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2025年06月18日 08:31 ITmedia NEWS
世界的なオールドコンデジブームが続く中、キヤノンのデジカメでは少し異なる現象が起きています。5年前に発売された現行モデル「PowerShot G7X Mark III」の中古価格が高騰し、一方で最新の「PowerShot V1」が登場。5年前の機種と最新機種が実質同じような価格となってしまっているのです。今回はこの2機種を比較しながら、スマホが当たり前になった時代のデジカメ市場とメーカーという点も考えていきます。
私もG7X Mark IIIは数年前から愛用していますが、昨今の中古価格高騰は異常です。2019年に約10万円で発売されたデジカメが、現在は18万円前後でやり取りされていて、某フリマサイトでは30万円を超える値付けを見たこともあります。
きっかけは、TikTokで海外の有名モデルが「ベストカメラ」と絶賛したこと。そこから世界的な品薄状態が続き、キヤノンの供給も追いついていません(現在受注停止)。とにかくタマ数がないので、中古でも高騰してしまっているわけです。
そんな状況下で登場したPowerShot V1は、これまでのキヤノンのコンデジとはまったく違うカメラです。センサーは1.4型で1型センサーの約2倍の面積。そして、このサイズはマイクロフォーサーズとほぼ同等の大きさです。
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つまり、V1に搭載された「デュアルピクセルCMOS AF II for PowerShot」というのはコンデジにマイクロフォーサーズをつっこんだカメラであり「キヤノンがマイクロフォーサーズカメラを作ったらこうなる」という理想形を具現化したような1台です。
このセンサーの採用により、被写界深度がいたずらに浅くならず、バランスの良い描写を実現。AF性能も優秀で、G7X Mark IIIと比較すると「超絶速く・かしこい」AFとなっています。
また、被写体追尾機能もありますから、速いだけではなく、“くいつくAF”になっていて、さすがに5年の差をいちばん感じる部分です。もちろん、暗所から明所への急激な変化にも素早く対応しています。
テストとして4Kタイムラプスも撮影してみましたが、ズームしても十分な画質があります。これまでのコンデジでは画質面でやりにくかったズームを使って、タイムラプスでも好きな画角を選ぶことができます。
●PowerShot V1は静止画もイケる高コスパモデル
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PowerShot V1は、Vlogカメラとして売り出された印象が強いカメラではありますが、ハードウェアとしてこれまでのコンデジとは段違いのものを搭載しているので、言うまでもなく静止画(静止画は最大2230万画素)も優秀で、今の技術だとコンデジでもここまでできるんだという驚きがあります。実際、使えば使うほど、よくこの値段で収めたなと思わせることが多く、高コストパフォーマンス機と呼んで問題ありません。
さらにPowerShot V1は、これまでコンデジでは熱問題から苦手とされてきた長時間の録画問題も冷却ファンを装備することで解決。4K/30pで2時間以上の撮影が可能になっています。
PowerShot V1はセンサーサイズが大きくなり冷却ファンも搭載した分、G7X Mark IIIより全体的に一回り大きくなっています。ただ、実際に手にしてみると重量と大きさのバランスが絶妙で、実際の重さは違えど、持った感覚はG7X Mark IIIとほぼ同等に感じられます。G7X Mark IIIの方が手との設置面積が減るので、手の大きさにもよりますが、人によっては、むしろ塊を持っているかのような感覚は強くなるかもしれません。
●G7X Mark IIIのアドバンテージは内蔵フラッシュ?
