「猛暑のせいで低血圧」に要注意、シニア世代が気をつけたいのはじつは「食後」

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2025年05月23日 20:00  週刊女性PRIME

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※写真はイメージです

ここ数年、猛暑のせいで低血圧になり、転倒して頭を切ったり、ケガをしたという患者さんが多くいらっしゃいます。これほど頻繁に起こることはかつてなく、危険を感じます

 そう話すのは、内科・循環器科専門医の布施淳先生だ。

暑いときに血圧が下がりやすい

 高血圧に比べ軽視されがちな低血圧だが、放置すればめまいや立ちくらみ、慢性疲労や吐き気、動悸や集中力の低下など生活に支障を来す症状が現れる。

 気温の上がるこれからの季節、血圧が下がりやすく注意が必要だという。

暑いときに血圧が下がるのは、血管の拡張と脱水が関係しています。人は暑いときに体温を下げようと汗をかきますが、そのためにまず血管が拡張し、汗腺が集まる皮膚に血流を多く流すことで、汗を産生させるのです。

 皮膚は人体最大の臓器ともいわれ、人間の体重の約16%を占める。つまり体重が50kgなら皮膚の重さは約8kg、それを広げると約1畳分の大きさになるんです。そこに毛細血管が張り巡らされているので、血管が広がれば、多くの血液が皮膚に流れます。その分身体を流れる血液量は減り、血圧が下がりやすくなるわけです」(布施先生、以下同)

 皮膚の血流は1分あたり最大3〜5Lと非常に多い。これは1分間に心臓から出る血流すべてを皮膚に送り出せるほどの量だという。さらに、脱水も重要なポイントで、汗をかくと身体の水分量が減り、血圧が下がっていく。

人は通常1日で1.3〜3.5Lの水分を失いますが、暑い日に運動すると1時間で2Lも汗をかくといわれ、それに見合う水分を補給しなければなりません。体重の1〜2%の水分を失うと軽度の脱水、3%失うと中度の脱水になり、頭痛や嘔吐(おうと)、血圧が下がるなどの症状が出ます

普段は高血圧でも注意が必要

 体重が50kgなら水分だけで体重が1.5kg減るとなんらかの症状があり、水分を10%失うと重篤となる。どんな対策が必要なのか。

基礎疾患のない方が日常生活を送るだけなら、喉が渇く前に水やお茶をこまめに飲む習慣づくりが最も重要です。炎天下で激しい運動をする場合は、スポーツドリンクや経口補水液などを摂取しましょう。

 できれば体重を量り、必要な水分量を調節してください。基本体重より少なければ脱水が進んでいるので、その分の水分をとるべきです。これは心臓病や腎臓病があり、好きなだけ水分をとれない方にも有効な方法ですね」

 夏の低血圧は意外なことに、高血圧に悩む人こそ気をつけるべきだそう。

猛暑で低血圧になって倒れたという患者さんは、高血圧で毎日降圧剤を飲んでいる方も多いんです。心臓病で血管拡張薬や利尿剤を飲んでいたり、糖尿病で尿から糖を排出する薬を飲んでいる方も、脱水に傾きやすく危険です

 ここ数年は異常な暑さが続くので、安全に過ごすために高血圧治療を見直す必要があるかもしれないという。

「まず家でしっかり血圧を測りましょう。明確な基準はないですが、普段130mmHg前後の方が、夏場に110mmHgを切るなら、降圧剤について見直してもいいでしょう。個人差があるので自宅で毎日血圧を測り、主治医と相談してください」

立ったときに起こる起立性低血圧

 さらに時間帯により血圧が変動する点も、考慮したい。

血圧は朝が一番高く、昼夜は低いという方が多いです。特に朝に降圧剤を飲むと、薬が効く昼は下がりすぎていることも。朝だけでなく昼や夜も測定し、一番低い時間帯の血圧も考慮して薬を調整しましょう

 いずれの場合も、症状を無視しないようにしたい。

「血圧が下がると立ちくらみやめまい、視野が狭くなったり白っぽくなる視野異常などが起こります。これは脳血流が不足している場合があるので、もしできればそのタイミングで血圧を測りましょう。低ければ低血圧だとほぼ確定します。

 また冷や汗も血圧低下のサインであることも。冷や汗が出るほど気分が悪くなったら、早めに楽な姿勢を取りましょう。特に寝不足や疲れているときに、脱水状態や緊張する場面に遭遇するとより陥りやすいので、気をつけてください」

 また、倒れてしまったときは自力で立ち上がろうとせず、その場で横になるのが最善だ。

ある患者さんは低血圧により道路で倒れて、道の端に移動しようと立ち上がったところ、また倒れてしまったそうなんですね。低血圧になり失神しても、横になれば脳の血流が回復し意識は戻ることがあります。ただそこで立ち上がるとまた脳貧血になり倒れてしまう。立たない、移動しない、その場で横になる。これで症状は軽減します。

 ただし運動中の失神や、前兆がなく突然失神し、すぐに目覚めて意識もはっきりしている場合は、心原性失神の可能性があり危険です。不整脈や肥大型心筋症など心血管系の病が潜んでいる可能性もあるので、循環器内科を受診してください」

シニア世代に多い食後の低血圧

 高齢者は、食後に動悸やめまいがする「食後低血圧」にもなりやすいので注意が必要。

食事をすると胃と腸で消化吸収されますが、そのために多くの血液が消化管に集められ、全身を巡る血液量や水分量は減ります。さらに腹部臓器からは血管を拡張させる物質が分泌され血管抵抗が低くなり、食後は血圧が下がる方向に働きます。

 通常ならそこで交感神経が働き、末しょう血管が収縮したり心臓のポンプ機能が強まったりして心拍数が上がり、血圧は保たれるんです。ところが自律神経がうまく働かない方や高齢者は食後低血圧になりやすく、まれに失神することもあります

 どのようなときに食後低血圧になりやすいのだろうか。

「食事量が多いとき、高カロリー・炭水化物・温かい食事をとったときは血圧が下がりやすい。食事量は控えめに、タンパク質や脂質を多めにとり、できれば冷えたものをゆっくり食べましょう。

 また食後の動悸や眠気に悩まされる方が、貧血治療をしたところ症状が治まったケースがありました。この方は鉄欠乏性貧血でした。鉄は造血作用以外にもエネルギーや脳の神経伝達物質の産生にも関わります。

 鉄不足により疲れやすく、寝つきが悪くもなりますし、食後の症状にも影響が考えられます。この方以外にも低血圧を防ぐには大前提として、睡眠・運動・食事・ストレス管理を日々意識するのが大切ですね

 運動はウォーキングや水泳、ヨガなど軽めのものでもよい。夏に向けて今から生活改善に取り組みたい。

話を伺ったのは……布施 淳先生●内科・循環器科専門医。1994年に東京慈恵会医科大学卒業後、国立病院機構東京医療センターをはじめ、一貫して急性期総合病院の循環器救急に従事。2010年からは8年にわたり東京医療保健大学大学院の講師を務め、医療従事者の育成にも携わる。2018年にウェルビーイングクリニック駒沢公園を開院し、院長に就任。

取材・文/植田沙羅

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