは、選手層の厚さだろう。
今季の鹿島は、その順位とは裏腹に、左アキレス腱断裂の重傷を負った師岡柊生をはじめ、負傷者が続出。必ずしも、万全の体制で試合に臨めているわけではない。
それでも、代わって起用された選手が活躍するのが、鹿島の強さだ。
第14節のFC町田ゼルビア戦では、本来はセンターバックの津久井佳祐が右サイドバックを務め、1−0の完封勝利に貢献。第16節の川崎フロンターレ戦では、交代出場の田川亨介が値千金の決勝ゴールを決め、2−1の逆転勝利を収めている。
クラブによっては、ケガ人が相次いだ途端、ピッチに立つ選手の顔ぶれが大きく見劣ってしまうケースもあるが、鹿島の場合は、あまり戦力ダウンを感じさせない。事前に情報として知らされなければ、負傷者続出のチーム状態には気がつかないほどだ。
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控え選手も含めた選手個々の質の高さは、J1屈指。殊勲の田川に、レベルの高いチーム内競争が試合でのパフォーマンスにつながっているのかと問うと、返ってきたのは、「そうですね。逆に、それしかないぐらい」との答えだった。
そこでは、今季から指揮を執る鬼木達監督の手腕も光っている。
川崎フロンターレ時代に4度のJ1制覇を成し遂げた名将は、新天地でも巧みな選手起用を披露。前述した津久井のサイドバック起用ばかりでなく、守備面で不安のある荒木遼太郎を中盤ではなく2トップに配し、鈴木優磨をサイドハーフで起用するあたりは、なかなかのやりくり上手だ。
「彼(鈴木)の、自分のことよりもチームが勝つことを優先させる姿勢には敬意を表したい」
鬼木監督はそう語り、鈴木に負担をかけていることを認めてはいるが、今手元にある駒をどう生かせば、チーム力を最大にできるのか。その点において、新指揮官が優れた才を発揮していることは確かだ。
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J1歴代最多優勝監督の実績は、伊達ではない。
とはいえ、ひとたび試合内容に目を向ければ、首位を走るクラブとしては、少なからず物足りなさがあることは否定できない。
接戦での勝利が多いことは、裏を返せば、内容的に相手を圧倒することができない現状を物語ってもいるからだ。
「もっともっと自分たちが主導権を持って、狙いを持ってゴールへ(向かいたい)。やっぱりゴールを脅かす回数がまだまだ少ない」
直近の川崎戦後、鬼木監督自身もそう語っていたように、逆転勝利を収めたこの試合にしても、特に前半は防戦一方と言ってもいいような内容に終始した。川崎がいくつかあった決定機を生かしていれば、前半で勝負がついていたかもしれない試合である。
そんな試合でも勝ち点3を奪い取ることができるのは、常勝軍団たる鹿島らしさ、なのかもしれない。だが、そもそも新指揮官を迎えるにあたり、鹿島が求めていたのは、鹿島らしさの復活だったのだろうか。
鬼木監督が率いた川崎は、ボールを握って相手ゴールに迫り、たとえ一度は防がれたとしても、すぐにボールを奪い返し、さらに攻めたてる。そんな問答無用の攻撃力を見せつけ、J1で2度の連覇を成し遂げた。
そこにあったのは、しぶとい勝負強さではなく、相手をねじ伏せるような圧倒的な力強さ。鬼木監督は、それほどのチームを率いたのである。
だとすれば、本来期待されるべきは、伝統的な"鹿島らしさ"を取り戻すだけでなく、新たな"らしさ"、いわば"鬼木らしさ"を得ることではないのだろうか。
「選手は努力してくれているので、自分もその努力に応えなきゃいけない。(現時点で目標の)何パーセントというのはないが、一歩ずつ進んでいければいいかなと思う」(鬼木監督)
さすがは鹿島。その評価は、もう少し先までとっておきたい。