G7X Mark IIIは5年前のカメラですし、そもそも大きさも違うので、画質面などの性能ではPowerShot V1の圧勝です。とはいえ、G7X Mark IIIにもアドバンテージがないわけではありません。持った感覚は変わらないとしても、やはり小さなカバンにも収納できるコンパクトさは大きな利点です。
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そして、現在のG7X Mark IIIの世界での人気を支えているのが、内蔵フラッシュを使ったポートレート撮影のバランスの良さです。SNSで注目を集める理由がここにあります。筆者のG7X Mark IIIで撮影した「フラッシュ自撮り」を一応載せておきます。
このフラッシュ独特の光の当たり方と肌トーンのバランスが若い世代にはむしろ新鮮なんだそうです。これはずっとカメラを使ってきた世代には驚き(と懐かしさ)しかないのですが、この内臓フラッシュが中古価格高騰の要因になっているのですから、SNS時代、なにが受けるのか分からないものです。なお、PowerShot V1には内臓フラッシュはありません。
また、中古品が高価格でやり取りされているもう一つの理由として、キヤノンのコンデジの耐久性の高さも見逃せないポイントだと感じています。塗装は劣化しにくく、私のG7X Mark IIIは数年使用しても背面ディスプレイ以外(フィルムで保護しています)、ほとんどヘタレを感じません。つまり、G7X Mark IIIは中古品でも状態がいいことが予想できるのです。そのおかげで、ユーザーとしてはうれしいですが、メーカーとしてはわけわかんないことになっているのは皮肉なものです。
●熱対策の違い
両機種を長時間使用して特に際立つのが熱対策の違いです。G7X Mark IIIをWebカムとして使用すると、約30分で熱問題によりダウンしてしまうことが多かったです。一方、PowerShot V1は冷却ファンのおかげで1時間以上の継続使用でも本体はほんのり温かい程度で安定動作。コンデジをビデオ会議用のWebカムとして使う場合、この違いはかなり明確な差になってきます。
なお、PowerShot V1をWebカムとして使う場合、PCにUSB-Cケーブルで接続する前に、メニューから「USB接続アプリの選択>ビデオ通話/ライブ配信」を選択しておく必要があります。出力される動画は2K(1920×1080ピクセル)の30fpsとなります。また「Canon Digital Camera」として認識されるので、EOS Webcam UtilityをすでにインストールしているEOSユーザーはご注意ください。
カメラの世界では通常、新製品の方が高価ですが、現在のマーケットでは新しいPowerShot V1の方が場合によってはG7X Mark IIIの中古の方が安いか同等という皮肉な状況が生まれています。
カメラに限らず製品というのは、どこで火が付くのか分からないという宿命があり、SNS時代ではそれはメーカーからも見えにくくなっています。G7X Mark IIIの爆発的人気は、カメラメーカーとユーザーのトレンドが時にずれて発生することを示す興味深い事例となっています。またデジカメのような製造の難しい製品は急に需要が増えても、そんなにすぐに供給を増やせないというのも実態としてはあるのでしょう。
ただ、すでにご説明したようにSNSで評判となった製品には、なにか特定の用途に特化して優れているという場合があります。G7X Mark IIIが中古で高騰しているからといって、だれにとってもいいカメラであるとは限らないわけです。
PowerShot V1は最新センサーを持ち、冷却性能も兼ね備えた新世代のVlogカメラです。フラッシュはなく、大きくなりましたが、カメラの性能としては全方向に優れた性能を持っています。
そもそも、とりあえず写ればいいのであれば、スマホで十分ということになってから、それなりの年数が経過しています。そんな中、G7X Mark IIIとPowerShot V1が同等の価格になっているのは、単に需給のバランスの問題というだけではなく、カメラを性能だけで選ぶ時代ではなくなったことの象徴として見ることもできます。G7X Mark IIIに寄せられている、このフラッシュとこの大きさが最高なんだという意見は一笑に付す内容ではないのです。
カメラを作っている人たちのことを考えるとメーカー受難の時代だなあと思う反面、ユーザーとしては選択肢のあるカメラ人生を楽しむことができるおもしろい時代だなと思います。なお、私は手持ちのG7X Mark IIIをうまく売り抜けて、最新デジカメの資金にしたいと考えています。そりゃ、基本的には最新のカメラは最高のカメラですからね。
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