
2024年9月にスタートした北中米ワールドカップ・アジア最終予選は、ホーム&アウェーによる9カ月の戦いを経てようやく幕を下ろした。日本代表の成績は7勝2分1敗。本大会出場を決めたあとのオーストラリア戦で黒星を喫したものの、圧倒的な強さをアジアで示した。
さまざまな選手が活躍した最終予選のなかで、とりわけ目に留まった選手は誰だったのか。最終予選9試合を現地で取材した佐藤寿人氏に振り返ってもらった。
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今回の最終予選は、アウェーのサウジアラビア戦を除いた9試合を現地で見ることができました。個人的な感想としては、ワールドカップの出場権を獲得するのが一番の目的とはいえ、1年後に控える本大会を見据えながら、チーム強化も推し進められたという印象です。
最終予選だけではなく、その前からもそうでしたが、停滞することなくチームとしてのつながりが見られたのは、あらためてすごいことだと思っています。
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具体的に言えば、森保一監督は引き出しを増やす作業を行なっていました。攻撃的な3バックもそうですし、インドネシア戦では2トップにもトライしました。
次のワールドカップは参加国が増えることで、さまざまなタイプの国と対戦しなければいけません。格上だけではなく、前大会で敗れた(0-1)コスタリカのような相手と対戦する機会もあるでしょう。
したがって、ひとつのスタイルに固執せず、戦い方であったり、チームとしての引き出しを増やすことが勝ち上がるためには重要になってきます。そういう部分にもトライしながら、余裕をもって出場権を手にできたわけですから、あらためて今の日本代表は本当に強いチームだなと感じられました。
今回は編集部から「最終予選のMVPは誰?」というお題をいただきましたが、ひとりに絞るのは本当に難しいです。昨年の9月、10月、11月、そして今年に入って3月、6月と5つのシリーズがありましたけど、各活動でインパクトを放った選手はそれぞれ違っていたからです。
それでもあえて選ぶとすれば、ひとりは守田英正になるでしょうか。とりわけ最終予選前半の働きは見事でした。遠藤航とダブルボランチを形成するなかで、後ろと前をつなぐ潤滑油の役割をハイレベルにこなしていました。
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遠藤より前目に位置を取りながら、縦を選択するパス出しと、3列目から前線に厚みを加える動きで、攻撃のスイッチを入れていたと思います。また、セカンドボールを回収するための予測だったり、ポジション取りの質も高かったですね。
【守田の貢献度は本当に高かった】
アウェーのバーレーン戦(2024年9月10日/結果は5-0)では、押し込みながら得点が生まれないもどかしい展開となりました。しかし、守田は相手を見ながら前に飛び出し、ラインを剥がすような動きも見せていました。自身も後半に2ゴールを決めたように、3列目の選手とは思えない活躍を披露しました。
守備ブロックのズレを作る守田のアクションは、引いた相手を崩すひとつの要因になっていたと思います。常に前向きのアクションを起こせるのも、守田の特徴のひとつです。リスクを恐れず、前に人数をかけるプレーを選択したからこそ、日本は勢いに乗れたと思いますし、3連勝というスタートダッシュにもつながった。その意味でも、最終予選前半の守田の貢献度は本当に高かったと思います。
一方で、予選の後半は鎌田大地の存在感が際立ちました。最終予選が始まった当初は、クラブの環境が変わったこと(2024年7月にラツィオからクリスタル・パレスに移籍)で難しい部分もあったと思いますが、シーズン終盤はカップ戦の優勝に貢献するなど調子を上げていき、そのいい状態を代表にも持ち込むことができたと思います。
鎌田は卓越したサッカーセンスを備えていますし、チームがうまく回るような役割もこなすことができます。とりわけ新戦力の多かった今回の2連戦では、気の利いた位置取りを保ちながら、周囲を生かそうとする姿勢がはっきりと見えました。
