AIエージェントの「価格破壊」は起きるか?

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2025年06月18日 07:41  ITmediaエンタープライズ

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UiPathのフェイラン・ハオ氏(製品戦略担当バイスプレジデント)(筆者撮影)

 このところITベンダー各社から商品化の発表が相次いでいる「AIエージェント」。さまざまな業務の自動化を自律的に進めることができる技術として、ユーザー企業の間では採用ムードが高まっている。それに伴い、ユーザーの目も「何ができるか」とともに「コストパフォーマンス」にも注がれるようになってきている。


AIエージェントの「価格破壊」は起きるか?


 こうした中、AIエージェントのコストパフォーマンスにおいて、ユーザーの新たな注目を集めるのではないかと感じた動きがあったので、今回はその内容を紹介して考察したい。


●コストが課題になりそうなAIエージェント


 それは、米UiPathの日本法人UiPathが2025年6月12日に日本市場での提供開始を発表した「エージェンティックオートメーション」ソリューションのことだ。


 従来、RPA(ロボティックプロセスオートメーション)の有力ベンダーとして成長を遂げてきた同社だが、ここにきて新たにエージェンティックオートメーションを打ち出している。


 おそらく、AIエージェントの活用が本格化するにつれて、ユーザー企業が価格面で悩む場面が出てくるだろう。そこで、UiPathのエージェンティックオートメーションがこうした悩みに応えるものなのかどうかを探り、筆者の見解を述べたい。


 まず、エージェンティックオートメーションとは何かを整理しよう。UiPathはこれまでのRPAを中心としたオートメーション技術の展開を「Act 1」(第1幕)、これからのエージェンティックオートメーション技術の展開を「Act 2」(第2幕)と位置付け、Act 2でAIエージェントに注力していくと表明した。ただし、この動きは同社にとってAct1からAct 2に移行するのではなく、両方を組み合わせたものだという(図1)。


 どういうことか。来日して発表会見に臨んだUiPathのフェイラン・ハオ氏(製品戦略担当バイスプレジデント)は、次のように説明した。


 「当社はAct1とAct 2の両方の機能を組み合わせることで、お客さまのさまざまな業務を自動化して生産性向上に貢献していく。エンドツーエンドの業務プロセスを自動化するには、そこに関わる個々のタスクを自動化しなければ成り立たない。また、定型的な業務において大事な情報をやり取りする際には、AIを使わなくても決まった作業を安全にこなす仕組みの方がいい。両方の機能を組み合わせれば、こうした柔軟で臨機応変に取り組めるようになる」


 ここで、改めてエージェンティックオートメーションとは何かを述べると、端的には「AIエージェントとRPAの連携による業務の自動化」のことだ。そうするとAct 2へ移行したように見えるが、「今後AIエージェントが主流になったとしてもRPAだけでこなせる作業はある」というのが、同社の考え方なのだろう。実はこの図1とその説明を聞いて、今回のテーマであるAIエージェントのコストパフォーマンスについて、ひらめくものがあったので、後ほど述べたい。


 UiPathのエージェンティックオートメーションの全体像は、図2の通りだ。ハオ氏によると、「業務のアクティビティからワークフロー、さらにはプロセスまで自動化する。そうした動きをAIエージェントが考え、ロボットが行い、人が指導するようになる」とのことだ。


 また、エージェンティックオートメーションの特徴については、「エンタープライズエージェントとして活用できる」「エージェンティックオーケストレーションが可能」「最高クラスのオートメーションを実現できる」「信頼できるクラウドである」といった4つを挙げた(図3)。


●「ブレンド」でユーザーの裾野を広げる効果も


 今回、UiPathが日本市場で提供を開始したソリューションは、エージェンティックオートメーションを実現するプラットフォーム「UiPath Platform for Agentic Automation」だ。日本法人の夏目 健氏(プロダクトマーケティング部 部長)によると、AIエージェントを構築する「UiPath Agent Builder」と、AIエージェントとロボット(RPA)、人を連携してオーケストレートできる「UiPath Maestro」から構成される。後者は、マルチベンダーのマルチエージェントに対応可能だ(図4)。


 UiPath Platform for Agentic Automationの内容については、発表資料をご覧いただきたい。


 夏目氏によると、グローバルでは既に先行ユーザーのユースケースも幅広い業務や業種で明らかになっている。図5は、業務別のユースケースの例だ。


 また図6は、業種別のユースケースの例だ。


●コスト面での悩み、AIエージェントとRPAの「ブレンド」で解消できるか?


 このように業務別および業種別のユースケースを紹介したのは、エージェンティックオートメーションの例として、AIエージェントだけでなくRPAも組み合わせた形で業務の自動化を図るケースだと見られるからだ。それぞれのユースケースについての説明はなかったが、こう見ていくとAIエージェントとRPAを組み合わせて最適化を図れる領域だと推察できる。


 もう読者諸氏もピンと来られただろうが、図1で示されたAIエージェントとRPAの組み合わせが、さまざまな業務の自動化による生産性向上という目的に対して、コストパフォーマンスの最も高い形でベストプラクティスを幾つも生み出せるのではないか。


 分かりやすく言えば、同じ業務を自動化する場合、AIエージェントで全てを実行するよりも、AIエージェントとRPAを組み合わせて無駄のない最適化を図る方がユーザーにとってのコストメリットが大きくなるのではないか。


 AIエージェントとRPAとを組み合わせた場合、AIエージェントだけで実行するケースよりも仮に「3割安くなる」とすれば、これはAIエージェント市場における「価格破壊」につながるようなインパクトがあるだろう。これは言わば「ブレンド」ソリューションなので、市場自体を壊すことにはならず、むしろユーザーの裾野を広げる効果があるのではないか。


 こうひらめいたので、会見の質疑応答で上記の説明を行った上で、UiPathがそうしたアクションを起こすつもりはないかと聞いてみた。すると、夏目氏は「そうしたコスト戦略について言及するのは難しいが、お客さまのメリットとして業務自動化に柔軟に取り組めることをアピールしていきたい」とのことだった。


 AIエージェントについて取材を進めるにつれ、ユーザーが今後、コスト面で頭を悩ませるケースが増えそうな気がしている。また、筆者はこれまで「RPAはAIエージェントに吸収される」と見ていたが、今回のUiPathの発表を受けて、むしろ「ブレンド市場」の方が大きくなるのではないかとさえ感じた。UiPathをはじめとしたRPAベンダーにとってはビッグチャンスだと思うが……。この動き、引き続き注視していきたい。


○著者紹介:ジャーナリスト 松岡 功


フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身。



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