地下トンネル内に設置されている欧州合同原子核研究所(CERN)の大型ハドロン衝突型加速器(LHC)=フランス・エシュネベ(AFP時事) 欧州合同原子核研究所(CERN)は17日までに、大型ハドロン衝突型加速器(LHC)を使った実験で、鉛の原子核からごく微量の金が生成されたと発表した。ただ、わずか0.29ピコ(ピコは1兆分の1)グラムで、一瞬で他の粒子に分裂しており、「錬金術」とはいかないようだ。
物質を構成する原子核は陽子と中性子からなり、陽子の数(原子番号)によって元素の種類が決まる。鉛の陽子は82個、金は79個なので、理論上は鉛から陽子を3個取り除けば金になるが、原子核は強い力で結び付いており、引き剥がすには莫大(ばくだい)なエネルギーが必要になる。
東京大や広島大などの研究者も参加する国際共同実験「ALICE(アリス)」のチームは、LHCで光速近くまで加速された鉛の原子核同士が正面衝突せず、かすめるようにすれ違ったケース(ニアミス衝突)を分析。ニアミス衝突で生じた強力な電磁場により陽子が引き剥がされ、2015年から18年までの実験中に、計約860億個の金の原子核が生成されたことが分かった。
しかし、その質量は合計してもわずか29ピコグラムに過ぎず、不安定な同位体のため一瞬で分裂したり、装置に衝突したりして消えてしまったという。