
子育て世代の声は、なかなか政治家には届かない。そのように感じたことはありませんか? 東京都品川区の森澤恭子区長も、子育て中に再就職の難しさや制度の使いにくさを実感したことから、政治の道を志したそうです。ママとして、区長として活躍する森澤恭子品川区長に、お話を伺いました。
子育て世代の声が政治の場に届いていない
― 森澤区長は、いま小学生と中学生のお子さんを育てていらっしゃるんですよね。子育てとお仕事、どうやって両立されているのでしょうか?
森澤恭子区長(以下、森澤区長): 毎日バタバタです(笑)。朝は、お弁当を作って、子どもを学校に送り出してから出勤。夕方スーパーで買い物をして、夕飯をつくる。家では「お母さん」、外では区長。スーパーで「区長!」と話しかけられることもあります(笑)切り替えながら何とかやっています。
― そもそもなぜ区長になろうと思われたのでしょうか?
森澤区長:「子育て世代の声って、政治の場にほとんど届いていないな」――そう強く感じたのが、政治を志すきっかけでした。
第1子を出産したあと、夫の留学に伴ってシンガポールに行き、正社員の仕事は辞めたんです。シンガポールは多文化社会で、さまざまな人が自由なスタイルで子育てをしています。「母親はこうあるべき」といった固定観念がなく、ベビーシッターを活用したり、家族と協力したり――どれも正解。私も外国人として暮らす中で、「もっとラクに子育てしていいんだ」と救われる気持ちになりました。
一方で日本では、政策決定の場に女性や子育て世代が少ないことに課題があるのではないかと考えたのです。女性や子育て世代の声が届いていないから、課題が課題のまま残っている。それであれば自分が立候補しようと考え、政治家になりました。
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帰国後に直面した「再就職の壁」
― いつ日本に帰国されたのでしょうか?
森澤区長:日本に帰国したのは、上の子が2歳、下の子が0歳7ヶ月のとき。「また正社員で働こう」と思って就職活動を始めるものの、現実は想像以上に厳しかったんです。
子どもを預けて働きたくても、フルタイム・残業前提の仕事ばかり、年度の途中だったこともあり保育園はなかなか見つからない。「子どもがいるだけで、こんなにも働きづらいのか」と痛感しました。
― どういった形で仕事復帰することになったのでしょうか。
森澤区長:結果的に、週3回の契約社員から働き始めました。上の子は認証園に入れましたが、下の子は0歳だったこともあり、認可外の保育園に。ビルの一室にある小さな園で、一駅電車に乗って送ってから通勤する毎日でした。仕事が終わって保育園に迎えに行って、スーパーで突然「うるさい!」と大きな声で怒鳴られて、衝撃を受けたことがあります。そんな日常のひとつひとつが本当に大変だったなと思います。そのような生活をしながら、「働きたいけど諦めてしまうお母さんも多いのでは」と感じるようになりました。
ママたちの声が届いていないなら、自分が届ける側になろう
― 当時の気持ちを、もう少し教えてください。専業主婦になる選択肢はなかったのですか?
森澤区長:「私は専業主婦には向いていないな、働きたい」と感じていました。でも現実には、「働きたい」と思っても、そこに至る道のりが大変で、再就職を諦めてしまう方も多い。そのときに、「子育て世代の声って、政治の場にほとんど届いていないな」と思ったんです。それで政治塾に入り、都議会議員選挙に立候補しました。子育てや介護など、生活に根ざした課題を、もっと制度づくりに反映して解決したかったんです。子育てや介護を担っているのはまだまだ女性が多いため、女性のほうが“制度の使いにくさ”に気づきやすいこともある。だからこそ、もっと女性が政治に関われる土壌が必要だと思いました。
― 森澤さんが区長に立候補して、実際に当選されたとき、お子さんたちの反応はいかがでしたか?

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女性首長は全国で4.1%。もっと女性が政治に関わる社会に
― 森澤区長のように、女性の首長がもっと増えてほしいと感じるママたちも多いと思います。
森澤区長:23区の中では、今は女性の区長が7人います。でも全国で見れば、約1,700の自治体の中で女性首長はまだ70人ほど、全体の4.1%です。とくに子育てや介護のような「日常の切実な課題」は、まだまだ政治の場には届きにくいし、優先順位が上がっていかないなと感じることはありますね。もっと女性が政治に関わっていくことが必要だと、私自身も思っています。
※取材は2025年5月に行いました。
取材、文・長瀬由利子 撮影、編集・編集部
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