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2025年、世界に轟いた“雷鳴”が再び蘇る──。
1981年に日本が世界に誇るギタリスト高崎晃と故・樋口宗孝を中心に結成された伝説的ロックバンドLOUDNESSの全国ツアー「LOUDNESS JAPAN TOUR 2025 THUNDER IN THE EAST 40th Anniversary完全再現ライヴ」が開催中だ。このツアーは、1985年にリリースされた彼らの代表作ともいえるアルバム『THUNDER IN THE EAST』の発売40周年を記念する“完全再現”ツアーである。
ライヴコンサートなどの企画・制作・運営を手掛けるクリエイティブマンプロダクション(東京都渋谷区)は5月22日、全国各地で開催される同ツアーの各公演が完売したことを発表した。
LOUDNESS――それは、今や単なるバンドの名前にとどまらない。44年にわたる活動を通じて、時代を越えて受け継がれる“ブランド”としての確かな重みを持っている。そして、そのブランドは今もなお進化を続け、世代や国境を越えて支持されている。
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5月18日にZepp DiverCity (TOKYO)で開催された東京公演で、ボーカル二井原実は「海外でも『THUNDER IN THE EAST』の曲を1曲でも演奏すると観客が熱狂する」と話した。
「マネジメントの父」と呼ばれ、現代経営学の基礎を築いたピーター・ドラッカーは「真摯(しんし)さこそが信頼の基盤である」と語っている。LOUDNESSの活動を見ていると、その言葉の重みを感じずにはいられない。彼らの音楽には、決して飾らない“真摯さ”が貫かれている。単に音を奏でるだけでなく、44年間、変わることなく“何を伝えたいのか”という軸を持ち続けてきたからだ。LOUDNESSの作品と姿勢が一体であること。それがブランドとしての強さであり、聴き手の心を打つ理由である。
本稿ではツアーの意義と、そこに見えるビジネス的視座を、マーケティング戦略と重ね合わせながら解き明かしていく。
●『THUNDER IN THE EAST』再現ツアーに見る、音楽とビジネスの本質的接点
LOUDNESSが『THUNDER IN THE EAST』で世界に打って出た1985年。当時のビルボードチャートに日本人バンドがランクインするなど、想像すらされなかった時代だった。そんなときに、彼らは米国市場で真正面から勝負を挑んだ。英語詞、海外レコーディング、グローバルツアー……。その全てが日本でも稀有な挑戦だった。
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『THUNDER IN THE EAST』は、日本で発売されたそれまでのアルバムとは明らかに異なっていた。LOUDNESSの代表曲となった『CRAZY NIGHTS』は、印象深いギターリフ(楽曲で切り返し使われるフレーズ)から始まる。この楽曲は、言葉を使わずとも国境に関係なく多くのファンを魅了した。世界に打って出るという目的と、戦略を感じる楽曲だ。海外のステージに日本人が立つことの意味、それは日本の音楽産業が海外と対等に渡り合えることを証明した瞬間だった。
今回のツアーは、そうしたファンの“記憶”と“現在”をつなぐ稀有な体験を提供している。単なる懐古ではなく、過去を今にアップデートし、再びブランドとしての価値を問い直す場にしているのだ。
バンド結成40周年を記念するタイミングでは、ファンクラブ「LOUD-HEADS」も開設した。ファンとのチャットによる交流に加え、活動の裏側を配信するといったコンテンツを月額500円から提供する。東京公演で、LOUD-HEADSに入会しているか否かを、二井原が観客に聞いたところ、6割ほどが手を挙げていた。
●マーケティング最前線に響く、“雷鳴”の本質
LOUDNESSの活動は、現代マーケティングにおける重要な視点を複数、体現している。中でも顕著なのが、ファンを中心に価値を築く「ファンマーケティング」の先駆性だ。
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2025年のツアーでは、VIPアップグレードや直筆サイン入りグッズ、若年層向け「39チケット」など、ファンの感情に寄り添う仕組みが随所に見られる。これは単なる販促ではない。ファンの人生とともにブランドが並走し、記憶の中に“価値”を築いていく構造そのものだ。
さらに、近年注目される次のマーケティングの文脈と、LOUDNESSの接点を見てみたい。
