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「ずいぶん前に利用登録したマイナ保険証を、先日、風邪で受診したクリニックで初めて使おうとしたら、有効期限切れになっていました。結局、めんどうになって、受診をあきらめましたが、その後、症状が悪化してしまいました」
60代女性のAさんはこう明かす。マイナンバーカードに、健康保険証の利用登録をした“マイナ保険証”は、これまでも〈カードリーダーで顔認証ができない〉〈高齢者や障害者には使いにくい〉など、多数の問題点が指摘されていた。にもかかわらず、厚生労働省は昨年12月、従来の保険証の新規発行停止を決定した。
「トラブルは減るどころか、むしろ増えている」と明かすのは、全国の開業医や勤務医が加盟する「全国保険医団体連合会」(以下、保団連)事務局の上所聡子さんだ。
「当団体では、今年2月から4月中旬にかけて、全国33都府県の約4万7000の医療機関に、マイナ保険証の利用に関するトラブル調査を実施しました。回答を得た9741件を最終集計したところ、約9割の医療機関で何らかのトラブルが生じていることが判明したんです」(上所さん)
トラブルの内容は多岐にわたるという。こうした影響もあってか、厚労省が発表した2025年3月時点でのマイナ保険証利用率は27.26%と低迷している。医療現場の職員からも、こんな悲痛な叫びが上がっている。
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「カードリーダーに表示される文字も音声も小さいので、高齢者にとっては、『見えない、聞こえない』という状態です。受診者が混み合う午前中は、カードリーダーの前に行列ができ、私たち職員が付きっきりで対応しています」
70代女性のBさんもこう語る。
「病院によってカードリーダーの種類もさまざまなので、毎回戸惑います。後から来た紙の保険証を持った人のほうが、早く受け付けをすませているのを見て、釈然としない気持ちになりました」
■2800万人が更新時期に…「期限があることを知らない人も多く」
昨年12月以降、大幅に増加しているのが、冒頭のAさんのような“有効期限切れ”問題だ。前出の上所さんは、こう指摘する。
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「マイナンバーカードには“電子証明書”が搭載されていて、その有効期限は発行から5年間です。また、マイナンバーカード本体にも有効期限があり、こちらは発行から10年間です。いずれの場合も、有効期限が切れる数カ月前には自治体から通知が来ますが、期限があること自体を知らない方も多く、見逃されがちになっています」
特に今年度は、更新時期を迎える加入者が2768万人と2023年度の約12倍に(総務省調べ)。今後も、期限切れの多発が懸念される。
加えて、「“資格情報のお知らせ”と“資格確認書”の混同によるトラブルも発生している」という。
“資格情報のお知らせ”とは、マイナ保険証でトラブルが生じた際に、マイナンバーカードといっしょに提示することで保険診療を受けられるようにするための書面。一方、“資格確認書”は、原則マイナ保険証の利用登録していない人にのみに送付され、保険証と同様に単体で使用できる書面だ。
「ところが両者は、見た目も名称も非常に似ているので、本来ならマイナ保険証といっしょに提示しないと使えない“資格情報のお知らせ”を“資格確認書”と間違えて医療機関の窓口に単体で提示してしまい、『なぜ、使えないのか?』と、窓口でトラブルになるケースが増えています」(上所さん)
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厚労省の付け焼き刃な対策が、混乱を助長しているというわけだ。こうしたシワ寄せは、患者の命をも脅かしかねない。救急現場の医師から、こんな切実な声が……。
「車椅子やストレッチャーで運ばれてくる救急患者は、そもそもカードリーダーで顔認証なんてできません」
■10割負担か病気を我慢するか選択を迫られることにも
仮に、マイナ保険証で資格確認ができない場合、どうなるのか。保団連の調査では、〈持ち合わせていた従来の保険証で確認した〉(79.8%)、〈加入している保険組合から送付される“資格情報のお知らせ”で確認した〉(19.3%)などのほか、〈いったん10割負担してもらった〉ケースも12.7%(1087医療機関)にのぼる。
実際に、50代男性・会社員のDさんは、「いったん窓口で10割負担した経験がある」という。
「発熱があり、病院に行ったのですが、有効期限切れになっていて……。体調も悪かったので保険証を取りに戻るのもつらい。だから、いったん10割支払いました」
Dさんは後日、保険証を持参して返金してもらったというが、受診をあきらめる人も多いだろう。
「厚労省は苦肉の策として、2023年8月から“被保険者資格申立書”を導入し、窓口で必要事項を記入すれば、資格確認なしでも保険診療が受けられることにしました」(上所さん)
しかし、その後の調査で“いったん10割負担”の例が報告されていることから、周知が徹底されているとは言い難い。いざというときに窓口で困らないために、できることはあるのか。
「まず、ご自身の保険証が、今どのような状況にあるか確認しましょう。マイナンバーカードを保険証として利用登録している方は、“資格情報のお知らせ”が届いているはずです。医療機関を受診する際には、かならずマイナ保険証と合わせて持参しましょう。利用登録をしていない方は、現行の保険証の有効期限が切れるまでに、保険証の代わりとして使用できる“資格確認書”が自動的に届くので、慌てる必要はありません」(上所さん)
今年7月に保険証の有効期限が切れる後期高齢者全員に、保険証の代わりに使用できる“資格確認書”が、1年間限定で送付される。加えて、東京23区のうち世田谷区、渋谷区では、混乱を避けるため、国保の加入者全員に“資格確認書”の送付を決定したばかりだ。
今後も、こうした追加策が講じられることが予想されるので、情報のアップデートも心がけよう。誰もがすみやかに保険医療を受けられるために、一刻も早いトラブル解決が望まれる。
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