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一方でインドネシア戦では2ゴールを奪ったように、決定的な仕事もこなすことができる。今回の最終予選では小川航基と並んで、チームトップタイの4得点をマークしました。しかも、大事な場面で結果を出す勝負強さも印象的でしたね。久保建英や南野拓実もすばらしかったですけど、アタッカー陣のなかでは鎌田が最高殊勲選手と言える存在だったと思います。
結果的に守田、鎌田とふたりを選びましたが、ほかにも遠藤、板倉滉、鈴木彩艶など、各ポジションで軸となる選手たちがワールドカップ出場に大きく貢献しました。
【佐野海舟はいろんな役割を担える】
また、早めに突破を決められたことで、最後の2連戦では新たな選手を試すことができました。そのなかからも既存の序列を覆すようなタレントの台頭が期待されるところです。
可能性を示したのは、佐野海舟でしょう。2試合ともにスタメン出場しましたが、そのパフォーマンスからはこのチームにいろんな選択肢を与えてくれる存在だと感じられました。
おそらく彼は、誰とコンビを組んでもスムーズにやれるタイプの選手だと思います。相手を潰せる部分もそうですし、次にボールをつなげていくところもそう。フリーランニングでスペースに入っていく動きも備えていますし、90分のなかでいろんな役割を担えるタイプの選手です。この2試合でクオリティの高さは見えたので、これから競争を促す存在になっていくのではないでしょうか。
また、前回のコラム(『サッカー日本代表はなぜゴールを奪えなかったのか 佐藤寿人「守備ブロックを動かす作業は9番の仕事ではない」』)ではストライカーにスポットを当てましたが、インドネシア戦を見ても、今の代表の9番のタスクは多岐にわたるとあらためて感じました。
その多くの役割を献身的に担った町野修斗も、今回の2連戦で評価を高めたと思います。背後を取るだけではなく、タイミングよく降りてきて2列目といい関係性を作っていましたし、サイドに流れてチャンスメイクもこなしていました。前向きの体勢を取れた時には、フィニッシャーとなり、目に見える結果も残しました。
もちろん得点を奪うことが一番の役割ですけど、求められるさまざまなタスクを安定してこなせていました。今後は森保監督の選択肢に十分に入ってくるのではないでしょうか。
佐野にしても、町野にしても、シーズンを通して強度の高い日々を過ごしたなかで、大きく成長を遂げたのだと思います。彼らには(よりレベルの高いクラブへの)ステップアップの噂も出ていますし、このふたりだけではなく、今夏には多くの選手が移籍する可能性があります。来年のワールドカップを考えれば、そのチーム選択も日本代表にとって大きなポイントになりそうです。
【まだ国内組との間には差がある】
また新戦力という意味では、7月に行なわれるE-1選手権も注目です。国内組が主体になると思いますが、今回の2連戦に選ばれた選手たちは継続的に選ばれる可能性が高いでしょう。鈴木淳之介は非常によかったと思いますし、ほかの国内組にとっても再びアピールの場となるはずです。
日本代表は海外組が中心となって久しいですが、前回のカタールワールドカップでは谷口彰悟が国内組でも十分にやれるところを証明してくれました。その前例は、Jリーグでプレーしている選手たちを勇気づけると思います。
一方で、やはり日常の経験が成長速度を上げていくためには重要です。今回の2連戦でもプレー強度や対人のところで、インテンシティの高い日常を過ごしているコアメンバーと、国内組との間には差があると感じられました。
もちろん、E-1を経験してメンバー争いに食い込んでいく可能性もありますけど、E-1で圧倒的なパフォーマンスを披露し、プレー環境を変えるくらいにならないと、簡単ではないのかなと思います。それだけの活躍を見せられる選手が現れるのか。E-1ではそこに注目したいですね。
【profile】
佐藤寿人(さとう・ひさと)
1982年3月12日生まれ、埼玉県春日部市出身。兄・勇人とそろってジェフユナイテッド市原(現・千葉)ジュニアユースに入団し、ユースを経て2000年にトップ昇格。その後、セレッソ大阪→ベガルタ仙台でプレーし、2005年から12年間サンフレッチェ広島に在籍。2012年にはJリーグMVPに輝く。2017年に名古屋グランパス、2019年に古巣のジェフ千葉に移籍し、2020年に現役を引退。Jリーグ通算220得点は歴代1位。日本代表・通算31試合4得点。ポジション=FW。身長170cm、体重71kg。