【キウイは語る】(中) 島国同士でも日本人とは似て非なる(?)ニュージーランド人の精神性

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2025年05月20日 12:10  OVO [オーヴォ]

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ゼスプリのキウイ

 リリーバンク・オーチャードのティムさんが言った「ゼスプリ・エクスペリエンス(体験)」についてもう少し知りたいと思い、ゼスプリの中枢部と言うべき施設を訪れた。そこを解明することができれば「ニュージーランド人としての生き方」への理解も深められるような気がしたからだ。

 ▽すべてに目線


 「世界の果物市場におけるキウイのシェアを今後30年で倍増させる」。タウランガ近郊のテプケにある「キウイフルーツ・ブリーディング・センター(KBC)」の掲げる目標は、長期的かつ野心的だ。同施設は、30年間協力を続けてきたニュージーランド国立植物食品研究所とゼスプリが共同出資して2021年10月に設立。ニュージーランド国内6カ所とイタリアに拠点を置き、遺伝学や分子生物学の知見と最先端の技術を駆使して研究開発に当たっている。


 エリザベス・ポポンスキー博士によると、キウイの品種改良には基礎研究から市場販売までおおむね25年が必要だという。日本のスーパーなどでもよく見かけるようになった果肉が赤くジューシーなルビーレッドキウイは、1993年から開発を始め、2020年にテスト販売に至った。同博士は「キウイの木3世代をかけて完成した。重視したのは、細菌感染による『かいよう病』への耐性。難しかったのは色、サイズ、保存」と振り返った。


 KBCでは、さまざまな研究開発のため毎年3万〜4万本の苗木を育てる。ポポンスキー博士は「味や美しい外観を求める消費者、収量や病害対策を重視する栽培者、市場アクセスや保存期間を意識するサプライチェーン(供給網)関係者。われわれは3者すべてに目線を向けている」と強調。手で簡単に皮をむけるなど新たな特徴を持つ新品種のリリース予定を尋ねると、「企業秘密です」とかわした。

 ▽たくましい商魂


 「ゼスプリは全世界の消費者の健康を中心に据えている」。タウランガのゼスプリ本社でわれわれを出迎えたイノベーションマネジャーのポール・ブラッチフォードさんの言葉は大構えだった。キウイは17種類の栄養素がどれくらい含まれているかを示す栄養素充足率が、主要果物の中でナンバーワン。日々の栄養バランスを整えるのにぴったりの食品だ。細かく見ると、グリーンキウイは食物繊維が多くて胃腸によく、サンゴールドキウイはビタミンCが豊富で免疫作用を高め、ルビーレッドキウイはアントシアニンをはじめ老化を防ぐとされる抗酸化物質が含まれるといった特徴がある。


 ブラッチフォードさんは、キウイと心身の健康に関する実証実験を行った2人の研究者を紹介。南島クライストチャーチにあるオタゴ大のシモネ・バイヤー博士は、被験者に4週間毎日決まった種類と数のキウイを食べてもらう実験を行い、「キウイ摂取には便秘、いきみの緩和や腹部の爽快感を高める効果があり、過敏性腸症候群(IBS)を有する人の腹痛を軽減した」などとする結果を得た。一方、オークランド大のベン・フレッチャー博士は、キウイを食べることと、怒り・緊張・うつ・不安といったネガティブな感情や疲労感の関係を調べた結果、「ビタミンCがウェルビーイング(心身の健康や幸福)に何らかの役割を果たしており、キウイはビタミンCの単独摂取よりメンタルヘルスを改善させる可能性がある」と結論づけた。

 「ドクター・キウイ」と紹介され時折鋭い質問を放っていた西山一朗先生(駒沢女子大人間健康学部学部長を3月に退官)は「他の世界的なフルーツ企業は、自社が扱う別の果物と優劣をつけることになるこうした研究はしないでしょう。そこは、キウイだけを扱うゼスプリならではの戦略であり商魂」と指摘。「多少の“お手盛り感”を感じないでもないが、人々の健康を考えているということにうそはないでしょう」と冷静な口調で話した。

 ▽いいものは外へ


 さすがは、ブランド誕生から20数年で世界的な企業に成長したゼスプリといったところだが、疑問も湧いた。KBCのポポンスキー博士は「いくらおいしい品種ができても、最長12週間という船舶輸送に耐えられないものは商品化しない」と話した。「国内で流通させればいいのでは?」との問いには、「ゼスプリは輸出がターゲット。輸出してこそ経済的利益が出る」との答えだった。本社のブラッチフォードさんも「われわれは作ったキウイの95%は輸出する」と言い切った。


 日本でも例えば稲の栽培限界を北上させるための明治期以降の品種改良には多大な英知と努力が払われた。ただ、それは一義的に日本人が食べるためのことだし、すしをはじめとした和食も日本で食べられるものが一番おいしいという日本人の共通認識は揺らがない。しかし、ニュージーランドでは、いいものは外国に輸出してしまう。気になってあちこちのレストランなどで聞いてみると、これはキウイだけのことではなく羊肉や魚といった他の食品にも当てはまるのだという。

 ラグビーの「ワンチーム」のように、みんなの力と技を結集させて最高のものをつくりだす。そうしたニュージーランド人の精神性は、同じ島国に暮らす日本人に非常に近いものがあると感じていたのだが、そこから先はちょっと異なるようだ。旅に来る前には思いもよらなかった「ニュージーランド人像」が浮かび上がってきた。

(下につづく)

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