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北海道大学などの国際研究チームは6月12日、約9000万年前の地層で見つかった骨格化石から、新種のティラノサウルス類を発見したと発表した。発見した場所はモンゴルの白亜紀後期の地層。研究チームはこの化石の恐竜を「カンクウルウ・モンゴリエンシス」と命名し、ティラノサウルスの起源と進化に関する新たな仮説を提案している。
カンクウルウ・モンゴリエンシスの由来は、モンゴル語を組み合わせたもので「モンゴルの王子の竜」という意味を持つ。分析の結果、鼻骨などにこの恐竜にしか見られない複数の特徴を持ち、他の属種と比較しても足骨や頬骨などでいくつかの違いを確認。この化石は、大型ティラノサウルス類「エウティラノサウルス類」の起源や進化などで、重要な位置を占めると分かった。
研究チームは、カンクウルウを含むティラノサウルス類の骨の特徴をもとに、最新の系統解析手法を使って進化系統樹を再構築した。結果、カンクウルウはエウティラノサウルス類の直前に分岐した“中間的ティラノサウルス類”であり、大型ティラノサウルス類の“最後の共通祖先”に極めて近い存在だと分かった。
研究チームが特に注目したのは、従来の説を覆す可能性を示唆した点だ。これまでは「Alioramini」(アリオラムス亜科)という小型・細身のティラノサウルス類が、原始的な初期分岐群だと考えられてきた。しかし今回の研究では、Alioraminiはむしろティラノサウルス・レックスなどと並ぶ高度に派生したグループで、ティラノサウルス亜科と姉妹関係にあると分かったという。
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他にも研究チームは、ティラノサウルス類の分散経路も特定。アジアで進化した中間型ティラノサウルス類が北アメリカに分散し、そこで大型ティラノサウルス類が起源・多様化。そこから再びアジアに逆流入したという経路を明らかにした。
●ティラノサウルスの進化のカギは“時間差進化”か
カンクウルウは生息していたころ、体重は500kg未満であり、細身の体つきや浅い頭骨、未発達な頭部の装飾、細く平たい歯、大腿骨よりも長い脛骨などの特徴を持っていたと推定できるという。これは「幼いティラノサウルス」とよく似た特徴だと、研究チームは指摘。驚くべき点は、これらの特徴は本来、大型ティラノサウルス類の幼体にしか見られないもので、成体では失われるのが一般的ということだ。
一方でカンクウルウは、頑丈な鼻骨や涙骨、空洞をもつ方形骨などティラノサウルスらしい特徴も持つ。研究チームはこれを「まさに『幼さ』と『進化の兆し』が同居する存在」と説明。この幼さを軸に、大型ティラノサウルス類の進化について「異時性」(祖先や他の生物と比べて、成長速度やタイミングなどが変わること)で説明できると提案している。
大型ティラノサウルス類「ティラノサウルス・レックス」などは、大型で筋肉質、体重3.5トンなどの特徴を持つ。このような種は、成長を加速させる進化(過成熟化)によって、頭は大きく、歯が太くうなるなど“パワー型”に進化したと考えられるという。
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対して細身で浅い頭を持つ小型種「アリオラムス」などは、逆に成長を遅らせる進化(幼形成熟)によって、幼体的な特徴を成体になっても維持した“スピード型”だったと指摘。ティラノサウルス類の幼体は、体重750kg、長く浅い頭骨、薄い頭骨の屋根、扁平な歯、大腿骨よりも長い脛骨などの特徴を持つ。これはカンクウルウにも共通する。
研究チームはこれらをまとめて「この『時間差進化』が、のちにアジア大陸で両者が共存できた理由と考えられる」と説明。「アリオラムス類は中型のすばしっこい『メソプレデター』(中間捕食者)として、ティラノサウルス類は『エイペックスプレデター』(最強の頂点捕食者)として、それぞれ異なる生態的役割を担っていた」と提唱している。
この研究成果は、科学雑誌「Nature」に6月12日付で掲載された。
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