1. パーパスマーケティング:「日本から世界へ」の使命: LOUDNESSは、その黎明期から「日本人が世界で戦う」というミッションを背負ってきた。これは単なる商業的な動機ではなく、文化的突破を志した信念でもある。その一貫した姿勢は、今でいう「パーパスドリブンなブランド」の理想像に限りなく近い。
2. エモーショナルマーケティング:音が記憶を呼び起こす: 『THUNDER IN THE EAST』完全再現というコンセプトは、ファンの“記憶”と“感情”に直接訴える施策だ。単なる楽曲提供ではなく、「共に過ごした時間」を想起させる体験を届けている。これは、商品やサービスを感情的価値によって差別化するブランド戦略に通じる。
3. コミュニティマーケティング:地域との接点を守り抜く: LOUDNESSは首都圏にとどまらず、全国を巡る公演を継続してきた。地方であっても熱狂を生むのは、地域ごとに築いた信頼とコミュニティの積み重ねによるものだ。特に東京公演だけでなく名古屋公演は完売だった。全国ツアーという選択は、収益よりも“関係性の維持”を優先する、まさに長期視点の戦略と言える。
4. タイムレス性:変わらぬ“芯”を持つブランドは強い: 時代は変わっても、LOUDNESSはLOUDNESSであり続けている。トレンドに左右されず、“らしさ”を保ち続ける姿は、まさに「タイムレスなブランド」の証だ。変化に適応しながらも、一貫した哲学を貫くことの価値を、彼らは音楽を通して証明してきた。
●LOUDNESSは、企業にとっての“生きたケーススタディ”
このツアーは、音楽のイベントとしてエンタメ性はもちろんだが、それだけにとどまらない。LOUDNESSの姿には、あらゆる業界で求められるブランド哲学、組織運営、顧客戦略のヒントが詰まっている。
LOUDNESSの活動は、単なる音楽活動にとどまらない。彼らの44年の歩みには、ブランドとしての存在価値を高めるための一貫した戦略が随所に見られる。まず、時代の変化に合わせて進化し続ける姿勢は、まさにブランドリニューアル(Brand Renewal) の好例だ。再現ツアーという形式で過去の名作を再提示することで、新旧のファン層にアプローチし、ブランドの時間軸を更新している。
また、ファンとの継続的な接点づくりは、 ライフタイムバリュー(Customer Lifetime Value) を重視したアプローチといえる。ファンクラブ「LOUD-HEADS」を通じてコンテンツを提供し、ファンとの関係を深化させることは、一時的な売上ではなく長期的なブランド構築を目的とした施策だ。
さらに、 エモーショナルブランディング(Emotional Branding) においても、LOUDNESSは強みを発揮している。1985年に感じた衝撃を再び共有することで、“共通の記憶”をブランド価値として再生させる。時を越えて共感を喚起するという、感情価値の再定義だ。
こうした戦略を支えるのは、 コアバリュー(Core Value) を見失わない姿勢である。LOUDNESSは44年間、常に音楽を通して「挑戦」「信念」「一貫性」を貫いてきた。それが、時代が変わっても彼らを“現役のブランド”たらしめている最大の要因である。
それらを愚直に貫いてきたからこそ、LOUDNESSは44年の時を越えて“現役のブランド”でいられるのだ。
●進化しながらも原点を忘れないこと
学生時代『THUNDER IN THE EAST』をリアルタイムに体験した者として、当時、まさか40年後に、オリジナルメンバーで、オリジナル楽曲を聞くことになろうとは想像もしていなかった。言い換えれば、今、チャートをにぎわすアーティスト、楽曲を同じように体現するということは、今から40年後の2065年の世界を想像するようなものだ。
では、音楽以外の分野で40年続くものとは何だろうか。例えば、1980年代に生まれた企業の多くは、時代の変化に適応できず、姿を消している。テクノロジーの分野でも、IBMやAppleがその地位を維持しているものの、栄枯盛衰が激しいのが現実だ。同じく、飲食業界では、1980年代から続く老舗レストランも少なくないものの、その多くは時代に合わせたメニューの刷新や店舗デザインの見直しを重ねてきた。
一方で、ブランドの核心にある価値観や理念を貫きながらも、進化を続けることの難しさ――LOUDNESSが40年間成し遂げたことは、まさにその絶妙なバランスにあると言えるだろう。マーケティング的に言えば 「ブランドエボリューション(Brand Evolution)」 だ。変化し続けることで古さを感じさせない一方、同時にブランドの根幹は決して揺るがない。
40年続くということは、ただの継続ではない。進化しながらも原点を忘れないこと。LOUDNESSのツアーを観ながら、その真髄を痛感した。
(がん情報サイト「オンコロ」コンテンツ・マネージャー、柳澤 昭浩)
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