“ポケポケ効果”で「利益10倍」なのに株価急落のDeNA、一体なぜ?

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2025年05月16日 08:21  ITmedia ビジネスオンライン

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「ポケポケ」絶好調。しかし……

 DeNAにおけるゲーム事業の利益が、前年比で10倍以上に膨れ上がった――。


【画像】DeNAのゲーム事業におけるセグメント損益(同社決算説明資料から)


 5月9日に衝撃的な決算を発表したDeNA。しかし市場の反応は冷ややかだった。決算発表直後から株価は大きく値を下げ、マイナス幅は一時16%に達した。「好業績なのに急落」という意外な展開になったのだ。


 好調な決算にもかかわらず、市場が厳しい評価を下した理由はどこにあるのか。


●ポケポケだけではない、驚異的な業績回復


 DeNAが発表した2025年3月期の連結業績は、市場の予想を大きく超える好決算となった。


 同社の売上収益は1639億9700万円で前年比19.9%増加したが、注目すべきは営業利益である。前期の営業利益は282億7000万円の赤字だったが、今期は289億7300万円の黒字となり、驚異的なV字回復を遂げた。


 最大の功労者は、2024年10月30日にリリースされた新作ゲーム『Pokemon Trading Card Game Pocket』(通称:ポケポケ)だ。リリースから半年足らずでゲーム事業全体の収益を牽引(けんいん)している。セグメント全体の売上高は前年比44.6%増の781億円となった。営業利益は385億円と、前期(30億円台)から10倍以上に急成長したのだ。


 他にもプロ野球の横浜DeNAベイスターズが日本シリーズ優勝を達成し、観客動員数が過去最高を記録した点も大きい。同社におけるスポーツ事業の売上高は313億円と、前期比で14.8%増と堅調に伸びている様子がうかがえる。


●「好決算でも株価急落」 実は珍しくない


 これほどの好決算ならば、市場は大きく歓迎するはずだった。しかし「好決算でも急落」という現象は、株式市場においては決して珍しくない。


 その最大の理由は、市場が既にポケポケ効果を織り込み、株価がすでに高騰していたことにあるだろう。


 実際、ポケポケのリリース直前の2024年秋頃から株価は急激に上昇し始め、わずか半年程度で約4倍に跳ね上がっていた。


 そのため、市場では業績の急回復をかなり織り込んでおり、決算発表によっていったん「材料出尽くし感」が出たと考えられる。いわゆる「うわさで買って、事実で売る」という相場格言の通り、株価が推移したわけだ。


 もう一つの理由は、成長鈍化の懸念だ。DeNAは今回、通常の33円に加え32円の特別配当を含む65円を期末配当として決定し、配当性向は約30%に達した。この水準は「JR東日本」や「テレビ東京」といった老舗企業と同等だ。


 しかし、成長企業が配当を出すことには市場が敏感に反応する。なぜなら、成長企業は手元資金をさらなる投資に回し、事業拡大を目指すケースが多いためだ。配当を出すことは、次の成長の柱が見えていないとの受け止め方にもつながる。


●次の成長ストーリーを市場に示せるか


 ポケポケは確かに好調だが、市場が評価するのはその持続性である。次のヒットがなければ、再び業績は低迷するかもしれないという懸念が常に市場に付きまとう。


 DeNAは2026年3月期における業績予想を非開示とした。確かに、ゲーム業界は爆発的なヒットやその反動減に翻弄され、売り上げや利益の不確実性が高い。しかし、任天堂やコーエーテクモなど、トランプ関税にゆれる環境下でも業績予想を出しているゲーム企業も多数存在する。市場の反応を見る限り、予想の非開示は市場関係者にとってネガティブに映ったのかもしれない。


 DeNAはここ数年、主力のゲーム事業に収益の大部分を依存する構造から脱却を試みてきた。ライブストリーミング事業の「Pococha(ポコチャ)」やヘルスケア・メディカル事業、「横浜DeNAベイスターズ」を中心としたスポーツ事業など、多角的な事業ポートフォリオ構築を進めてきた。


 しかし、実際に数字を見ると、その取り組みは道半ばと言わざるを得ない。


●DeNA=ゲーム頼み?


 ライブストリーミング事業の売り上げは前年比4.7%減の405億円で、セグメント損失は2億円の赤字に転落。ポコチャについてはマーケティング費用を抑制し、先行投資を絞って黒字化を見込むことで、回収路線へ転じている様子がうかがえる。


 ヘルスケア・メディカル事業も売り上げ107億円と前年比8.1%増だが、依然として36億円を超えるセグメント損失を計上しており、事業の黒字化が遠い状況だ。


 唯一、スポーツ事業は前年比14.8%増の313億円の売り上げを記録し、横浜DeNAベイスターズの優勝効果もあってセグメント利益は前年比33.5%増の28億円となった。ただ、スポーツ事業だけでDeNA全体を牽引する規模にはまだ達していない。


 こうした実態から、市場は依然として「DeNA=ゲーム頼み」という構図に懸念を抱いていると考えられる。


 ポケポケの成功は確かに素晴らしい。任天堂やソニーのような複数の強力な自社IPを安定的に展開できる大手とは違い、DeNAは他社IPとのコネクションを活用したゲーム開発に強みがある。


 収益の一部がIPを保有する他社に支払われる点で、普通のゲーム会社よりは若干不利な立ち位置に属しているともいえる。市場が業績予想の非開示を警戒した背景には、オリジナルのIPではないところでゲームが成功していることだ。


 次の何らかのIPを使ったゲームが成功するとは限らないという不確実性は、DeNAのゲーム開発における弱点ともいうべきかもしれない。


●課題は残るが、“衰退企業”ではない


 しかしそれは、「複数の芽が伸びきっていない途中段階」であり、成長の兆しが消えたことを意味するわけではない。むしろ、そのような環境でも爆発的なヒットを生み出したDeNAの底力には目を見張るものがある。


 そもそも、短期的な株価の乱高下は、上昇相場の中では不可避である。


 ポケポケリリース後に400%上昇した株価に対し、そこから16%下落したからといって、すぐに悲観視する必要はない。今回の株価下落は「過剰反応だった」として、今後再評価されることを期待したい。


●筆者プロフィール:古田拓也 カンバンクラウドCEO


1級FP技能士・FP技能士センター正会員。中央大学卒業後、フィンテックベンチャーにて証券会社の設立や事業会社向けサービス構築を手掛けたのち、2022年4月に広告枠のマーケットプレースを展開するカンバンクラウド株式会社を設立。CEOとしてビジネスモデル構築や財務などを手掛ける。



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